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11.王都センラード

 王都センラードは、一言で言ってとても巨大な都市だった。

 王都全体を円形に覆う巨大な城壁。高さはたぶん7メートルくらいだろうか。白い石造りで、それがぐるっと王都を一周全部覆っていた。僕たちが向かう先には門があって、同じものが東西南北の四か所にあるそうだ。そして城壁の中は、さらにもう一つの城壁で区切られているらしい。外から見て二つ目の城壁を『内壁』と呼び、その内側は貴族や大商家などの裕福な者や身分の高い者が住む『貴族区』となっている。一つ目の城壁は『外壁』で、その内側が王都の『市民区』と呼ぶ。これはもともと内壁までしかなかった王都を外壁を造って拡張したことによってできたらしい。内壁のさらに中央に王城ルーニック城がある。


 「…聞いてたけど、ほんとに大きいね」

 「そうですね。あっしも最初に来たときは同じような反応をいたしました。このセンラードは王国内でも別格の大きさでございますから」

 「あれ、ヘルマーさんって王都の出身じゃないんだね」

 「はい。あっしは北部の出身です」


 なんて会話をしながら馬車は門まで進む。ちなみに僕は今ヘルマーさんと一緒に御者席だ。王都を見たいってことで無理言って乗せてもらったんだよね。ちなみにエリナは馬車の中だ。


 門の前は、昼過ぎなのにたくさんの人で溢れかえっていた。どうやら中に入るための検問の順番待ちらしい。門兵だろう人が持ち物や積み荷、身分証などを確かめている場所に多くの馬車や人が列を作っている。これは長くかかりそうだな、なんて思ったら。


 「少々お待ちください。門兵に言ってすぐに終わらせますので」


 なんて言ってヘルマーさんは馬車を門のすぐそばまで進ませてしまった。列を無視して。ち、注目されてる!ほら、みんなこっち見てるよ!?

 けど、ヘルマーさんはそんな周囲の視線など無視して門兵に一枚の紙を見せた。そして一言二言話すとあっさり門を通してもらってしまった。え、いいの?


 「あの方が事前に通行証を用意してくださっていたので、問題ありません」

 「それって僕を呼んだ人だよね?」


 いや、どんだけですか。権力者だろうとは思ってたけど、厳重なはずの門の検問をあっさり素通りさせられるなんて。想像以上だよ。


 とか言いつつ、馬車はそのまま街の中を進んでいく。市民区に入ったので石畳の大通りをかなりゆっくりのスピードで馬を歩かせる。おかけで僕も街をじっくり見ることができた。


 街は多くの人でにぎわっていた。家はほとんどが木造で、ごくたまに大きな家や集合住宅らしき長屋が見られる。歩く人たちは都会だからなのか皆おしゃれだ。うん、デルカンデラの村では着古した服が当たり前だったからね。農家だから当然だけど、汚れるのを前提とした機能性重視の服ばかりだった。それに比べるとカラフルでデザインも豊富なこの街はおしゃれだ。道も石畳で整備され、歩きやすい。ところどころに立ってるのは街灯かな?店もたくさんあって、あちこちで見慣れない看板が目に入る。


 「すごいね」

 「はい。王都の賑わいは東都から来られた方も驚かれるほどでございますから」

 「そうなの?」

 「はい。ここは大通りなので比較的進みやすいですが、西の商業区画はもっと人が多いです。出店が立ち並び、歩くのも大変でございますから」


 西の商業区画とは、市民区の西側にある巨大マーケット通りのことらしい。そのあたりには中小商家が多く、たくさんの店があるそうだ。それに加え、店を持たない商人や売りたいものがある人たちが出店や露天商を開いているのでよりにぎわうのだとか。掘り出し物も多いらしい。ぜひ一度行きたいね。


 そのまま馬車は進み、やがて内壁の前までたどり着く。うん、分かってたけどやっぱり内壁の内側にいくらしい。ここにも門があって、さっきの外壁より装備のいい門兵が立っていた。ていうかあれ、たぶん騎士だとおもう。あきらかに一般兵じゃない。


 「少々お待ちください。こちらはさすがに素通りというわけにはいきませんので。カナタ様はどうか馬車の中でお待ちになられてください」


 とのことだったので、僕は大人しく馬車の中に戻った。そのまま中でエリナと王都の様子について話すこと数十分、馬車が進み始める。どうやら検問が終わったみたいだ。

 そのまま馬車は走り、停まって降りるように言われたのは一軒の屋敷の前だった。


 「カナタ様、大変お待たせいたしました」

 「着いたの?」

 「はい。こちらがカナタ様に王立学園入学まで滞在していただく予定のお屋敷です」


 とのことなので馬車から降りれば、なんとまあ立派な屋敷が目の前に広がっていた。

 白塗りの綺麗な壁に装飾豊かな建物。汚れ一つなく、センスあふれるたたずまいだ。庭は恐ろしく広く、それでいて手入れが行き届いているのが一目で分かる。ていうかこれ、絶対デイブレイク子爵家のお屋敷より豪勢だよね。そして極めつけが、


 『おかえりなさいませ』


 と言って頭を下げるメイドさんの集団だ。屋敷に入るといきなりこの光景に出迎えられた。え、なにこれ!?ていうか列からお辞儀の角度からもうなにもかも揃いすぎてて逆に怖い。あ、頭を上げるタイミングまでばっちりじゃん。てか、顔を上げたら美人さんぞろい!


 「お待ちしておりました」


 と、圧倒されていると僕に声をかけてきた人がいた。現れたのは黒の執事服を纏った細身の男性だった。白髪が混じり始めているからそれなりの年齢だと思うのに、その気配はただの老人のものじゃない。顔は優しい笑顔を浮かべた好々爺だったけど。

 そしてその人が現れると同時に僕を案内してくれていたヘルマーさんはその場に膝をついていた。エリナは僕の従者という扱いだからか会釈に留めている。


 「カナタ=デイブレイク様。王都までの長旅、大変にご苦労様でした」

 「あなたは、どちら様ですか?」

 「申し遅れました。わたくし、この屋敷の主の執事をしております、グラーフと申します」


 男性―グラーフはそう言うと、ゆっくりと頭を下げた。


 「ヘルマーさんが膝をついてるってことは、あなたがヘルマーさんの上司ということですか」

 「そうでございますね。ヘルマーは一応、わたくしの部下にあたります。もっともわたくしも、貴方様を招かれた我が主にお仕えする一人にすぎませんが」

 「つまりグラーフさんの主人の方が、僕を王都に呼んだ本人だと?」

 「はい。左様にございます」


 グラーフさんはにこやかに頷くとパンパン、と手を叩いた。すると控えていたメイドさんたちが一斉に動き出して僕の荷物を預かり運んで行ってしまう。


 「さあ、お部屋にご案内致します。ヘルマー、ここまでの案内ご苦労様でした。もう下がってよいですよ」

 「はっ」


 そう言ってすぐにヘルマーさんもいなくなってしまった。あ~、まだお礼も言ってないのに。


 「あの、私はカナタ様のお世話係なのですがどうすればよいでしょうか?」

 「エリナさんですね。お話はヘルマーから伺ってます。どうぞ、エリナさんもご同行ください。貴女もこの屋敷では客人扱いになっておりますので」

 「は、はい。分かりました」


 エリナと一緒に前を歩くグラーフさんについていく。いや、それにしてもすごいお屋敷だ。

 歩きながら見るが、とりあえず何もかも一級品だということが一目でわかった。僕はこの世界の美術品や絵画などにはあまり詳しくない。それでも、このお屋敷においてあるものは分かりやすく高級な物ばかりだった。歩くカーペットも色や感触だけで良い物なのは一目瞭然だ。窓は一分の曇りもなく磨かれ、汚れ一つない壁や床は綺麗に磨き上げられている。


 「到着致しました。こちらがカナタ様に滞在していただくお部屋になります」


 と、一枚の扉の前でグラーフさんが立ち止まった。扉を開ける彼についてそのまま入ると、そこはまさに前世で言うところのロイヤルスイートルームといった様子だった。


 整えられた家具。部屋は広く優雅で、それでいて不自由を感じさせない。複数の部屋があるようで、その部屋には大きなソファとテーブル、椅子などがあるだけだった。お茶ができるようにか簡単なキッチン設備まで整っている。机には焼き菓子とティーセットがこれまた綺麗に置かれている。


 「こちらは応接室の他に寝室と書斎が一部屋ずつございます。少々手狭かもしれませんが、滞在中はこちらでお過ごしください。エリナさんもこの部屋に通じる使用人用の部屋を一つ用意してあります」


 部屋の中の扉の一つはエリナの部屋に繋がっているようだった。これならエリナも大した手間もなく僕の世話に専念できるだろう。すごく設備の整った部屋だ。ていうかさっき「少々手狭」とか言ってたよね?どこが?と問いたい。


 「必要なものがございましたら、わたくしかメイドたちにお申し付けください。可能な限りご用意させていただきます」

 「いいんですか?」

 「はい。このお屋敷に滞在される方に不便を感じさせては当屋敷の恥でございますれば。遠慮など御無用です」


 至れり尽くせりですね。


 「お食事はお申し付けいただければその時間にお持ち致します。ただ、原則として屋敷内を移動される際はわたくしか誰かメイドを随伴に付けるようお願い致します。また、他の部屋への立ち入りもわたくしに事前に確認してからにしていただければ」

 「わかりました。屋敷から出る場合はどうすれば?」

 「基本は出歩かないでいただければ助かります。もしどうしても用事がございましたら、わたくしにお申し付けください」

 

 屋敷からは出ちゃだめなのか。ていうかまあ、つまり「入学するまで大人しくしててください」ということだ。確か入学式が二十日後で入学試験が明後日だっけ?暇そうだけど仕方ないよね。それが相手側の望みなんだから。


 「わかりました。では、入学前に予習をしたいので何冊か勉強できる本を準備してもらえますか?できれば、魔法の術式に関する書籍もお願いしたいです」

 「かしこまりました。勉強用の本に分野などのご希望はございますか?」

 「特には。計算以外の全ての分野にかけてお願いします。王立学園準拠のものだとありがたいです」

 「かしこまりました」


 計算ははっきり言って前世でもう四則計算どころか数学までばっちり勉強しちゃってるからね。この機会に、ちょうどいいからちょっといろいろ勉強しちゃおう。


 「では、ごゆっくりどうぞ。夕食は二時間ほど後にお持ち致します」


 そう言って、グラーフさんは一礼して出ていった。そのあと僕らはそれぞれ部屋に戻って休憩して(エリナは僕の世話をしようとしたけど休ませた)、夕食を取った。


 ちなみに夕食は過去最高に美味しかったとここに記しておく。 

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