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七海は昔を語らない 4

『《勇者》を除く、英傑たちに告ぐ。

 私の名前は、黒崎迅人。日本直轄、特別地域《縛神》にて、今世紀の《魔王》を担うものである。

 早速だが、私は貴君らを、大量殺人を犯した、ただの犯罪者だと思っている。


 貴君らに問おう。

 英雄とは何か。英傑とは何を持って栄誉なのか。

 命を奪うことに特化した貴君ら現代の英傑に問いたい。

 流血の上に成り立った栄誉に、果たして如何程の価値があるのだろうか。


 失礼ながら言わせてもらおう。

 価値などない。貴君らのおこなった行動の一切は殺人であり、決して褒められたものではない。

 貴君らは、強さというまやかしの正義にふんぞり返った、ただの愚か者である。


 もう一度言おう。

 貴君らは、大量殺人を犯した、ただの犯罪者である。

 もしも……ああ、もしも違うというなら。

 自分は正義に酔いしれた愚鈍ではないと、否を叩きつけるのならば。

 指定された日付に、私の下に来られたし。


 各国にいると思われる、英雄英傑たちに告ぐ。

 これは、《魔王》からの挑戦状である』


 これが、迅人が全国各地に送った手紙の内容である。

 世界規模で行われた迅人の挑発は、そのまま世界規模の喧嘩――すなわち戦争へと発展した。数多くの人の命を代償として成り立った諸国は逆鱗を撫でられ、その他の英雄と呼ばれた者たちは皆、堪忍袋を引きちぎられるような激情を抱いた。

 その憎悪というほどの深い感情の収束点は迅人。つまり、《魔王》などと名乗る極東の田舎ザルへと向けられた。


 その総力は締めて対最終決戦戦闘レベルである。全世界が、一人の学生を殺すためだけに、世界の最後を乗り切るための戦力を導入してきたのだ。もちろん、そこにはエゴやプライド、体裁を守るというものが含まれているのは言うまでもない。


 しかしながら、各国の戦力が一同に向かって来る様は、実に地獄絵図であった。

 睨みを利かす有象無象の英雄英傑たちが、一様に特別地域《縛神》へと足を踏み入れる。異様な空気が、その日は街のあちこちから感じられた。


 そして、迅人は自分が書いた手紙の原本を手に取り、何やら笑っていた。


「……何がおかしい?」

「いんや。特にこれと言っておかしいことはないけどな。ただ、よほど奴らは馬鹿にされるのが嫌ならしいと思ってな」

「自分が立てた功績を馬鹿にされるのは、誰だって嫌だと思うのが道理だと思うが?」

「馬鹿言え。人を殺すことが功績なら、それこそアドルフ・ヒトラーやヨシフ・スターリンなんかは英雄神になれるぜ」


 それとこれとでは、話が違う。

 しかし、横で待機していたバレンは、そうは言えなかった。違うとわかっていても、世界では誰かが先程の二人を英雄視する者たちがいることを、バレンは知っているからだ。

 英雄とは、とどのつまり、その人の利益を考慮して生み出される、ご都合主義の偶像でしかないのだ。その点を鑑みれば、自分たちや他人が掲げる正義など、特にそれが当てはまってしまう。そう、結論で言えば、バレンを含め、《魔王》であろうとも、正義は存在する。それが褒められた正義なのかはさておくとしてだ。

 ならば、自分の正義を貫いた各国の英雄諸君は、真に英傑なのだろう。たとえ、それでどれだけの血が流れていようとも。


 そして、それを良しとしない正義を掲げるのが、他でもない《魔王》だったのだ。

 迅人は手紙を放り、黙ったバレンに問う。


「人を殺して英雄になれるなら、人は殺人兵器だ。殺人兵器が正義だという世界は、本当に正しいのか?」

「それは……」

「否だ。断じて否だ。人が人を殺すことに正義はない。人が、他人の正義を踏み躙るのは、悪だ。悪が蔓延る世界は、絶望に満ちてるって、どうして誰も思わないのかね?」

「……」


 思わないのではない。思えないのだ。

 バレンは、静かに心で訴えた。


 人が人を殺すことに、正義という理由をつけて制裁を行うのは、それが世界の成り立ちだからである。国が戦力を持って対抗をするのは、それが国家間の正義の示し方であるからだ。そこに一縷の悪という感情はない。なぜなら、自分が正義であるという自意識を持っているからだ。

 そして、敗北した者たちが自分たちの正義の脆弱さに絶望する。これこそが世界である。


 しかし、迅人は違った。

 迅人は絶望していた。端から絶望をした色眼鏡で世界を見つめていたのだ。

 人は、迅人のようにできていない。幸福が全く目に入らない人生を送る定めなど、考えるだけでも恐ろしいはずだ。

 バレンが完全に沈黙したのを最後に、迅人は笑う。


「俺がおかしいってことはわかってるさ。さんざん目の当たりにしてきたことだ。今更、どう思われようが、正直何も思うことはない。けどな、バレン。バレン=カラー=ゾロアスター。俺は見てみたいんだ。絶望なき世界を。その先にきっとある、俺が目指した未来を、な」


 果たして、迅人が目指した未来とは何なのか。

 バレンはまだ知らない。どうして、迅人が世界中を敵に回してまで、強行とも思われる手段を取ったのか。どうして、今世紀の《魔王》と《勇者》が二年もの歳月、戦争を起こさなかったのか。

 そして、《魔王》と《勇者》。その二人と浅くない縁を持ち合わせている望月七海という存在を、バレンは知らなかった。


 やがて、時は訪れる。

 迅人が集めた英傑たちが、一箇所に集まり、今にも迅人の首を狙ってほくそ笑む。

 緊張という言葉を知らないような迅人は、腕にはめた時計を見て、肩を竦めてバレンら側近たちの方を向く。


「さて、行くか」


 なんとも締まりのない言葉だが、側近たちは頷いた。


 《魔王》と呼ばれた少年は今日。各国と、代理戦争を始める。そしてそこには、あの《勇者》と呼ばれる少年も出席していた。

 波乱の予感が渦巻く中。《魔王》は英傑たちの前に現れた。

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