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2.はじめまして異世界

 目を覚ますと、僕は僕ではなくなっていた。


 コップの水にうつった自分に驚愕した日から1週間。

 僕はようやく、今いる場所がどこで、どうなっているのか整理できるようになっていた。


 僕はどうやら、地球ではない未知の異世界に転生してしまったみたいだ。

 今の名前はカナタ。なかなかカッコイイ名前で個人的には気に入っている。歳は4歳。とある子爵家の三男で、この世界では裕福な家庭の生まれだと言えると思う。1週間前まではすごい高熱を出して3日間もの間寝込んでいたらしい。原因は不明で、医者も匙を投げていたのだとか。僕が目を覚ましたのがその寝込んでいた日の最終日のこと。残念なことに、それまでこの世界で生きていたはずの記憶は、今日にいたるまで一切思い出せないままだった。

 小さな体に銀の髪は、黒目黒髪だった前世の僕とは似ても似つかない。正直、違和感ばかりで最初の数日はとてもむずがゆかった。体は年齢以上に生まれながらかなり弱いようで、とりあえず歩けるようになるだけで目を覚ましてから2日もかかってしまうほど。あまりの力の入らなさにびっくりしてしまったものだ。

 目を覚ましたときに水を渡してくれた女性は、エリナという名前らしい。役職的には僕付きのメイドということになるのだろう。目を覚ました僕を毎日甲斐甲斐しく世話してくれる彼女と少しずつ話をして、ちょっとずつ情報を集めた。

 僕が話せることにはたいそう驚いたようだったが(僕自身も言葉が通じることに驚いた)、話せることを知ってからは喜んでいろいろなことを教えてくれた。


 この世界はアースフィアというらしい。もっともそれは大陸の名前で、世界そのものや星の名前というわけではないようだった。エリナが見せてくれた地図は航空撮影なんてない世界らしく大雑把なものだったが、見覚えのない形の大陸と聞いたこともない名前の国が書かれていた。

 大小いくつもの国があったが、そのうちの1つ。ルーニック王国というのが、今の僕が暮らしている国らしい。位置的には大陸の西側で、海にも面している。王都セントラードを中心に、北をラサンドール辺境伯、南をリグリッド辺境伯、東をルーベルク辺境伯がそれぞれ治めている。西と中心部は王家ルーニック家の直轄地が多く、三方の辺境伯家は国防のために存在するのだろう。海に面した西側はもっぱら貿易のための都市が存在しているみたいだった。


 僕が生まれた(転生した)子爵家デイブレイク家は、東の辺境伯ルーベルク家の傘下にある。小さいが領地も持っており、王都と東都の間の街としてそれなりに発展しているみたいだ。特に中心である街クロフェは城壁もあり人口も多い。小さいながらも都市と呼べる程度には発展している。


 文明レベルも分かってきた。

 レベルとしては、中世ヨーロッパにかなり近い感じらしい。電気を用いた機械類は一切存在せず、長距離の移動は馬車が基本のようだ。当然ガソリンや石炭を使った乗り物も存在しない。

 他にもいろいろ上げればキリがないけど、前世とのもっとも大きな違いと言えば、これだろう。


 「“水よ 集いて満たせ”」


 エリナがコップの上に手をかざして知らない言葉でそう唱えると、何もない空中に水が現れる。そしてコップに入っていき、満たしたところで止まる。


 「いかがですか、坊っちゃん。これが初級水魔法の〈水生成(クリエイトウォーター)〉です」


 少し誇らしげにコップを差し出すエリナに、僕は何度見ても驚きを隠せない。


 魔法。エリナによると、人間が持つ魔力を使って様々な現象を起こす術らしい。

 ときには物理法則さえ無視するこの力が、この世界では当たり前に存在するものとして受け入れられ、生活に関わっている。家事で料理をするときの火おこしなんかによく使われるし、傷やケガを治したり毒を癒す〈治癒魔法〉もあるらしい。魔法一つで傷が一瞬で治ったりするのだから、その点は前世に比べて発展していると言えなくもないのかもしれない。病は治せなかったりといった不思議な制約もあるみたいだけど。きっと科学技術なんかが発展していないのには、この魔法の存在が大きいんじゃないかと思ったりする。


 歩けるようになってからは、こっそり抜け出したりもしてみた。

 ちょっと散策してみた限り、今僕がいる屋敷はそれなりの広さがあるようだった。とりあえず二階まではあることが分かったし、部屋数も多い。すぐにメイドに捕まって連れ戻されたからそんなには見て回れなかったけれど、見た感じでは作りも立派で調度品もそれなりに整っていた。

 やっぱりデイブレイク子爵家はそれなりに裕福そうだ。


 あ、それからついでに。

 僕の家族らしい人たちのことだ。

 僕が今のところ知っているのは、父であるグラン=デイブレイク子爵と母であるリーン=デイブレイク子爵夫人の二人。僕が目を覚ましたあと、一度だけ部屋にやってきて様子を見ていった。

 グラン=デイブレイク子爵は、くすんだ赤髪と厳しい目つきが特徴的な偉丈夫だった。がっしりとした体つきに太い四肢。身長は軽く2メートル近くあったと思う。斧とか持ったら強そうなイメージ。

 リーン=デイブレイク子爵夫人は、茶色の髪と目が特徴的な女性だった。年齢はたぶん30代で、きっとエリナと同じくらいだと思う。そこそこ美人だとは思うんだけど、正直、厚すぎる化粧のせいでよくわからなかった。同じくらいの歳でも化粧のせいでエリナより老けて見える。視線が冷ややかだったのが印象に残った。はっきり言って、どちらも僕に似ているとは言い難い。髪の色とか全然違うし。

 二人は僕を見るなり、たいして何か言うわけでもなくすぐに出ていってしまった。感じからして、あまり良くは思われていないのかもしれない。エリナに理由を聞いてみようかとも思ったのだけど、なんとなく聞きづらくてまだ聞けていない。

 それから一応、兄が二人いるということはわかった。今は屋敷に住んでいないらしく会ったことも名前を聞いたこともないが、いることは確かなようだ。


 とりあえず分かったことはこんなものかな。


 理由や方法は分からないが、僕が前世からこの世界へ転生してしまったことは確からしい。

 なら、この世界でカナタとして生きていくしかない。


 ……とはいえ、どうしようかなぁ。


 「はぁ…」


 考えながら、窓の外を見て思わずため息をついてしまう。

 何をするにも、僕はこの世界についてまだまだ知らなすぎる。常識、生活様式、文化、社会情勢…。知るべきことを挙げていけばきりがない。それに何より、4歳の幼児であるこの体は体力が著しく低い。屋敷の外がどうなっているのかは知らないがこの体ではきっと危険がいっぱいに違いない。となると自然、やれることは限られてくる。


 「まずは勉強、かな。幸い字は読めるし言葉も通じるから、とりあえず片っ端から知識を仕入れるしかないよね」


 エリナに「いろんな分野の本が読みたいんだ」と言えば、本はすぐに持ってきてもらえた。簡単なおとぎ話から旅行記、学術書、自伝などまさにいろんな分野の本だ。張り切って20冊も持ってきてもらったが、これでも前世は大学生だった身。本を読むのも慣れたことだ。きっと数日中には読み終えられると思う。なぜか文字も読めるし。


 「…ん?これは」


 ふと、一番上に置かれた本の題名が目に入って思わず手に取った。そこには『魔法入門』の文字。パラパラとめくって流し読みしてみると、どうやら魔法を学ぶための入門書のようだった。主に実践のやり方や訓練方法、使うにあたってのコツなどが分かりやすく図付きで記されている。


 「面白そうだな、これ」


 僕は初めに戻ると、ワクワクしながら『魔法入門』を読み始めた。

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