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21.5.報告

前半は新しい人視点、後半はお姫様視点です。

 「…そう」


 私の報告を聞いた後、主様が零されたのはその一言だけだった。けれど私はその一言に背筋が震える思いがした。その瞳が、美しい碧の瞳が恐ろしいほどに冷たい光を宿しているのを見たからだ。後ろに控えている新人2人も私の緊張を悟って体を固くしている。2人はまだ未熟もいいところだけど、それなりに経験もある部下だ。きっと直感で感じているんだろう。

 私はよく知っている。目の前におられる可憐な容姿の主様が、どれだけ冷たく恐ろしい刃を秘めているのかを。


 「その8人、身元は分かる?」

 「はい。いずれも名のある貴族家の子息でした。全員王立学園の生徒で、うち4名は上級生。4人とも3年生でした。残りは新入生で、全員が2組に所属しています」


 そう答えて、各人の名前や経歴などが書かれた調査書を主様に差し出す。それを主様は一瞥して机の上に置かれた。そのまま何事もなかったかのような動きでお茶を飲み、息を吐く。

 きっとそれで主様の中ではその話は終わったのだろう。


 「それで、今日一日見ていてどうだったかしら?」


 別のことを聞いてきた。もっとも、内容は仕事の範疇だったが。仕草で応えるようにうながされ、口を開く。


 「は、それ以外には大きな問題はありませんでした」

 「そうじゃなくて。あの子の能力とか印象についてよ」

 「し、失礼いたしました」


 呆れたように言われて慌てて考える。その間に主様は後ろの2人に話を振る。


 「ベラは後回しにするわ。あなたたちはどうかしら?直答を許すわよ」

 「ありがたき幸せ。率直に申し上げますと、特に何かがあるようには見受けられませんでした」

 「自分もです。尾行に気がついた点や襲撃から逃げる手際は良かったですが、それ以外は別段…」

 「そう。ベラ、貴女は?」


 そう言われて、どう答えたものか一瞬思案する。はっきり言って、見ていた限りでは2人の言うように特に何かがある様子ではなかった。しかしなぜかそうは思えない。悩んだ挙句、私は自分の感じたことを隠すことなく述べることにした。


 「特には…と申し上げたいところですが、私にはあの方――カナタ様が普通の少年には見えませんでした」

 「まぁ、あの容姿だものね…。遠目だったら余計にキレイな女の子にしか見えないでしょう?小さいし」

 「い、いえ。そういう意味ではなく」


 たしかにあの少年は類まれな容姿をしていたが、私の言いたいのはそこではない。


 「…カナタ様からはどこか、得体のしれないものを感じました。なんと申し上げればよいか分かりませんが…」

 「不気味だった?」

 「……そうですね。言われてみればそんな感じです」


 はっきりとしない漠然とした不安感、と言えばいいだろうか。年相応に色々な意味で見えないし、容姿も異端。能力も高く、恐ろしい。しかしそれだけではなく、何処かしら彼は自分たちとは大きく違う存在ではないかと思えてならない。そう、例えるなら人間が触れていい存在ではないかのような。目の前の主様に対するのとはまた別種の畏れを感じるのだ。


 「申し訳ございません。あやふやなことを申しました」

 「いいのよ。むしろ感心したわ。流石はベラね」


 そう言って、主様は私たちを下がらせた。部屋を辞し、緊張感から解放されて一息つく部下二人を尻目に、私は今回の任務について、そして監視対象であるカナタ=リナリアについて改めて考えを巡らせた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「……本当に、いいカンしてるわね」


 ベラと彼女の部下を下がらせた私は、さっきのやり取りを思い出してそう呟いた。目の前の机上には数枚の資料が置かれ、そこには数名の貴族子弟の名とプロフィールが記されている。ベラが置いて行ったものだ。


 ベラは私直属の諜報部隊の一人で、それなりの古株にあたる。実力、忠誠ともに問題なしと判断して私が直接報告を許している数少ない部下の一人でもある。それなりの手間と金を使いとある部隊から引き抜いてきたけれど、それに値する実力の持ち主だと私は思っている。現に、今日の報告でもそれを再確信したところだ。


 あの子――カナタ=リナリアの底知れなさを感じられるというだけで十分に評価に値する。彼女には間違いなく天性のカン、もしくはそれに匹敵する観察眼、人を見る目があるという証左なのだから。


 私は初めて会った時、一目見て分かった。あの子が、カナタ=リナリア(あの時はまだリナリアの名はなかったけれど)が普通の人間の枠に収まる存在ではないと。

 その容姿、心地よい声に魅せられたことは認めよう。けれどそれ以上に、私の中の本能が強く警鐘を鳴らしたのを今でも鮮明に覚えている。そう。かつてないほど切実に訴えたのだ。この子は敵に回すべきではない、と。敵にすれば間違いなく、私の未来は明るいものにはならないことが確信できたのだ。


 「そう考えるとこの子たちは哀れね。あの子を敵に回すなんて、愚行以外のなにものでもないわ」


 机上の紙をめくる。昼にあの子を襲撃したらしい生徒たち。全員が貴族の子弟で、中でも特にプライドや自尊心が高いことで有名な者たちだ。そういった輩に限って社会的権力を持ち合わせているのだから質が悪い。そのくせ実力や資質は三流以下の小物ばかり。


 「いっそのことこの際いっぺんに……あら?」


 「掃除しようかしら」などと考えていると、最後の2人の名前が目に映った。メンバーから察するに彼らのリーダー、まとめ役に当たるであろう2人。実力も確かにこの中では頭一つ抜けているだろう。

 けれど私はそこではなく、その2人の素性に思わず声を漏らしてしまった。なんと言えばいいのかしら?あの子もなかなかに因果な星の下に生まれついているようね。


 「……まさかあの二人のほうから接触があるなんて。いえ、報告を聞く限り知らないうちでの接触かしら?まったく、面倒ね」


 資料の最後にはアラク=デイブレイクとゴルテ=デイブレイクの名前が記されていた。

長らくお休みしました。今後もちょくちょくこんなことがあると思いますが、ご容赦を。

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