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22.報告

 襲ってきた男子生徒たちからすたこらさっさと逃げたあと、僕はその足でお屋敷に戻った。いつも通り食事も終わり習慣になった読書をしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。お茶を入れていたエリナが無言でこっちを見てくるので、入ってもらうようにうなずく。それを見てエリナは扉に向かって行った。

 こういった仕草は王都に来てからグラーフさんに礼儀作法の一環として教え込まれた『貴族らしい』振る舞いで、使用人を使うことに慣れさせるためのものだそうだ。僕は基本的に自分でなんでもやろうと思うのだけど、それは貴族としてはよくない事のようでグラーフさんにやめるように言われている。一応僕は貴族ではないんだけどと言っても聞いてもらえず、仕方なく慣れないこともやっているというわけだ。エリナは僕にそうして使われるのが嬉しいみたいでいつも上機嫌で指示に従ってくれるけど。


 とにかくそうして待っていると、エリナがグラーフさんを連れて入ってきた。僕は読んでいた本を置き、グラーフさんに対面の席を勧める。


 「カナタ様、グラーフ様がお越しになられました」

 「わかった。エリナはグラーフさんのぶんもお茶を入れて。グラーフさんはこちらへ」

 「カナタ様、失礼いたします」


 エリナはお茶を出すとすぐに僕の後ろに控え、気配をできるだけ薄くする。主と客人の邪魔をしないようにだ。こうした従者としての行いを彼女は屋敷のメイドさんから習っているらしい。


 「カナタ様もエリナ殿もだいぶ振る舞いが様になるようになりましたね」

 「意地の悪いことを言わないでください、グラーフさん。付け焼刃なのはご存じでしょうに」


 「ほっほっほ」と笑うグラーフさんに言いながら僕も苦笑する。実際、エリナはともかく僕は様になっているとは言えないだろうしなぁ。主人としては徹底的に威厳とかそういったものが足りていない。僕はあの『お姫様』とは違うのだ。


 「さて、カナタ様もお忙しいでしょうしさっそく本題に入らせていただきます」

 「はい」

 「今日の夕刻の件です」


 その言葉に、僕はすぐにそれがステラと別れたあとの男子生徒たちのことだと察した。グラーフさんも僕が察したことに気づいたようで、頷く。


 「やっぱり、監視が付いていたんですね」

 「お気づきでしたか」

 「気配がしましたから。あの8人はお粗末でしたけど、3人はなかなか察知できませんでした」

 「おや、新人の二人はともかくベラにも気づいておいでとは!」

 「少し離れたところにいた女性の方ですよね?あの人は最後まで気が付きませんでしたよ」


 実はあの場には僕と8人の男子生徒だけじゃなく、他にも人がいたのだ。僕が気がついていたのは2人だったけれど、最後の〈閃光玉〉のときに気配が揺らいだので3人目の人にも気が付けた。敵意はなかったので、たぶん『お姫様』関連だと思っていたけどやっぱりだった。


 「断りもなく申し訳ございません」

 「いいですよ、気にしないでください。たぶん『あの方』からの心遣いでしょう?実害もありませんでしたし」

 「そう言っていただけると助かります」


 無断で監視のような者を付けていたことを謝られるけど、別に気にしてない。グラーフさんは悪くないし、言った通り害はなかったからね。むしろ、問題を報告する手間が省けたし。


 「それで、『あの方』に報告は行っているんですよね?」

 「はい。主様は現在その件で出られております。背後関係を含めて調べておいでです。原因はおそらく貴族特有の増長と嫉妬だとおっしゃっておられました」

 「でしょうね」

 「近いうちに主様が手を打たれるそうです。ご安心ください」

 「ありがとうございます」


 さすが、行動が早い。彼らも不運なことだ。変な見栄や意地で僕みたいなのに突っかかってしまったばかりにあの人を敵に回してしまうなんて。きっと恐ろしいことが待っているに違いない。彼らの無事を祈ろう、うん。


 「どうでございましたか、王立学園は」


 そしてそれで本題は終わったのだろう。世間話に移行したグラーフさんに僕も笑って返す。


 「楽しかったですよ。授業は多少物足りないものもありましたが、友人も出来ていいスタートがきれたと思います」

 「それはよかったです。ご友人はどなたですか?」

 「ベーヤ騎士爵家のエルリック=ベーヤとブラート騎士爵家のアルフェ=ブラートです。リーンバーグ子爵家のステラ=リーンバーグさんとも今日は仲良くなれたと思います」


 一瞬隠そうかとも思ったけど、監視が付いていたのだからと話してしまうことにした。エルやアルが僕のせいであの『お姫様』に目を付けられる(いい意味でも悪い意味でも)のはちょっとかわいそうだけど。ステラのことは一応「さん」付けで呼んでおくことに。ほら、本人はああ言ってたけど一応子爵家のご令嬢だしね。


 「ほほう。ステラ=リーンバーグ様とですか。魔法の才媛と名高いあの方と。魔法についての話が盛り上がりましたか?」

 「えっと、まあそんな感じです」


 一方的にステラが盛り上がって話しかけてきただけだけど一応間違ってはいない。ほんとに、なぜあそこまで好かれてというか気に入られてしまったのか…。


 「あの方の魔法の師であるクリムト氏はかつて王宮でも魔法を教えていた一流魔導師ですから、きっとステラ様はカナタ様の魔法に何かしらの大きな魅力を感じられたのでしょう。ステラ様はクリムト氏の魔法だけでなく、その性格や好奇心まで受け継いだと評判ですから」

 「そうなんですか」

 「はい。クリムト氏も若い頃は気になることがあれば寝食そっちのけで研究に励む典型的な研究者だったと聞いております」


 確かに、試験の魔法を見たからと言って今日さっそく僕に話しかけてきたあのステラの行動力はそれに通じるものがあるかも。


 「それで、明日は魔法学舎の見学に誘われました」

 「魔法学舎でございますか。素晴らしいですね。ぜひ、楽しんでいらしてください」

 「ちょっと不安ですけど」

 「大丈夫でございます。カナタ様なら間違いなくなんの心配もいりません」


 魔法についてはほぼ完ぺきに独学だから不安なんだけどな。にこにこ笑うグラーフさんに断言されて、僕は明日の放課後、魔法学舎に行ってみることに決めた。


 なお、その後。黙って聞いていたエリナから「夕刻の件とはなんですか」「監視ってどういうことです」「ステラ様とはいったいどのようなお嬢様なのでしょうか」などと色々問い詰められた。うん。頑張って誤魔化してベットに逃げ込んだけどね。エリナにはなるべく心配はかけたくないから。

 

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