10肩凝りーごちそうさま。いただきます。ー
『藤孝殿。。』
とりあえずお互い聞きたいこともあるだろうけど、話の続きは、放課後わたしの家にお預けとした。
9番打者のわたしと、ジョニー・ベンチの2打席目がもうすぐだったし。
結局殆どの女子がバットに当てることも出来ず、シートノックならぬシート素振りをしたところで、お昼休憩を告げる鐘が鳴った。
結果は3-0で我ら1組の完封勝利!
ベンチは圧巻の全打席ランニングホームラン。
3打席目はギリギリでフェンスを越えられず特に口汚い言葉で悔しさを表現していた。
教室に戻り着替えを済ませ、お弁当を広げる。
バットを振ったりボールを投げるのは普段使わない筋肉を刺激するのか、明日以降の筋肉痛を予見させる。
着替えの遅い女子達のせいで、男子達はブーブー言いながら廊下で待機中だ。
いつもご飯は、前と右隣の席をくっつけて凸の字を90度倒した形になって食べている。
ジョニー・ベンチのごちそうさまに続いて、わたしがいただきますを言ったところで、詩が席に戻ってきた。
お弁当を食べる直前に必ず手を洗いに行くんだよね。
ハンドクリームを塗って、手を合わせて、いただきますと呟く。手からシトラスのいい匂いが漂ってくる。
「うたちょん遅かったね〜
トイレ大名行列してた〜?」
ちょっと待った。
なんなのだうたちょんとは!
本来ならば詩様と呼んだって、まだ敬意を表しきれないというのに。
「だって〜。ウチら光を呼び捨てじゃん?
詩ちょんには光ちゃんって呼ばれてるじゃん?
呼び捨てとちゃん付けはもう残ってないんだから、ちょん付けしかないじゃん〜!
だから、うたちょん。うたはひらがなね!」
・・・じゃあ、わたしは?
「んん〜
うたちょんと来たらぁ〜
ひかり〜・・・あっ!ひかちょん」
仮にこの子が将来大金持ちになっても、彼女にネーミングライツを買わせるべきではないな。
「不満〜?じゃあ、ひかりょん!」
言いにくい!
でもこの子のネーミングセンスの前ではこれ以上の名前も現状望めない。
わたしはひかりょん。詩はうたちょんと呼ばれることとなった。
「えぇ〜2人ともいいなぁ!ウチにもあだ名つけて〜」
そりゃ勿論。
満場一致のジョニー・ベンチ。
「うおおお゛おおおー!
また一歩レジェンドに近づいてしまったぁ〜!」
感動している。感動しすぎている。
あっ、トイレに駆け込んで行った。
神妙なほほえみでベンチを見送る。
すると詩ちょんから耳打ちされる。
「ひかりょん、ひかりょん。放課後空いてる?」
早速のひかりょん呼び。
どうやら詩ちょんは、ひかりょんがお気に召してしまったようだ。
折角だが、放課後はベンチとの先約がある。
今日は予定があるからと、断腸の思いで断った。
5、6時間目は選択授業。
ベンチと詩ちょんとは授業も教室も別。
学生らしく、しっかり勉学に取り組もう。
そういえば、ベンチの守護霊様という細川藤孝という人の名前は初耳だ。
いつの時代のどんな人なのだろう。
誰にも聞こえないよう、美術室に向かいながら小声で尋ねる。
「さっきの、細川藤孝って誰なんですか?」
『細川藤孝殿は。。
初めは足利将軍家の臣。その後信長様の臣となり、某とも多くの戦を共に戦いました』
なんと戦国時代の人だったとは。
しかも守護霊様と面識があるみたい。
一緒に戦った仲間なら心強い。
。。のはずなのに、肩こりは少しだけ威力を増した。
次筆に続く




