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シャイイングウィズアウト  作者: 阿生 練斗
雄鶏マイク
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理化学同好会活動

 同好会室のドアをそろりと開ける。「江嶋か」森か。俺は、心の中で返すように、呟いた。声をかけてきた森晴海は、同じ同好会で、唯一理化学同好会チックなことをしているやつだ。いつも謎の液体に、謎の液体を混ぜている。“海泳ぐナポリタンエイリアン”を崇拝する奴には、普通のことなんだろうか。

 部屋内は、外のスピーカーの斉藤和義をかき消すほど音量で、AKB48のサステナブルが流れている。この部屋に入ると、つくづくAKB48が巨人の集団のように錯覚する。流している吉井優のやつは、放送部に負けず劣らずのDJかぶれで、自分ではヘッドフォンを通しているくせに、スピーカーからも同じ曲を、同じタイミングで再生させている。ちょっとは、オーディエンスに耳を傾けたらどうなんだ。少なくとも俺は、受け入れることは難しい。曲も、音量も。

「うるさい。優、止めろ」今まで、何も言わなかったくせに、森が吉井に文句を言う。森と意見が合うのは珍しい。ヘビーローテーションの末にCDは、Bメロ部分を読み込まれている。「もうすぐサビだから待ってよ!」

 何度もきいたであろうサビ部分を、初めて聴くみたいに吉井は言った。握手券目当てでCDの在庫が捌けていく昨今にしては、オールドスクールなアイドルヲタクだ。いや、そこに関してだけは、吉井に敬意を示せる。アイドル・ファナティック地でも呼ぶべきか。

「待てるかよ!お祈りの時間なんだよ!」森が怒鳴った。やっぱりこいつとは、意見が合わないらしい。最も、この件に関して、はっきりと意見を述べてはいないが。

 うるさいから止めさすんじゃなくって、お祈りするために止めさすのかよ。このカルト信者め……

 吉井が、萎縮して曲を止めると、カバンから、コンビニのナポリタンを取り出して、床に置く。「ザーメン」森は、お祈りの言葉を述べて、スマートフォンの最大音量で、オアシスのワットエバーをナポリタンに聞かせる。これを見るたび、意味がわからなすぎて大脳と小脳の位置が反転したような感覚に陥る。でも、宗教と応援している野球チームの話は、よっぽど合わない限りどこでもタブーだ。俺はいつも黙っている。吉井も。今はいない来栖だって、黙っているだろう。

 森のお祈り中に、部屋のスライドドアがゆっくりと開く。集中力の切らされた森が、出入り口の方を見て、邪険そうな顔を作る。特に目は、小動物の剥製みたいに、不気味に来栖を向いていた。

 開いた入り口の先には油とか、汗とか、血とかが付着して、作りたてのマミーみたいになった来栖が立っていた。それを見た森の瞳に、生きている生物の感情のようなものが、一気に映し出される。投影されたものが何なのか、明確には分かり得ない。恐怖か、忿怒か。

「どうしたんだよ?来栖!」森が喚く。来栖は、適当に反応して、部屋内に入ってくる。理由は言わなかった。森のスマートフォンの中のリアムとノエルは歌い終えて、スピーカーによって、空気が揺れることはなくなっていた。

「本当に、どうしたんだよ」俺は、ピンと張った空気は嫌いだ。ある程度のたるみが欲しくて、来栖に聞いた。

「別に、自転車で転けただけだって」来栖は、電車通学のくせに明らかな嘘を、信憑性の高い声色で答えた。ママに、虐められていることを隠す小学生みたいなことを言ってやがる。森も、吉井も怪訝そうに、心配そうに来栖を見ている。3人とも同じことを考えているんだと思う。3人を見ていると、シリアスに耐えられなくなってきた。

「来栖、なんとかするから」根拠なんてない。なんとかするって言ったらなんとかするもんだ。「転んだだけだって言ってんだろ」来栖は、慌てて言いながらも、その瞳の奥には、安堵を写し出した。瞳に手前には瞳には、俺の必死に不安を隠す顔が、写っている。


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