22肩凝りー対峙②嵐の前ー
人生最初の命がけの数歩。
心臓の鼓動が聞こえてきそう。
恐る恐る廊下に目だけを出すと、誰もいない。
反対側は。
・・良かった。誰もいない。
『一先ず。ですね。さ、今のうちに』
とりあえず足音と反対側に行く。階段を降りよう。
ここは二階だから、学校脱出には、1階に降りて下駄箱を通ってから正門に行くしかない。
焦れる気持ちを抑えて、ゆっくり確実に降りていく。
階段の折り返しのところで、一階の廊下を覗き込む。
「何してるの?」
・・!!恐怖で声も出なかった。
身体を震えが支配するのを制してなんとか振り返る。
昨日の、剣道部の、男子。
二階の廊下から、わたしを見下ろしている。
足音は聞こえなかった。
いつの間に。
理解が追いつかない状況に、心が悲鳴をあげそうになる。
『ひかり様、気を強く持ってください。
昨日某が追い払った男。問題ありません!』
そうだ、よね。ありがとう光秀。
身体は震えるけど、なんとか動きそう。
体に力を入れ直して、一段飛ばしで階段を駆ける。
「待ってよ。昨日は悪かったよ」
わたしの動きを察したように、太くて恐い声が、狭い階段を伝って降りかかる。
話なんてする気ない。
逃げるっ!
上手く動かないなりの身動きで、
階段は最後の2段を残すのみ。
すぐ後ろで、校舎中に響き渡る破裂音。
飛び降りたんだ!階段の折り返しまで。
10段くらいある段差を。
「待てって言ってるだろお゛!」
『ひかり様っ!』
足の裏に衝撃。よろけて転んだ。
床に竹刀が転がっている。
2階に上がる階段への折り返しに、あいつがいる。。
逃げようとするけど、痛みが走って上手く動かせない。
なんでこんな目に!
涙が染み出して来る。
「あーあ。泣いちゃったぁ。
おい、どうする?笑」
誰かと喋りながら、
一階の廊下までゆっくり降りて来てる。
『ひかり様、距離をとってください。
見たところ他に飛び道具はありません』
さらなる恐怖にややかき消された痛みを引きずって中庭に入る。
そんなわたしの背中にぶつかるような強い声が、覆い被さる。
「お前、誰の依り代だ?」
この人も。
絶対に教えるもんか。
「俺も守護霊様も、人の上に立つのが好きでね。
剣を愛する心も持ってる。お前のはどうなんだよ」
さらに威圧的と嘲笑混じりの声が迫る。
こっちを見ずに言ってるのが余計恐い。
『くっ。許せませぬ。刀とは本来無闇に振るうものではなく、護るための力。それが剣を愛する心などと』
あいつが、竹刀を拾う。
剣道で全国制覇したっていうのは、きっとこの人の守護霊様の力。
『某も同意見です。強き心あっての強い剣なのです』
だよね。
怖いのは怖いけど、
こんな人に怖がってる自分が情けないと思ったら、震えが収まってきた。
その間にも、竹刀を構えてじりじりと距離を詰めて来る。
目を逸らさないようにしながら下がる。
でも、これ以上は・・・行けない。
コンクリートの冷たい感触が背中を蝕む。
『ひかり様』
瞬間、地鳴りにも似た呻き声を上げながら、頭を抑えてしゃがみこんだ。
かたわらに、リコーダー。
「くそっだれ゛ぇ誰だぁああ!!!」
「ジョニー・ベンチだぁああ!!!!!」




