私は君を愛してる。
私は昔から、君の事が大好きだった。
君はいつも私の傍にいてくれた。
見たいときに見れる、素敵な存在。
私を別世界へと運び入れてくれる。
そう、本。
私は幼い頃からずっと、君を離さなかった__
「桜恋、桜恋。何処行ってるの?」
心配している母親の声が耳を通る。それでも、私の足は小さな古い書店、『おぼろづき』へと向かっていた。
当時5才くらいの私は、『おぼろづき』が漢字なのか平仮名なのか、あるいは片仮名なのか、それは分からない。
ただ、優しい大きな男の人とお兄さんが、書店の中を歩いていたのは記憶している。
「桜恋ちゃん、お母さんは?」
若いお兄さんの声だ。
私は首をかしげる。
「もう、心配したのよ。一人で何処かへ消えちゃうんだから。」
「だめだよ、桜恋ちゃん。最近、無実の人を捕まえたりする警察とか、色々危ないからね。」
そんな話をしてる間に私は本を読む。
小学生向けだろうか。漢字にはふりがながふってある。
「もう帰るわよ、あ、維月くん、これ。」
そういって母親は私の手に持ってる本を取り上げ、お兄さんへ渡した。
「ちょうどお預かりします。ありがとうございました。また来てくださいね。」
「維月くんありがとう。桜恋、さようならは?」
そこで幼い頃の記憶は途切れた。