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3.魔法入門

 『魔法とは即ち、創造である』


 『魔法入門』はそんな言葉で始まっていた。


 『魔法とはそもそも何なのか。魔法とは、魔力を用いて自身の意思で世界を強制的に改変する術のことだ。世界の法に手を加え、それに働きかけたり一時的に書き換えたりして事象を起こす。つまり魔法とは、自らの幻想で世界を塗り替えるものなのだ。また、そのことから魔導師は、彼ら自身が世界に対して優位性を持つかなり特殊な存在であると言われている。強力な魔法の使い手ほどその優位性が強いということだ。』


 …しょっぱなからかなり難しい。かなり簡単に言うと、魔法とはいわば筆のようなものなのだろう。世界というキャンパスに自分の想像(イメージ)という絵を描く。魔力はきっとその原料…絵具のようなものだ。筆を使うための燃料と解釈してもいいかもしれない。


 『そして魔法にはその『優位性』のほかに、改変する世界を具体的に想像する『イメージ』とそれを元に世界に働きかける燃料である『魔力』、それらを扱う『センス』が必要となる。これらのすべてが揃い、初めて魔法を使うことができるのだ。』


 イメージだけでも、魔力だけでもダメなのだろう。魔法を使うためには、生まれ持った『優位性』と魔力操作の『センス』という才能が必要不可欠なのだ。それが僕にあるのかどうかは、やってみないと分からない。


 そんな理論的な話が冒頭から延々と続き、それを読むだけで軽く1時間はかかってしまった。...この本、入門とか書いてあるわりに難しすぎじゃないか?前世の記憶がある僕でも理解するのに苦労した。専門用語も当然のように出てくるし、説明もかなり難しい言い回しでされている部分が多い。


 『まずは、魔力を感じてみることから始める。魔力は全身を循環しているエネルギーである。その循環の中心は魔力を生み出す心臓であり、魔力はそこから全身に巡っていく。それを感じ取るには――』


 と、ようやく実践フェイズのようだ。まずは魔力というものを感じ取る練習かららしい。

 『魔法入門』によると、魔力を感じるにはただひたすら瞑想を行うしかないようだ。魔力が全身を巡るイメージを思い浮かべ、それが感じ取れるようになるまで続けるのだとか。

 

 ……なんともふわっとしているというか、抽象的な話だ。一応5分ほどベットの上で目を閉じてみたものの、さっぱり分からなかった。座禅を組んでみたり正座したりして見たけど上手くいかない。当然だけど、そう簡単なものでもないらしい。


 「…となると、カギになるのはやっぱり『イメージ』ってことなのかな?全身を循環する、心臓を中心とした流れ……。あれ?これって」


 『魔法入門』を読み返していると、ふとあるイメージが浮かんだ。心臓を中心として全身を循環するもの。これと全く同じものを僕は知っている。


 血液循環だ。


 「魔力って血の循環と同じような感じなんじゃないか?心臓で生み出された魔力が血に乗って全身に巡ると考えると…」


 前世の中学校で習った理科の内容。酸素を運ぶ赤血球が『魔力』を一緒に運んでいるイメージで…。


 ドクン…ドクン…


 「!?」


 その瞬間、今まで感じたことのない感覚が全身を駆け巡った。

 熱い何かが、体の中を巡っている感覚。脈が、音が、振動が、確かに感じられる。熱が出たときのように全身が火照り、けれど実際には熱は一切ないという不思議な状態だ。そう、例えるなら全身を今まで感じられなかったなにか(・・・)が流れているような…。


 「なるほど…。これが魔力か」


 血液循環のイメージが良かったのだろう。今までさっぱりだったのが、今では当然のように魔力を感じられる。一度感じてしまえば、感じられなかったのが不思議なくらいだ。

 ちょっと一か所に集めたりできないかな、なんて思っていると、ほんのわずかではあるが魔力が動いたのが分かった。試しに右手を広げてその中心に魔力を集めようとして見ると、右手を循環していた魔力がほんの少しだけだが手のひらの中心に集まる。へぇ、面白い。


 しばらくそうして遊んだあと、再び『魔法入門』を読み進める。魔力を感じる段階が過ぎたら、もういきなり魔法を発動させる練習らしい。

 

 『魔力を感じることが出来たら、あとはもう実践あるのみである。』


 とか書いてあるし。


 「えっと…〈術式〉を使った発動方法。それから〈詠唱〉を使った魔法発動のやり方…と」


 それから読みふけること三時間。相変わらず長ったらしくまどろっこしい言い回しだったが、魔法の発動の仕方が分かった。

 魔法発動には、〈術式〉と〈詠唱〉の二つの方法があるらしい。


 〈術式〉は、『イメージ』を体系化された『記号』に置き換えて魔法を発動させる方法だ。前世でよくあった魔法陣とかがイメージに近いかな?超能力的にも思える魔法にもきちんとした法則や決まりはあるようで、魔法的な意味を持つ記号や図形、文字が存在するようだ。それらの組み合わせでイメージを表し、その内容を使用者が認識することで、イメージが不十分でも表した通りに魔法を発動させることができる。暗算できない人が紙に書いて計算すれば出来るのと同じようなものだと考えると少しは分かりやすい。足りない計算力(イメージ)書くこと(術式)で補うのだ。そして術式は、魔法の設計図でもある。見る人が見れば術式だけでその魔法がどんなものか分かる、と書かれていた。道具に魔法の力や効果を持たせる魔道具もこれを応用して作られているそうだ。

 そして〈詠唱〉。こちらは魔法言語と呼ばれる言語でイメージを表し言の葉に魔力と共に乗せる技法だ。〈術式〉が足りないイメージの分を記号などで補っているのに対し、〈詠唱〉はその足りない分を言葉にすることで補っている。この〈詠唱〉は代表的な魔法は詠唱もほとんどの人が同じものを使うみたいだ。前世では呪文とか言われてたやつかな。これには実は決まったものがあるわけじゃなくて、師から弟子へ受け継がれていくことでお決まりや定番の呪文が生まれていったらしい。ようはイメージ不足を補えれば言葉は何でもいいんだと思う。


 魔法使いは、この二つの方法を用いて魔法を使うのだそうだ。一般的に、上級者ほど詠唱を極め、まだ詠唱が未熟な者が術式に頼って魔法を発動させると書かれていた。


 「なるほどね…」


 分かったことをとりあえず紙(エリナに持ってきてもらった)に書き出して、『魔法入門』を閉じる。そういえば暗いな、と思って窓の外を見ると陽が沈み始めていた。どうやら今日はここまでのようだ。

 この世界では電気なんてものはないので、夜に何かを読んだり書いたりしようと思えば火が必要になる。流石にそこまではエリナも用意してはくれない。


 食事を取り(エリナに食べさせられて)、体を拭けばあっという間に就寝だ。この世界に来てからというもの、生活習慣が恐ろしいほどに整ったものになった。夜更かしなんてもってのほか、日が昇れば自然に目が覚める。前世からすれば実に感慨深い。


 ベットに入り、今日知ったことを思い返す。転生してから早くも十日。毎日寝る前にしている習慣だが、今日だけは少し気になっていることがあった。

 〈術式〉と〈詠唱〉。なんとなくだが、『魔法入門』を読んでみて理屈というか仕組みはおおよそ理解できた気がする。けれど、どうしても引っかかる。どうして…


 「…どうしてあの本の作者は、魔法の発動に必要な『イメージ』が足りないことが当然であるかのように書いていたんだ?」


 そう。魔法は、世界を書き換える『優位性』、改変する世界を具体的に想像する『イメージ』、それを元に世界に働きかける燃料である『魔力』そして、それらを扱う『センス』があれば発動できるはずだ。なのになぜ、〈術式〉や〈詠唱〉を使わないと魔法が発動できないのだろうか。


 結局この疑問は、今はここで呟くにとどめるだけになる。僕がこの疑問を再び追及するのは、これからまだ数年先のことだ。

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