第三話 あやしい儀式に揉まれて
「何なのだあのちんちくりんのドラゴンは!?」
「神聖なドラゴン召喚の儀式にふざけているのか!」
「貴重なドラゴンを生贄にしたんだぞ! どうするつもりだ!」
「最初に召喚されたドラゴンがアレとは……幸先が悪い」
神官たちが一斉にざわめきだす。完全に俺が悪い雰囲気である。
急に自分の体に自信が無くなってきた……。今一度自分の体を見回してみても、文句のつけようがない立派な体格をしているとしか思えない。腐ってもティラノサウルスの体なのであるから。それを何百分の一の体格しかない人間に馬鹿にされるのだからもう訳が分からない。
「よくもこの私に恥をかかせてくれましたわね……」
「え?」
足元を見るとチュートリアルキャラ、じゃなかった金髪縦ロールが顔を真っ赤にして俺を見上げてにらんできている。
「このちんちくりんドラゴン! 今すぐ土に還してさしあげますわ!」
「いや、できれば元の世界に返してほしい……あと人間の体を返して」
「分かりましたわ。サービスで土にも還して差し上げます」
いうや否や金髪縦ロールは魔法の杖っぽいものを構えてた。どうやら俺に魔法を打つ構えのようだ。
こ、殺される……と思ったとき、威厳のある声が神殿内に響き渡る。
「静粛に! 第一級魔女メイジーよ、これはどういうことか?」
神殿の中の祭壇の上にいる神官のうち一番偉そうな人物が金髪縦ロール――メイジーというらしい――に話しかける。
当のメイジーは急に借りてきた猫みたいになって、おどおどと話し出す。
「ハッ。異界からのドラゴン召喚の儀式は無事に成功したはずです……言語コミュニケーションをするための、ドラゴンの体に人間の魂を憑依させる術式も機能しています。先ほど会話も成立しました」
「ならば何故そのような貧弱なドラゴンが召喚されたのだ! 異なる世界線からその世界最強のドラゴンを召喚して戦力として使う。そのおかげでこの国ヴェルグランドはなんとか国境を死守しているというのに……」
「申し訳ありません……」
今までの会話を聞いてふと疑問に感じる。ドラゴンドラゴンって言ってるけど……。
「あの~~」
声を発してしまった。俺が。その瞬間神官やメイジーの視線がこっちに集中して痛い。しかしこれだけは言っておかなければならないだろうと思い、重い口を開ける。
「俺の世界にはドラゴンなんていませんけど……」
言ってしまった。心臓を締め付けるような重い沈黙が場を支配する。そんな目で見ないでくれよ……三千万の取引を失敗したわけじゃないんだから。……あいつ今何してるのかな。
ふと昔の同僚のことを思い出していると、神官たちがにわかにざわめきだす。
「ドラゴンがいないぃぃいいいいぃぃい!?」
「馬鹿な!? そんな世界があるのか!」
「ドラゴンがいない世界線など今まで聞いたことがないぞ!」
「おい! さすがに魔法少女はいるんだよな!?」
俺 「魔法少女はいます」
「良かった!」
まあいないけどね。夢壊すのもなんか悪いし。――もしかしてこの世界には本当に魔法少女がいる可能性が? 魔法あるし! やった!
初めて転生してよかったと思えました。