6肩凝りーアメリカ野球史上、最強捕手筆頭ジョニー・ベンチー
彼もわたしと同じように、誰かの依り代なの?
授業が終わり、彼の元に向かおうと一歩目を踏み出した、その時。
「つ〜かま〜えたーっ!」
突然、前の席の女の子にすごい力で抱きしめられ、教室の後ろのロッカーまで追いやられた。
「あ゛ぁ〜
今日も柔らかな二の腕ごちそうさまです〜」
無理やり、勝手にご馳走になりやがった。
柔らかな二の腕なんて注文、入ってもいなければ提供した覚えもない。
17年モノの自家製二の腕に、腕を絡めて頬ずりを繰り返すこの子は中学からの友達。
この子の左手は、右手の持ち主と別人と言われても納得してしまうほど大きい。
本人曰くその左手は、アメリカの野球で史上最高のキャッチャーとも謳われる、ジョニー・ベンチのものなんだとか。
その大きな左手に大きなキャッチャーミットを構える姿から、試合のたびに恐れられていた。
事実守ってよし、打ってよし、走ってよしの三拍子揃った野球少女だったらしい。
今はもう野球を辞めちゃったけど、中学の時はスポーツ少女だったわけだし、二の腕フェチな自分の欲求に誠実なところは心身ともに健やか過ぎると言えなくもないかな?
いや。ただの邪だな。
そう思いつつもとりあえず大の親友が信長なら話は簡単になるな。
考えてるうちに、二の腕に絡まった腕が上下に高速移動を始めた。
絡める・擦る・揉むの第二段階に突入したのだ。
わたしは力ずくでわたしの腕を取り戻し、耳元で囁く。
変なこと聞くようだけど、もしかして織田信長が取り憑いてるせいで、腕を触ったりするなんてことないかな?
『の、信長様はそのような邪な方ではありませぬ!』
「ふっふ〜ん。。
気づいてしまったかぁ!」
えええ!
『えええ!!』
この子が。この子が守護霊様の言っていた、
誰もが羨む健やかなる人?
ならば歴史の教科書に付け加えられるべき重要な発見をしたかもしれない。
織田信長、二の腕好きな変態説。
『このような、、、嘘だ』
「ウチは信長を超えたスーパー信長!
その二の腕を我が領地にしてくれるぅ〜」
あれ?
話が噛み合ってない気がする。
というか、伝わらなくて当然なのか。
腕を触らせながら改めて聞いてみる。
あなたは織田信長の幽霊と話したり、幽霊が見えたりしますか?
「そんなことあるわけないじゃ〜ん!
信じるべきはただ一つ、この二の腕だけ〜!」
邪なだけだった。
『邪でよかった』
疲れた。
頭も疲れたし、なによりこの子の左手からは、独特の感触を与えられ続けている。
「ところでさ、ウチも一つ聞いていいかなぁ〜」
腕なら好きにしていいよ。
全てを観念して前ならえをして差し出す。
「ううん、違うの〜。
あのね、肩凝りにいつも悩んでるよね?
もしかして幽霊と話したり、幽霊が見えたりする〜?
明智光秀の」
次筆に続く