第二話 目覚めたらへんなとこにいた。あとティラノサウルスになってた。
光が見える。目蓋を少し透過する程度の淡い光。
死後、何らかの光が見えたら天国か極楽浄土へ行けることを期待するのが一般だと思う。しかし、俺の場合はそんな気分には微塵もならない。なぜなら……
その光が毒々しい紫色の光だからだ。
地獄に来ちゃった☆ ――来ちゃったじゃねーよ
嫌な予感がしながら重い目蓋を開ける。そのとき、すさまじい力で筋肉が目蓋を持ち上げるのを感じた。
目蓋を持ち上げる……? おかしな表現だがそうとしか言いようがない気がした。
「ここは……?」
周囲を見渡すと、俺は薄暗い神殿のような建物の中にいた。足元には巨大な魔法陣が描かれており、紫色の光でギラギラと輝いている。
どうにも体の感じが変なので自分の身体を見てみると短い前足、太長いしっぽ、巨大な二本の足が視界に飛び込んできた。
「ティラノサウルス?」
それは、その体は子供のころ図鑑で見たティラノサウルスそのものだった。少ししゃべっただけでも巨大な牙がガチガチと音を立てる。
「夢だと思いたいが、、、でもたしかに死んだはず……」
ぺしゃんこになってもすぐには死ねず。鉄くずに挟まれながら息をしてもひゅうひゅうと風が通り抜けるだけでもう自らに呼吸能力がないことを知った、ついさっき。
そう、俺は愛車とともにぺしゃんこになって死んだ。となるとこれは死後の世界。それかもしくは転生なのか?
「むう、考えてもわからん。――ん?」
ふと、足元に少女がいるのが見えた。魔法の杖っぽいものを構えていてこちらをポカンと見上げている。金髪縦ロールのお嬢様っぽい少女だ。
魔法少女……やっぱ異世界転生なのかなぁ。俺のいた世界には魔法すらなかった。どうせなら俺も魔法少女に転生したかったよ! 一度でいいから女の子になってみたいというのは男の夢。
周囲を、というか足元を改めて見てみると自分がたくさんの人間に囲まれていることが分かった。割合的には神官っぽい服装をしている爺さんが多い。
小さすぎて気づかなかった。ティラノサウルス視点だと人間はこんなに小さいのか。
「あの~~皆さん。これはいったいどういう状況か説明してもらえませんか?」
とりあえず群衆に向かって話しかけてみたが反応がない。皆唖然とした顔でこちらを見ているだけだ。
おかしいな。この場で一番混乱しているのは俺のはずだが!? 異世界転生だかなんだか知らないが初心者に優しいチュートリアルくらいあっても……ん? チュートリアル?
状況からみて、目の前のこの魔法使いっぽい少女が魔法陣で俺を召喚したのは間違いないっぽい。自分はちょうど魔法陣の真ん中にいるし。つまりこの娘がチュートリアルキャラだ。まずはこの少女に話しかけてみよう。
「やあこんばんわ。君、何か知ってるよね。おじさんといろいろお話しようy――」
「小さい……」
少女は我がティラノサウルスの巨体を見上げながら一言、声を震わせながら「小さい」と口にした。
「え?」
どういうことだ? 史上最強の肉食獣ティラノサウルスを見て小さいなどという人間がいるだろうか?
ハッ!? もしかして彼女はおそらく緊張でしぼんでいるであろう我がイチモツを見てその体躯のわりに小さいと口にしたのでは――
「このドラゴン小さすぎですわぁあああああああああああ!?」
神殿の中に金髪縦ロール魔法少女の悲鳴のような絶叫がこだまする。
「……ドラゴン、だと?」
本当に異世界での我が第二の人生はティラノサウルスとして始まってしまうのか……?。何もわからず、何の説明もないままに。
やり残したこと。言えなかった言葉があるが、泣く暇もなく事態が進んでいく――