18.クラス分け3
エルとアルのおかげでなんとか気持ちを立て直して、次の魔法試験の会場に向かう。今度の会場は魔法学舎で、僕たち以外のクラスの人たちも集まっていた。
魔法学舎は、他の学舎と違って魔法実技場と呼ばれる施設が隣接している。普通の校舎の横に大きめの体育館がある感じだ。もちろん板張りの床じゃなくて地面だし、さっきの訓練場に屋根を付けて一回り小さくした感じの建物だ。魔法の実験や試し打ちを行うための施設で、内側の壁には魔法防御用の特殊な加工がされているらしい。僕たちはその魔法実技場に集められていた。
「やあ、よく来た諸君。ここでは魔法の試験を受けてもらう」
そしてその前に立ってしゃべっているのは、なんと入学式でも挨拶していたクロウ学園長だ。なんでも彼がこの場に来ることは毎年の恒例だそうで、試験している生徒を見て回るそうだ。試験自体は他の魔法学舎の先生が行う。
「内容は簡単だ。各自、自分の使える魔法を自由に使ってくれればいい。的が必要なら用意するし、発動に必要なものがあるならそれも出来る限り用意しよう。杖も好きなものを使ってくれて構わない。とにかく、自分の出来る最高を見せてくれればいい」
「期待している」と言い残してあっさりと壇上から去るクロウ学園長。文字通り視察が目的みたいで、そこから先の進行はリーシェンという名前の女性教師が引き継いだ。
僕たちはまず、自己申告で魔法を使える者、使えない者に分けられた。使えないと申告した人たちは魔力の測定と魔法に対する適性を見るために魔法学舎の方に移動する。そこで魔力を感じられるかどうかなどを確認して今後の期待値を見るんだそうだ。エルとアルはこっちで、「頑張れ」「じゃ、行ってくるよ」と行ってしまった。
そして残った「使える」と申告した人たちは、この場で魔法の実演を先生たちの前で行うことになる。僕はこっちなんだけど、見れば残っているのは僕を入れて15、6人だけだった。新入生は100人くらいだったので、全体の2割もいない。
こうして見ると、魔法を使える人って思った以上に少ないんだな…。
「これだけですか?では、順番に魔法を見せてください」
リーシェン先生は僕たち残った生徒を見渡すと、端っこにいた女子生徒を指名して残りの生徒を下がらせた。僕たちには順番札が別の先生から渡され、その順番に並ぶ。んげ、僕15番なんですけど。もしかしなくても最後かな?
「ステラ=リーンバーグです」
と、最初の人の実演が始まっていた。薄青い空色の髪の少女だ。手には透明な素材でできた杖を持っている。先端に青い薔薇のような花があしらわれている綺麗な杖だ。そこに魔力を通しているし、たぶんあれは魔法の発動を補助する魔道具なんだろう。見れば他の人たちも同じような杖を持っていた。あれ、これって使うのが普通なのかな?
「何の魔法を使いますか?」
「氷の魔法を。中級魔法の〈氷矢〉です」
「わかりました。では、的を準備しましょう」
そう言うと、リーシェン先生が他の先生に指示を出す。すぐにステラさんから10メートルほどの位置に人間大の的が設置された。人間大とは言っても、大きさだけで形はよくある丸のやつだけど。大きいから当てるのはそう難しくないだろう。
「お待たせしました。いいですよ」
「はい。…すぅー、はぁー」
ステラさんは大きく深呼吸して、魔法の構築に入った。魔力を杖に流し込んで、その杖を的に向けて構える。杖には予想通り魔法の構築を補助する効果があるみたいで、術式がスムーズに組みあがっていく。
「“氷雪よ 鏃となりて 過たず敵を穿て”……〈氷矢〉!」
そして、詠唱。一拍の間を置いて魔法が完成し、氷でできた矢が杖の先に形成される。それはそのまま発射され、普通の矢と同じくらいの速度で飛び、的の中心は少し外れながらも的に命中した。的の命中した部分から徐々に凍らされたように薄く氷に覆われていく。なるほど、ああやって凍らせて動きを封じる魔法なのか。発動までに時間はかかっていたけど、安定していたし狙いも正確だった。
「おぉ…」「すごいな、中級魔法だぜ」「初めて見たよ」「発動もすごくスムーズ…」
周りの人たちも、その魔法に驚いたのか口々に呟いていた。リーシェン先生も拍手しながらステラさんを褒める。
「素晴らしいですね、ステラさん。入学したばかりで中級魔法だなんて、将来有望です」
「ありがとうございます」
そうしてステラさんの番は終わり、次の生徒が実演に入る。今度は男子生徒で、鉄の塊を置いて地面に術式をチョークのようなもので書いていた。
「いきます。…“鉄塊よ わが手に強き 鉄の刃を”………〈剣錬成〉!」
詠唱すると書いた術式が魔力を通されて光り、そこに鉄でできた歪な剣が出来上がっていた。へー!面白い!こんな魔法もあるのか。
そうやって誰もが、順番に様々な魔法を披露していく。ほとんどは初級魔法しか発動できない人だったが、それでも成功すれば皆満足そうにして下がっていく。魔法が使えるというだけで十分に貴重な才能だからだろう。リーシェン先生もステラさんの時のように拍手喝采こそしないものの、「いいですね」とか肯定的なことを言って評価していた。やっぱり魔法が使える人は一人でも多ければ嬉しいようだ。使えるならこれから指導して上達してもらえばいいだけだしね。
「それじゃあ…あなたで最後ですね」
「はい。カナタ=リナリアです」
他の人たちはみんな終わったようなので前に出る。リーシェン先生は僕の名前をチェックしながら何かいるものはないか確認してきた。
「見たところ杖も持っていないようですし、好きなものをお貸ししますよ?」
「ああ、いえ。僕は杖はいりません。使ったことないので」
「…え?」
そう言うと、リーシェン先生が「何を言ってるの?」といった表情で固まる。あれ?やっぱりあれって必需品なのかな?でも、今まで使ったことなかったし。
「で、では何か代わりになる魔道具を?」
「?いいえ、特には。魔法を使うだけですよね?」
「魔石灰も必要ないんですか?」
「はい」
魔石灰はたぶん二番目の人が使っていたチョークみたいなやつだろう。あれってたぶん魔力を通しやすい素材で作ってあるんだよね。だから術式をあれで書くと魔法が使いやすくなるんだろうな。僕にはいらないけど。
「それじゃあ、いきますね」
「ちょ、ちょっと待ってください!使う魔法は何を!?」
「んー、そうですね…火、水、風の三つにします。あ、的とかは特にいりません。危ない魔法ではないので」
「わ、分かりました」
そう言ってリーシェン先生が少し離れるのを待って魔法を準備する。失敗したら嫌だし、よく使っていたあの魔法がいいだろう。
「“水纏いし龍よ”、“燃ゆる猛虎よ”、“荒ぶる鳳よ”」
念のために詠唱して、〈水龍〉〈焔虎〉〈嵐鳥〉の三つを発動する。サイズはちょっとカッコつけるために子供サイズではなく大人サイズにしてみる。水龍は僕の周りにとぐろを巻くように、焔虎は僕の隣に、嵐鳥は僕の頭上に出現させる。
「んなっ!?な、何ですかそれは…!」
と、一番近くにいたリーシェン先生が驚いたのか尻餅をついてしまった。びっくりさせちゃったかな。確かに、いきなり目の前に龍とか虎とか出てきたら怖いかもしれない。大人サイズの水龍って全長10メートルくらいあるし。
「まさか、魔物!?」
「安心してください。これは僕の魔法です。ほら、別に襲ったりしませんよ」
警戒するリーシェン先生に安全をアピールために水龍を操作して先生の前に持って行く。僕自身も焔虎の頭を撫でて見せる。触れても別に熱くない。これは僕の魔法で生み出している炎なので上手く調節すれば熱くないようにもできる。嵐鳥は風の集合体なのでちょっと危ないかもしれないけど。
「ね?」
「ほ、本当に魔法…?」
リーシェン先生はおそるおそる水龍に触れて、それが魔法だと分かるとまた驚いていた。うん、自信作だったので嬉しいね。
「いやあ、ホントにすごいね、キミ」
「!学園長!」
と、リーシェン先生の横にクロウ学園長が歩み寄ってきた。拍手しながら、感心したように僕の魔法を見て笑っている。お気に召してもらえたようだ。
「カナタ=リナリアくん、だったかな?」
「はい」
「すごいね。ここまでの魔力操作は初めて見た。しかも補助具を使わずにあの早さでの発動。ここ数十年ではまず間違いなく最高の魔導師の卵だね」
「ありがとうございます」
「うん、あいつが褒めるのも納得の腕前だ。素晴らしい」
あいつ?学園長の言葉に首を傾げると「ああ、気にしないでくれ」と言って笑う。ご機嫌だ。
「君は文句なしに最高評価だ。リーシェン先生、構わないね?」
「は、はい…。学園長がおっしゃるなら」
「うん、ならそれで。カナタ=リナリアくん、おめでとう」
「ありがとうございます」
そう言うと、クロウ学園長はご機嫌なまま魔法実技場を出ていった。えぇ?あの人もまたかなりマイペースな人なのかな?場の収束も一切せずに、言いたいことだけ言っていなくなった。さすが、リチャード先生とゲラン先生の上司だ。
「えっと、もう試験は終わりでいいんですか?」
「あ、はい。いいですよ」
「分かりました。なら、これ消しますね」
確認をとって魔法を消す。正確には維持をやめたって感じだけど。
最後はごちゃごちゃしたけど、とにかくこれで試験は無事終了ってことでいいのかな?学園長も最高評価って言ってくれたし、たぶん成功だ。
「そ、それでは、今日はこれで終了になります。結果は明日の朝基礎学舎の掲示板に張り出しておきますので、皆さん、解散してもらって結構です」
そしてリーシェン先生がそう言ってこの場はお開きとなった。えっと、帰っていいってことかな。
こうして、三つのクラス分け試験は無事?終了したのだった。




