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23.遭遇

 「…大丈夫?」

 「そう見えるか…?」

 「無理…もう無理だ…」


 王立学園二日目。登校して午前の授業を受けた僕たちは、昼食のために学食に集まって話していた。今日は数学(というか僕の中では算数なんだけど)の授業で、僕とステラは既に注文を済ませている。そして問いかけた僕の言葉に対するエルとアルの返事がこれだ。この机に突っ伏して煙を上げている光景昨日も見たぞ?まだ授業が始まって二日目なのに。


 「えっと…お二人とも大丈夫ですか?」

 「今日はそんなに難しくなかったでしょ?基礎の四則計算からちゃんとやってくれていたし、ついていけないほどじゃなかったよ」


 そう。エルとアルは昨日に引き続き今日も授業に付いて行けずにこうなっていた。僕の方を恨めしそうに見て力なく注文しに行く二人を見ながら、ステラと二人で顔を見合わせる。


 「今日の授業って難しかったかな?」

 「いえ、そんなことは…。ただ、リチャード先生は計算が早いですから、進行自体はかなりのスピードだったと思います」

 「そうだ…。あれは人間の計算速度じゃない…」

 「無理だって!なんであんな速度で計算できるんだよ!」


 と、二人が戻ってきた。今日はそんなに複雑な計算はしてなかったからそうでもないと思うけど。まあ、こっちの世界では計算ができるってだけでもすごいことらしいから、素早く暗算できるリチャード先生は異端なのかも。ステラも授業中は必死になって計算してたものなぁ。そう考えると、エルとアルも理解できなかったというより追い付けなかったってだけなのかも。僕?僕は大丈夫だった。感謝すべきは日本の義務教育だね。今時珍しく20×20まで暗記するよう教えてくれた()()()のおかげだ。


 「はぁ…。そんなことより昨日のこと話さないか?」


 アルが授業の話はおしまいとばかりに話題を変えた。エルも渡りに船とばかりにそれに乗っかる。


 「そうだな。俺とアルは昨日言った通り騎士学舎に行った」

 「へぇ。どうだったの?」


 僕もこれ以上は二人が可哀そうだったので乗っかっておく。うん。泣くのはテスト前だけでいいよね。


 「なんと言うか…実に厳しそうなところだった」

 「昨日は見学とかだけだったんだけどな~。やっぱあれだけの先輩たちが訓練してるのを見ると壮観だった」

 「訓練メニューも厳しかった。走り込みに始まって素振り、筋トレ、打ち合い稽古となかなかにハードだったな」

 「強そうな先輩多かったよ。ま、何人か来てないのもいたみたいだけどな」

 「へぇ」


 詳しく聞くと、二人が昨日行った騎士学舎はまさに体育会系って感じの学舎みたいだった。100人いる新入生の中でも30人以上は来ていたみたいで、所属している先輩たちの人数は100人を超えているらしい。騎士学舎だけで第一訓練場と第二訓練場を独占している大所帯だ。騎士っていうのは跡を継げない貴族家の男子にとって最高の職業って考えられてる人気職業だから、集まる人も多いんだね。実力次第では王家直属の王宮騎士になれるかもしれないし、そうなったら下手な貴族家当主よりも権威ある存在になれる。


 「基本的には先輩たちが俺たちに指導してくださるようだな」

 「そうなの?」

 「騎士学舎の先生は何人かいるらしいけど、昨日は一人も見なかったぜ?ま、オレらが連れていかれたのは第二訓練場だったからな。第一訓練場の方にいたんじゃねーの」


 所属生徒が多い弊害かもしれないね。どうやら全員が先生の指導を受けられるわけではないみたい。


 「あ、でもブルトは昨日から第一訓練場の方に行ってたぜ」

 「そうだったな。彼の取り巻き達も一緒だったか」

 「あれも権力と言うか、コネなのかね。ま、軍閥名門のお坊ちゃまだから」

 「俺たちは実力をつけて上がっていくしかない」

 「わかってるよ。こういうのには慣れっこさ」

 「なんか大変なんだね」

 「誇り高い騎士を育成すると謳っていても、実際はそんなものだ」

 「そーそー。オレらは下級貴族だし、いつものことだよ」


 いろいろあるみたいだけど、エルとアルには落胆した様子はなかった。きっとその程度のことには2人の言葉通り「慣れて」いるんだろう。実力だけがものを言う世界なんてこの世界にはほとんど存在しない。


 「ま、そんなことはいいや。それよりそっちは?魔法学舎行ったんだろ?」

 「うむ。魔法学舎は俺たちはよく知らないから興味がある」

 「あー。ごめん。僕は昨日は魔法学舎に行ってないんだ。用事があって」

 「そうなのか」

 「私は行きましたよ。今日はカナタ様も一緒に行くつもりです」

 「そうだったのですか」


 相変わらずエルとアルはステラには敬語になってしまうみたいだ。無理もないけど。


 「うん。だから楽しみなんだ」

 「今日はリーシェン先生が案内してくださるそうですよ。魔法学舎を取りまとめておられる方ですから、きっと色々なものを見せてくださると思います」


 そう聞くと俄然楽しみになってきた。リーシェン先生ってきっとあのクラス分け試験で見た美人の先生だよね。水色の髪の。まだ若そうだったのに学舎主任とはすごい。


 「それじゃあカナタとは今日も別行動だな」

 「そうだねー。オレとエルは今日も騎士学舎に行くし」

 「あれ、なら急がなくていいの?昨日はあんなに急いでたのに」

 「ああ。今日は訓練場が使える時間が決まっているからな。こうしてゆっくり昼食をとれるのだ」


 騎士学舎は基本的に座学というものが存在しないそうだ。もちろん教室や校舎はあるし講義もあるらしいんだけど、ほとんどが実践を交えてのものになるそうで。結果的に訓練場で行った方が段取りよく進むことになる。そのため訓練場が使えない日はほとんど活動できないし、校舎の教室も更衣室としてか荷物置き場としてしか使われていない。


 「それはよかったです。お二人とも昨日はすごい勢いで行かれてしまいましたから、これから毎日ああなのかと心配していたんです」

 「ご心配ありがとうございます。しかし私たちは騎士を志す者ですから、その程度のことは何でもありません」

 「その通りです、ステラ様。オレ――こほん。私たちは大丈夫です」

 「そうですか。でも昼食はきちんと食べてくださいね?今日のように時間があれば、ぜひご一緒しましょう」

 「…光栄なお誘いありがとうございます」


 …ふふっ。やっぱりエルとアルはステラ相手には硬い。ステラの方は気にしてない感じだけど2人の緊張は傍で聞いている僕にもばっちり伝わる。


 なんて話しながらゆっくり昼食をとっていると、食堂の入り口から誰かが近づいてきた。白のローブ姿の女性だ。入り口に背を向けて座っているエルとアルは気が付いていないみたいだけど、ステラはすぐに気が付いた。


 「リーシェン先生?」

 「こんにちは、ステラ。それにそのお友達も」


 そう。近づいてきていたのは魔法学舎のリーシェン先生だった。ここまで近くで会うのは初めてだけど、水色の髪と瞳が綺麗な美人さんだ。特に髪は透き通るようで、きっと世の女性の多くが羨むはずだ。大人っぽくて理知的な美貌が強調されてる気がする。ちょっと耳がとがっている気がするのは気のせいかな?


 「こ、こんにちは。リーシェン先生」

 「こんにちは。リーシェン先生」

 「ええ、こんにちは」


 と、エルとアルが慌てて挨拶を返していた。エルがちょっとどもってる。…あれだよね。エルは美人さんに免疫がないよね。アルは遊んでるっぽい雰囲気通りそれなりにはできるのに、エルはステラやリーシェン先生に対して明らかに緊張度合いが高い。

 おっと、いけない。僕も挨拶しないと。


 「はじめまして。リーシェン先生」

 「会うのは初めてではないけれど、そうね。きちんとお話するのは初めてかしら。カナタ=リナリアくん。私はリーシェンよ。知っていると思うけれど、魔法学舎で教師として働いているわ。そっちの2人も、名前を教えてもらってもいいかしら?」

 「は、はい。エルリック=ベーヤと申します」

 「アルフェ=ブラートです」

 「そう。よろしくね。エルリックくんとアルフェくん」

 「ところでリーシェン先生。どうされたのですか?魔法学舎へお伺いする時間はまだのはずですが」


 自己紹介が済んだところで、ステラがリーシェン先生に用向きを尋ねる。


 「ええ。でも少し時間が空いたから、ステラの友人っていうのが気になって見に来たのよ。本当に友人が出来ていたのね…」

 「ど、どういう意味ですか」

 「言っていいのかしら?」

 「…言わないでください」


 …すごい気安そうな仲だった。ステラってもっとお嬢様っぽい感じかと思ってたけど、そうでもないみたい。ていうかあのお嬢様然とした姿の方が仮面なのかな。魔法について話すときとかすごい勢いだったし、もしかしなくてもあっちや今の赤面してる姿の方が素だったりして。


 「そして君が…カナタくんね」


 不意に僕の方をじっと見てくるリーシェン先生。どうしたんだろう?


 「なにか?」

 「…いいえ、なんでもないわ。それより、貴方がクラス分け試験で見せてくれた魔法は素晴らしかったわ。魔法学舎に来てくれるなら、私は大歓迎よ」

 「ありがとうございます」


 なんかよく分からないけど評価してくれてるみたい。これでもし他の学舎に行けなくても魔法学舎には入れるかな。まあ、他に入りたい学舎があるわけでもないんだけど。


 「ところで。カナタくんは、魔法は誰に習ったのかしら?良ければ師のお名前を聞かせてくれると嬉しいのだけど」


 と、いつの間にか向かいの席に着いて身を乗り出してくるリーシェン先生。いきなり隣に座られてエルが挙動不審になってる。アルは我関せずのつもりか一心不乱に食べてるし。あ、エルも一気にかきこんだ。


 「えっと、師ですか」

 「ええ。お名前や得意魔法、研究テーマなんかも教えてくれると嬉しいわ。もちろん、話せる範囲でいいから」


 この人、さては魔法のことになるとステラみたいになるタイプなのか!?

 すごい勢いで聞いてくるリーシェン先生。そしてエルとアルはそんな捕まったら大変そうな雰囲気を読んで「それでは、自分たちはこれで」と言わんばかりに昼食を済ませて席を立って行った。くそう。今度覚えとけよ…。ステラ?ステラは興味津々でリーシェン先生と一緒になって身を乗り出してる。


 「と、とりあえず魔法学舎に行きませんか?ほら、ここでは他の人の邪魔になりますから…」


 僕はそう言うので精一杯だった。

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