8肩凝りー火災訓練中のお手洗いー
【明智光秀の霊が見えるって、ホント?】
2時間目の終了をカウントダウンし始めていたところだったのに。
・・・まさか詩まで?
横目で見る。
。。例題問題を解いたあと、ノートに何やら公式を写しとっていた。
黒板に目をやると、例題問題の後、教科書の次のページにある公式が書かれていた。
慌てて、わたしもノートに書き写しきったところでチャイムが鳴った。
騒がしくなった教室内で1人ノートに目を落とし考えていると、視界に大きな左手が入ってきた。
「さぁ!答えを聞かせてもらおうかぁ〜」
満面の笑みで聞いてくる。
その時、また詩から、わたしの机に切れ端が置かれた。
【光秀の話、一緒に聞きたい!】
明智光秀の名前を出された時は、正直心臓が止まりそうなほど驚いた。
今日を境に変なヤツって思われるのかもしれない。
けど肩凝り解消にちょっとでも繋がるなら賭けない手はない。
2人を近づけて、確認する。
絶対3人だけの秘密にすること。
左手はサムアップ。切れ端は【わかった】。
はぁ。
とりあえずお母さんに言われたことだけを話す。
ーわたしには明智光秀の幽霊が取り憑いてるみたいで、それはうちの家を代々守ってきた守護霊様らしいと。
生前の明智光秀は肩凝りが酷かったから、取り憑かれたわたしも肩が凝るってー。
左手は右手と叩きあって拍手。
その向こうに大きな笑い声が聞こえる。
詩は何故か目を輝かせてこちらを見ている。
「あっはっはっは!!
変な話ぃ〜!じゃあ成仏したら肩凝り治るね笑」
それが出来ないからこんな話をしているんだってのに。。
「でもじゃあ、織田信長の話はなんだったの?」
素に戻って聞いてきた。
『・・・出来れば、伝えないで頂けると・・』
そりゃそうだ。
たった今、肩凝りについて大爆笑された人に聞かせたくないよね。
織田信長だったら成仏させてくれるかもしれないと思って言ってみただけだよー、などと苦しい言い訳をしてみたが、案外あっさり受け入れられた。
「なるほどねぇ〜、
中学の頃から肩凝りに悩まされてたもんね〜。
早く治るといいね!」
それを聞いた詩は席を立って、わたしの後ろに回り込み、肩をトントン叩き始めた。
なんだか肩凝りが少し楽になった気がして、笑みがこぼれる。
授業の合間の10分間は気づいたら終わっていて、
3時間目の自習時間になっていた。
一応授業中だったけど、授業を始める人もいないからみんな喋ってて気づかなかった。
ガラガラッ
教室後方ロッカー側の引き戸が開いて、エクソシストが帰ってきた。
クラスのみんなにからかわれたり、小突かれたりする中を、微笑を返しながら自分の席に戻っていった。
彼には後で聞いてみなきゃいけないことがある。
それまでは束の間の楽しい時間として、3人で他愛のない会話を楽しんでいた。
。。リラックスしたからかお手洗いに行きたくなってきた。。
ジリリリリリリリリッ
[火災訓練です。火災訓練です。生徒の皆さんはすぐに移動できる準備をして、教室で待機してください。火災訓練ですー]
忘れてた。
今日は3時間目に火災訓練だった。
うちのクラスは自習だから引率をする先生がいない。生徒たちだけでグラウンドに移動しなくてはならなかった。
2時間目から出しっ放しの教科書やノートをしまっていると、
[全校連絡です。全校連絡です。
出火元は、B棟1階の家庭科室です。
生徒の皆さんは指示に従って、A棟からグラウンドに移動してください。全校連絡ですー]
クラス委員の号令で、廊下に並ぶ。
本当にB棟1階から出火していれば、向かいの棟、一つ下の階から煙や火が立ち上るだろうが、見えるのはいつもの家庭科室だ。
一応人数確認の点呼をするため2列に並ぶ。
わたしたち3人は最後尾に並んだ。
クラス委員が最後尾まで点呼に来たところで、わたしの消火器はピークだった。
お願いして先に行ってもらい、お手洗いに向かった。
恒例の、校長先生の長話中に暴発させるわけにはいかない。
幸い誰かに止められると言ったこともなく、無人のトイレに駆け込んだ。
。。。。。。ふぅ。
手を洗って、誰もいない廊下に出ようとした時、
大きな左手が行く手を遮った。
いつの間にやら、一緒に消化器点検をしてたのかな?
わたしは中を空っぽにしたし、いつ火事が起きても大丈夫。きっと彼女も。
さぁ戻ろうと一歩前に進むが、立ち止まったままこちらを見ている。
「さっきの話なんだけどさぁ、
あの時は大爆笑してごめんね〜」
全然気にしてないのに。
こういう素直なところは本当に健やかだ。
さすが、元野球少女。
「ウタちゃんもいたしね。
ウチ、隠し事は嫌いなんだけどね〜」
実に素晴らしい心がけだ。
さすが、元野球少j
「あのさ〜、ウチにも、守護霊様が憑いてるんだ」
唐突すぎる告白に唖然となる。
まさか、本当に?
「ウチの守護霊様は〜」
その時、数学の先生がやってきた。
「ちょっと!こんなところで何してるの!
火災訓練よ。早くグラウンドに向かいなさい!」
すみません消化器が〜と2人して愛想笑い。
先生に、クラスの列に連れて行かれる。
「ウチのことは、またあとでっ」
小さく囁かれた。
小走りでグラウンドに行くと、
怒鳴る校長先生の目の前でエクソシストが寝ていた。
次筆に続く。