表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/33

21.襲撃

 ステラと別れて歩くこと数分。僕はあえて人気のない方向に向かって歩いていた。一応学園の敷地内からは出ていないから、方角的には三つある訓練場の中で一番小さい第三訓練場の方だ。第三訓練場は普段はあまり使われていないようで、近づくにつれて人通りも気配も少なくなっていく。


 やっぱり、当たりかな。


 あまり当たってほしくなかった予感だったけれど、第三訓練場の裏手まで来たときそれが当たってしまったと確信した。

 周囲に広がっているまばらな気配。ため息をつきながら僕は、それらに向かって告げた。


 「僕に何か御用でしょうか?」


 その瞬間、周囲に広がっていた気配の多くが大きく動揺した。そのまましばらく待つと、訓練場の陰から数人の男子生徒が姿を現した。全員が大柄で腰に剣か杖を持っている。見知った顔はほとんどないけれど、いくつかは見たことのある顔もあった。体の大きな生徒も混じっているから、たぶん上級生だろう。全部で8人。中でも特に、中心に立つ二人の男子生徒はなかなかに貫禄がある。二人ともどこかで見たようなくすんだ赤髪だ。兄弟かもしれない。一人はその中で唯一ローブと杖を装備している。


 「よく気づいたな」

 「そりゃ気づきますよ。あれだけ分かりやすく気配を放っていれば」


 話しかけてきたのは、赤髪の男子生徒のうちの片方だった。背の高い方で、ローブ姿のもう一人に比べてやや肩幅も広い。胸板も厚く、既に成人(この国での成人は16歳)していると言われてもまったく違和感がない容姿だ。


 「…分かりやすく、だと?」

 「はい。じつに剣呑で感じやすい気配でした。視線が突き刺さらんばかりでしたよ?」


 彼らの気配は、まるで視線そのものに敵意を込めているといっても過言ではないようなものだった。姿は見られないようにしようと注意していたみたいだけど、正直言ってあれに気が付かない人なんているのかってくらいわかりやすかった。まあ、だからこそ、こうやってわざと一人になって出てくるように仕向けられたんだけど。

 気配以上に分かりやすく敵愾心のこもった視線と表情を見せる8人と相対しながら、僕は小さく小首をかしげて見せた。


 「一応お聞きしますが、自己紹介は必要でしょうか?」

 「…いい度胸だな」


 あら。バカにしたつもりはなかったけど、どうやら相手を刺激してしまったみたい。全員がより殺気立った表情になってる。よく見れば相手の全員がどこかしらに値打ち品と分かる装飾やらアクセサリーやらを身につけている。高位貴族家の人たちだ。礼儀にうるさいって噂で聞いたことがあるし、それで気に障ったのかな?


 「自己紹介なんぞいらん。下賤な平民の名など聞く価値もない」

 「そうですか。あ、あなた方のお名前はぜひ聞かせてください。僕、初対面なので分からなくて」

 「…お、俺の名前を知らないと?」

 「はい」


 あれま。さらに怒らせちゃったみたい。でも、ほんとのことだし。同じクラスでもなければ、名前なんて知ってるわけないのに。


 「…ものを知らん下賤はこれだから嫌いなのだ。まあいい。気高き我が名は平民なんぞに名乗るのももったいない。用件だけ言ってやろう」


 そう僕を見下ろしながら言ったのは最初に口を開いた赤髪巨漢の男子生徒だ。他の面子は話の間に、ゆっくりと僕を包囲するような形で周りを固めていた。8人いるから八方位すべてに人がいる。

 それを見て自分たちの絶対優位を確信したんだろう。正面の赤髪巨漢の男子生徒は今まで以上に見下す視線を隠さずに僕を物理的にも見下して笑った。


 「お前のような下賤にこの王立学園は相応しくない。とっとと立ち去れ」

 「それは、退学しろということですか?」

 「そうだ。今すぐ退学届けを出してこの学園を出ていけ。身分を弁え教室の隅で学ぶくらいであれば見逃してやってもよかったが、どんな手を使ったのか知らんが我々貴族を差し置いて1組で学ぼうなど不届き千万!クラス分け試験では汚い手を使って我々の同士に恥をかかせたとも聞く。おまけにお前のような輩が気高き高位貴族であられるステラ=リーンバーグ殿に近づくなどおこがましい!お前のような下等な平民などが言葉を交わすなど、身の程を弁えぬ愚行と知れ!」


 どうでもいいけど、よくこんなにいっぺんに喋って息が切れないなぁ。嫌味はつらつら出てくるし、よくもまあここまで考えたものだと感心しちゃうよ。

 とにかく彼らは、僕が1組に入ったのが気に入らないようだ。上級生っぽい人たちはともかく、他の人たちは1組に入れなかった新入生かな?聞く限りだと実技試験でブルト=ケルテンに勝ってしまったのもよくなかったみたい。でも、あれは試験だから別に怒られることしてないと思うんだよね。ルールは守ってたし。それで極めつけは今日のステラだね。まあ、クラスでもいろんな人が彼女にアピールしてたし、平民である僕が彼女と親しくしてれば貴族の彼らからしたら面白くないんだろう。なんとなくこうなる日が来るんじゃないかなとは思ってたよ。まさか今日その日にとは思わなかったけど。

 上級生まで連れてきて…。王立学園の生徒っていうのは存外暇なのかな?


 「おい、聞いているのか!」

 「…あ、はい。聞いてますよ」


 なんて考えてたら反応がおざなりになってしまってたみたいで、目の前の生徒は嘲りの笑みをまた憤怒の表情に変えていた。


 「ふん!なら、分かったな?とっとと退学届けを出しに行け」

 「あー、ちなみにそれ、断ったら?」

 「別に構わんぞ?ただ、その時は明日から強制的に学園に通えなくなっているだけだ」


 その言葉に合わせて周りを囲んでいた全員が腰の剣と杖を抜く。これは実力行使に出るぞという威嚇だろう。


 さて、どうしたものかな。

 話を聞きながら考えていたけれど、ここで「退学します」というだけ言ってもたぶん逃げられない。なにせ明らかにただで帰す気がないんだもん。これは僕がなんて言おうがお構いなしに痛めつけようとしている。それはちょっと嫌だなあ。かと言って、ここで断っても同じ結果になるだけだ。彼らはそれを理由に遠慮なく攻撃してくる。大人しく従っても遠慮なんてしそうには見えないけど。

 というかまず、前提として僕は退学してもいいのだろうか?個人的にはそこそこ楽しそうではあるけど、正直こんな面倒ごとが今後も多いなら別に退学してもいいかなぁ、と思う。でも。あの『お姫様』が果たして退学を許してくれるか?答えは『否』。一回しか話してないけど、あの目をした人のことはよく知ってる。そう簡単に退学して逃げることを許してくれるような人ではない。断言できる。そして、あの目を持つ人に逆らうなんて絶対ありえない選択肢だ。

 なら結局、僕にここで選べる選択肢は一つしかない。


 「で、どうする?」

 「あー、えっと。お断りします、ということで」

 「…そうか。なら――」


 まさか「あとからお姫様になにされるか怖いので」なんて言えず。でも結局は要求を突っぱねるしかないのだからちょっと悲しい。


 「――死ね!」


 そしてこうやって八方から襲い掛かられるのも。ほんと、僕が何をしたっていうんだ。

 そんなままならない悲しみを抱きながら、とりあえず真正面から襲ってきているさっきまで話していた先輩(らしき人)にむかって突っ込む。それなりに包囲網は広かったので、とりあえず一人に向かっていけば数瞬は他に人の攻撃は受けない。


 「うおらぁっ!」


 大柄な体躯を活かして上から振り下ろされてくる剣。力も外見通りかなり強いみたいで、身体強化の魔法は使ってなさそうなのにそれとそん色ない速度と威力だ。身体能力任せに見えるけど、きっとそれなりのセンス、というか才能があるんだろう。


 その普通に受けたら本当に殺されそうなそれを、とりあえず横に身をひるがえして躱す。速いとはいってもそれはあくまでも身体強化なしでの話。こっそり話しながら身体強化していた僕からすれば普通に躱せる速度だ。それに、大上段からの振り下ろしっていうのは結構よけやすい。威力は高いけど、全力で振り下ろすそれは途中で止めたり軌道を変えるのが難しいからね。それができるように力を抜いているとすぐばれるし、意外と使いにくいのだ。


 「なにっ!?」


 躱されたことに驚いて声を上げる赤髪巨漢(もうめんどくさいしそう呼ぼう)。勢いよく剣を地面に叩き付けたせいで動きが止まっている。すり抜けたことで包囲網からも脱出できたしこのまま逃げちゃおうかな、なんて思っていると。


 「“集え雷よ 鋭き鏃となりて 過たず我が敵を射貫け”……〈雷矢(サンダーアロー)〉」


 もう一人の赤髪の先輩(こっちは赤髪ローブにしよう)から魔法が飛んできた。推測するに攻撃魔法、それもクラス分け試験でステラが使っていたものによく似た魔法だ。あれよりも詠唱が長かった気がするけど、たぶん同系統の魔法で間違いないはず。ステラのは氷でこっちは雷だけど。


 慌てて横っ飛びして地面を転がる。目標を失った魔法は地面に当たり、そこを小さなクレーターに穿つ。うわ、雷だからか煙も上がってる。どう考えても人に向かって躊躇いなく撃っていい魔法じゃないよね?


 「チッ、外したか」

 「危ないなぁ。当たったら怪我じゃ済みませんよ?」

 「ハッ!何をとぼけたことを。下賤な平民が一人死んだところでどうということはないではないか」


 そんなことを言いながら次々魔法を連射してくる。全部躱すけど、さすがに躱しながら逃げるのは難しい。既に他の7人は体勢を整えて僕を追ってきていた。地面を強かに打ち付けていた赤髪巨漢も怒りの形相で迫ってきている。…仕方ない。


 「〈閃光玉(フラッシュ)〉!」


 僕も魔法を放って対抗する。強い光を生み出すだけの魔法、〈閃光玉〉だ。イメージでは前世でテレビとかで見たことがあるスタングレネード。音はないけど、目をくらませるだけで十分だ。


 「ぐわっ!?」「なんだ!」「眩しいっ!?」「目があぁーっ!?」


 僕を必死の形相で睨んでいた7人、そして僕に魔法を放たんとしていた赤髪ローブも全員揃って目をやかれる。失明はしないレベルの威力にしたはずだからたぶん大丈夫だけど、当分は動けないに違いない。


 僕からの反撃を恐れて蹲る彼らに背を向け、僕は一目散にその場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ