9肩凝りー4時間目、体育、ソフトボールー
避難訓練が終わって教室に戻る。
4時間目は体育の授業だ。
今日は考えることばっかりで、体の糖分が枯渇している。
授業後のお弁当は五臓六腑にさぞ染み入るだろう。
大好物のきんぴらごぼうを早くかきこみたい。
女子の連携プレーで男子達をいち早く追い出し、カーテンを閉めて体操服に着替える。
ふと前の席を見ると誰もいない。
窓側のカーテンから目だけだしてグラウンドを覗くと、左手がやや大きく見える女の子が1人で屈伸をしていた。
元野球少女が張り切るのも無理からぬこと。
今日の授業はソフトボールだもんね。
すると後ろから声をかけられる。
「光ちゃん。行こ」
詩の言葉に振り返ると、教室は2人だけになっていた。
廊下からの、水筒を取りたいという男子の声に応えてカーテンを開け、詩と2人でグラウンドに急いだ。
体育の授業は2クラス合同。
わたし達1組と、2組をそれぞれ一つのチームとした、試合形式の授業だった。
1組は先攻。一回の表が始まる。
2組の子達が、打者に近くて怪我の可能性ランキング一位二位のピッチャーとキャッチャーを押し付け合いながら守備位置に着く。
結局運動部の子達が内野。
苦手な子達は外野。余った子達は応援に徹していた。
こちらの1番バッターは、グラウンド到着も1番だった、
自称メジャーリーグ歴代最高捕手ジョニー・ベンチ。
野球経験者らしい豪快な素振りをして、右打席に入る。
体育の先生のプレイボールの掛け声。
第1球。ヘロヘロの山なりボールに、豪快な空振り。
ピッチャーの球が遅すぎて逆に打ちにくそうだ。
「くっそう!!集中ぅう!!
集中っ!集中っっ!!」
ジョニー・ベンチは奇声をあげていた。
打席を外れ、何故か剣道の構えで素振りをしてた。
さすが元野球少女。関係ないか。
集中が功を奏したのか、野球未経験者の女子では逃げるしかない痛烈な打球が、グラウンドを囲むフェンスに一直線で這っていく。
既に2塁を回りながら、
汚い言葉でホームランにならなかった悔しさをこれでもかと表現したジョニー・ベンチは、ホームベースも駆け抜けて行った。
『まさか』
スポーツマンシップの欠片もない野球少女の暴言に、守護霊様が驚きを溢した。
『先刻の素振りですが、
あれは正に、武士のお手本となるような一振りです。
まさかとは思いますが、あの振り方はどう見ても』
「へへーんどうだったぁ〜ウチの活躍ぅ〜☆
ご褒美にこの二の腕を゛ぉお!」
さっきトイレで言いかけたことを話してからだ、とひっぺがす。
ベンチはニンマリと口角を上げる。
そのまま顔を寄せ、口角が近づいてくる。
「うん。ウチの守護霊様はね、
細川藤孝っていう人だよ〜」
『ふ、藤孝殿。。』
次筆に続く