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七海は昔を語らない 6

「俺たちの話をするとしよう」


 そうして、迅人たちの長い時間がやってきた。

 これまでのこと。これからのこと。そして、終わりについてまで。これは最初で最後のミーティング。《魔王》迅人と、《勇者》恭介の戦争を始める。暗に、そう告げていた。


「俺とお前は、良くも悪くも似ていた。生まれた家庭は正反対。付き合った友人の良し悪しも正反対。お前は常に裕福で、俺は常に貧乏だった。でも、俺以上の存在がいないという点においてのみ、俺とお前は実によく似ていた」

「そうだな。俺はいつだって誰かのためにあろうとして、お前はいつだって自分のためにあろうとした。だから、俺とお前は自然と出会った」


 迅人は生まれが貧乏だったがゆえに、他人に恵みを与えるという余裕がなかった。常にギリギリの生活を強いられるにつれて、迅人は他人から奪うという思考が根強くなった。

 逆に、迅人は生まれが裕福で、他人に恵みを与える余裕が有り余っていた。常に溢れる救済の精神は、とうとう世界人類にすら向けられるほどだった。


 二人は決して似ていない。容姿も、学力も、真面目さも、がめ強さも。けれど、彼らの生き様だけはどうあがいても似ていたのだ。彼らは人間としては歪すぎる。誰かに恵みを与えることに喜びを覚えるなど、神の所業であり。誰かの幸せを奪うことに生を感じるなど、獣の所業である。

 彼らは、ある意味では最も近い人間だったのだろう。だから、二人はこうして今、こうして話をしていた。


「お前が救おうとしていたのは、人類ではなく、いつもお節介ばかりを焼く隣人の望月七海だ」


 迅人の真っ直ぐな瞳は、恭介の顔を見つめたまま、冷静な口調で言い放った。

 恭介はそんな迅人の視線から顔を逸らすことなく、返事をする。


「お前が救おうとしていたのは、世界ではなく、常に俺たちの仲を取り持ってくれた望月七海だ」


 二人の言葉が交差する。

 二人が救おうとしていたのは、確かに人類や世界といった大きな存在だった。けれど、真に救おうとしたのは、いつだって自分たちの近くにいた人物だった。


 彼らは、いつだって三人だった。食事をするときも、話をするときも、喧嘩をするときも、仲直りをするときも。家は違うのに、三人は不思議な縁で結ばれていた。故に、望月七海が特別な存在であると知った時、迅人は絶望に身を焦がし、恭介は希望に未来を託した。

 二人は、良くも悪くも、望月七海の立場的変化によって、《魔王》と《勇者》になった、世界が始まって以来の例外中の例外だったのだ。


 恭介は、人類の救済を持って、七海の幸せを願い。

 迅人は、世界の救済を持って、七海の開放を誓う。


 二人は、二人が思う七海の幸せを巡って、対立していたのだ。


「俺は、俺が間違えているとは思えないよ。七海は全員の幸せを願うはずなんだ」

「違う。七海の立場が、世界が自分を守るために与えたものだとしたら、七海はただの生贄だ。もしも、世界が危機を感じることのないものになったのなら、七海はその立場から開放される。それで晴れて、七海は自由の身になれる」

「もしもそれで、七海が自由になれなかったとしたら? そもそも、七海が開放を求めていなかったとしたら? お前が求めているものは、一気に迷惑行為でしかなくなるんだぞ」


 二人の会話は静かに、したたかに白熱する。

 守りたいものは同じなのに、その手段が全く違う。生まれ持った性のせいで、二人は自分たちが守りたいものを、十全に守れないのだ。

 お互いがお互いを正しいと思えば、当然相手は間違えていることになる。終わりの見えないものに答えを得るにはどうすればいいか。否定する相手を消し去ってしまえば良いのだ。根こそぎ。完全にその存在を消し去ることができるのならば、自分の意見は正当なものに変化する。

 だからこそ、二人は戦争を起こすことに賛成した。二年という長い熟考の中で、二人が下した結論が、目の前の相手を殺すことだったのだ。


「だから、俺はお前が嫌いだ、恭介。俺にはできない方法で、俺の救いたいやつを救っちまうお前が、俺は世界で一番嫌いなんだ」

「俺だってお前が嫌いだ。俺以上に俺が救いたい人を想えるお前が、俺は人類の中で一番嫌いなんだ」


 そして、二人は立ち上がる。手に剣はない。だが、二人は確固たる対立の中で向き合っていた。


「でも、俺にはお前がどうしても殺せなかった。お前がいなくなれば、あいつが悲しむから……」

「七海は、俺たち三人がいる世界を望んでいる。それがわかるから、俺には《魔王》が殺せなかった」

「でも、それじゃあ、何も始まらないよな、恭介」

「ああ、何一つとして、終われない」


 戦争をしなければ、二人は一歩も進めない。

 けれど、二人は相手を殺せない。

 その矛盾を解消する術は、唯一つ。それに気がついた二人は、こうしてほくそ笑む。


「「だから、《魔王》と《勇者》の代理戦争を起こさせればいいと思った」」


 二人の言葉がピッタリと重なった。どうやら、お互いに同じ結論に至ったらしい。

 《魔王》は《勇者》の、《勇者》は《魔王》の顔を見て、大きく笑った。これまでの分を取り戻すように笑い飛ばした二人は、今度こそ武装を手にして、二度目の宣誓を行う。


「でも、七海を救うのは俺だよ、迅人」

「何言ってやがる。あいつを救うのは俺に決まってる」


 カチンと切っ先をぶつけて、二人の二度目の宣誓は成された。

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