19肩凝りー霊ー
火曜日。
「ふわわ〜。めちゃんこ眠い〜」
「わたしもなんだか夜更かししちゃった」
「偶然だねー。私も眠れなくて」
わたしも、ベンチも詩ちょんも、
みんな眠たそうだった。
なんか目を合わすとそわそわしてしまい、
3人ともあまり話もないまま放課後になった。
文化祭の練習のために、今日も屋上に向かう。
わたしとベンチがリコーダーを取り出したところで、詩ちょんが口を開いた。
「ねぇ、ベンチちょんに聞きたいんだけど」
「もしや詩ちょんもステージ出たくなった〜!?」
「えーっと」
珍しく、詩ちょんがベンチのボケに笑わず考え込んでいるようだった。
「ステージは1番前で応援させてね笑
聞きたいのはね、ベンチちょんにも守護霊様がいるのかなって」
わたしに目配せするベンチ。
「あはは〜。さてはひかりょん!バラしたなぁ!
詩ちょん!黙っててごめんね〜。
実は、細川藤孝っていう人が守護霊様で〜、
この左手がその証拠みたい笑」
いや、わたしは言ってない。
そう言うより先に答えられてしまった。
「そうだったんだ。
全然!大丈夫だよ笑
その細川藤孝様って、あの細川幽斎様のことだよね!?
政治、戦術、人柄、芸術、教養。全てにおいて当代随一の名将として名高いよね!
私の1番好きなエピソードは室町幕府15代将軍の足利義昭が亡くなった時に葬儀を執り行ったのが幽斎様なの。やっぱり元々は13代将軍義輝様のー」
だんだん早口になってきて最後の方は聞き取れなかった。
『お二方と藤孝殿に、昨日の話を』
そうだった。
詩ちょんに、光秀も藤孝さんも、現世に留まっているかも知れない織田信長と、その依り代を探していることを簡単に説明して本題を切り出す。
青い瞳は真っ直ぐわたし達を見つめて、
時に真剣に、時にニヤニヤ聞いていた。
「昨日ママに、生前の織田信長について調べてみたらヒントがあるんじゃないかって言われたんだ
[聖地巡礼〜]っていうのがあるんだけど、みんなでー」
「聖地!!巡!!!礼!!!!」
詩ちょんが鼻血を吹いた。
なんでも戦国時代が好きな人にとっては、
憧れの行いであるらしい。
カバンの中に入ってるはずのポケットティッシュを探しながら相槌を打つ。
「おお〜!それ名案っ!
みんなで行こう!旅行だ〜っ!」
ティッシュを渡す。
詩ちょんは小さく丸めて鼻に詰める。
「あぁ・・憧れの・・・聖地巡・・・フフフ!」
詰めていたティッシュが抜け落ち、鼻血が滴る。
「あっ、待って待って〜!
ウチの藤孝ちょんが、その前に澤先生と話をしたいって言ってる〜」
「えっ?なんで澤先生?」
新たに丸めたティッシュを歌ちょんに詰め直しながら反応する。
「避難訓練の時、ウチらトイレで捕まったじゃん?
あの時ウチらじゃなくて藤孝ちょんを見てた気がするって言うんだよ〜」
「そんなことなかったと思うけどなぁ」
記憶を巡らせている間に、鼻にティッシュ美女はわたしの膝の上で仰向けに横たわる。
軽い。
「・・・澤先生、霊感あるんだって。
お寺の生まれで、そういうの、分かるって」
出血が多量だからか、息も絶え絶えに絞り出した。
そうなんだ。
そんなこと知ってる詩ちょんって、澤先生と仲良いのかな?
「じゃあ、ウチは澤先生に会ってくる!」
「私も行k」
上体を起こすと、また鼻から血が、さながらマーライオンのように流れてきた。
「怪我人連れてけないよ〜笑
それにウタちょん言ってたじゃん!
藤孝ちょんって、なんか音楽音痴?なんでしょ!?」
当代随一だよ。
「だから病人は看病されててくださいっ。
じゃ、行ってくるから〜!」
バタンッ
ベンチがドアに向かって1歩踏み出したちょうどその時、知らない男子が屋上にやって来た。
誰だろう?
「さてはウチのリコーダーギターのファンだな〜?!」
限りなく可能性は低い。
差し詰め、詩ちょんを呼びにきた文化祭実行委員とか、ラブレターを渡しに来た片思い男子だろう。
その男子は、下を向いたまま何もせずに扉の前で立ち止まっている。
「あの、どうかされましたか?」
詩ちょんが体を起こして声をかける。
だというのに、男子は見向きもしない。
全く返事もせず、とにかく下を向いたまま。
「この人あれだ〜っ!!!
剣道部でよく表彰されてる人じゃん〜!」
あっ。そういわれれば。
この高校、団体戦は弱いらしいのに、
個人戦で全国優勝したっていう3年生の人。
話しかけても反応がない男子にベンチが近寄って行く。
「ウチ、先輩知ってますよ〜。剣道部の当代随一ですよね!
どうかしたんでs」
ウガガアアアアッ!!!!!
突然、獣のように目を剥いて叫んだ。
詩ちょんは腰を抜かしてヘタリ込む。
ベンチはっ!?
あの男子と目が合ったまま硬直してる!
まずいよ!離れてよ!!
でも、わたしも体が震えて動けないっ!!
何がなんなの?
怖いよ。
『ご主人様・・・っ!!!』
その時、光秀の声が耳元で聴こえた。
次筆に続く。




