ハートダンジョン
僕の体の傷は、日に日に増えて行った。今までと違うのは、一方的なやつじゃないし、増える傷とともに体も少しずつ大きくなっているってことだ。体現できる超回復ってのは非常に効果的らしく、正規のダサい学生服が、前を閉じれなくなりつつあった。指原の特訓というのは酷く、唯々指原に突っかかって行っては倒されるというもので、指原は慣れが大事とか言っていたけど、全然慣れない僕たちは、倒されるたびに体が危険を感じていたんだろう。慣れってのはきっとどっからパンチが飛んでくるとかそういうのが分かるってことだと思うんだけど、殴られるのに慣れて、だんだんダウンして起き上がれる回数が増えていっていた。
「そろそろ、攻撃してこいよな」今日もあの河川敷で、指原に吹っ飛ばされていた。指原からは、幾度となく殴ってこいと言われている。拳に運動エネルギーを持たせてぶつけるってことはわかるけど、そこにメンタルが絡むとややこしくなっていた。殴るなんてしたことないんだ。ちょっとした暴力とかを見ると気持ちが悪くなる。
「無理だよそんなん」吉井が泣きそうになっている。今日は、森と江嶋が四回目の祖母の葬式らしく、2人しかいないから余計にきつい。森はまだいいけど、言い出しっぺの吉井が休むのは少し不満が残る。「じゃあ来栖から来いよ」最近、指原が頻繁に挑発してくる。僕は叫びながら指原に向かっていく。拳に運動エネルギーを持たせて振り下ろすも、気持ちが悪くなって拳の勢いが減衰していく。瞬間、指原に顎を擦られて、その場にへたり込む。またさっきよりも早く立てそうだ。体だけは、進化して言ってんのに、心だけは、伸びていかないみたいだ。殴るってこんなに勇気がいることなのか。僕たちは幼少期から、ルドヴィコ療法でもかけられているのかもしれない。
「やっぱ攻撃は実戦だよな」指原が考えた末、そう呟く。この後の指原の言葉に、僕は耳を疑うことになった。成長できない暴力を受けてこいっていうのか?嫌なら殴れってか?それでも指原を信用する他ないのかもしれない。
「宮田ぐらいに仕掛けてこいよ。喧嘩」