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勇者は101人いる(リメイク版)  作者: 酔生夢死
一章 少年、召喚される
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09話 少年、死に戻る

(´・ω・`)個人的にバッドエンドより、大団円なハッピーエンドが好きです。

 現実が辛すぎるのに、空想の中くらいは明るくしたいものです。

 サバイバル生活2日目……

 眩しさで目を覚ますと、木々の隙間から朝の零れ日が差し込んでいた。


「ああ、そっか……異世界へ来たんだっけ……」


 即席テントの屋根を見上げながら、一昨日の事を思い出して小さく呟いた。

 徐に起き上がると、勇樹の腹の虫が主張をし始めた。


 勇樹が召喚されたのは一昨日の放課後、最後に取った食事は昼休みに学校の購買で購入した物足りない惣菜パンのみ、食べ盛り育ち盛りの男子にこの状況は些か厳しかった。

 しかし、食料の調達の見通しがない以上、勇樹の取れる行動は限られていた。


「上空から見た時には陸の孤島みたいだったけど……食べられる木の実とか小動物がいる事に賭けるしかないか」


 昨日ドラグニールから渡された魔動具(マジックアイテム)『マギフォン』を首から下げ、石の斧を手に取った勇樹は昨日の内にテントを作っている合間に作った、竹っぽい植物の水筒4つを縄で束ねて肩に掛ける。


 人間は少々食事が取れなくても、空腹感さえ紛れれば我慢はできる。

 しかし、水は1日飲まないだけでも飢餓感に襲われ、汗が止まれば身体が熱を持って怠さも出てくる。

 故に脱水症状で動けなくなる前に、水源を最優先で確保しなければならない。




 昨日の内に小川は見つけていたが、勇樹はそこの水を飲むつもりはなかった。

 何故なら小川の水というのは見た目以上に汚い。


 流れてくる間に動物が口を付けて飲み、水辺にあった糞尿などが雨で流れ込む場合が多々ある。

 遭難した場合でも、止むを得ない状況を除いて煮沸しても飲むべきではない。


 なので、水の汚染が最も少ない水源を目指して、勇樹は上流へと向かう。

 途中でマギフォンの鑑定アプリを使いながら、生でも食べられそうな植物を食んで空腹を紛らわす。

 川沿いを歩き始めて20分ほど経った頃、岩壁から湧き出ている湧水の泉を発見した。


 しかし、問題はここからである。

 水源があるという事は、勇樹と同じように水を求めてやってくる同類がいるという事に他ならない。

 勇樹はすぐに泉に近づく事はせず、草むらに隠れながら慎重に泉に近づいた。




 泉は切り立った崖の隙間からチョロチョロと湧水が流れ出て、それが途中にあった岩を削って受け皿のような形を作り、段々を作りながら下へと流れている。

 周辺は泉を起点にして半円状の空間には木々が生えておらず、水辺は泥がむき出して幾つかの足跡が残っていた。


 幸い、先客は居なかったので周囲を警戒しながらも、急いで竹モドキ水筒4つを沈めてブクブクと水泡を上げながら水を汲む。

 そして水泡が上がらなくなり大人しくなった事を確認すると、素早く引き上げてその場を離れた。




 先に発見できたのは幸運な偶然だった。

 木々の向こうで黒い影が動いたような気がして、足元の枝を踏ん付けて音を出すようなベタな失敗をしないように注意を払いながら近づいてみれば、巨大な影が動いた。


 ガリゴリと硬い何かを噛み砕く音に混じって、クチャクチャ水っぽい音を口元から立てて、何かを夢中になって貪っている。

 体毛は黒曜石の様に黒く、獅子のような(たてがみ)を生やし、額からは1対の角が前に伸びた巨獣。

 ソレの名前は『ブラックモス』、冒険者協会では上級のAランクとして災害指定される上級モンスターであった。


 予想以上の大物に発見した勇樹も、地面に這い蹲りながら冷や汗が止まらない。


「(どうするどうする!? 逃げ場はないし、というより動いたらアウトっぽいし、でも早く動かないと日が暮れて帰れそうにないし……あっ)」


 ふとズラした視線を戻した瞬間、口から赤い物を滴らせるブラックモスと目があった。


 結論から言えば如月勇樹は一度死んだ。


 目が合った瞬間、背筋が凍るような感覚と共に反射的に草むらから反対方向へ走り出そうと飛び出した。

 直後、背中に何かに突き飛ばされるような衝撃と、熱せられた金属を押し付けられたかのような熱さが胸を貫いた。


「……カフッ」


 声を出そうとすると、口から赤い何かが流れる。

 何故か呼吸ができず、息が苦しい。

 ゆっくり視線を下げると、胸に何かが生えていた。

 背中に巨大な気配を感じる。


 背後を振り向くと、先ほどの魔獣の頭がすぐ目の前にあった。

 巨大な気配の正体はブラックモスだった。

 視線で辿ると、胸を貫いているのはコレの角らしい。

 肺と心臓を貫かれ、熱さが次第に猛烈に痛みに変わって行く。

 そこで初めて、口から出た物が自分の血であることに気付く。


「ケホッ……あ゛ぁ?」


 貫かれた部分は焼けるように熱いのに、指先から冷たくなってゆく感覚に陥る。

 痛みで頭に中が掻き回される感覚でフラフラになりそうな中、強烈な眠気が襲い掛かってくる。

 そして意識が朧気ながらに、この感覚のまま目を瞑ってしまえば恐らく2度と目覚める事が出来ないと直感した。

 ゆっくりと角が引き抜かれ力なく倒れた瞬間、勇樹の身体は光となってその場から消えた。




「ガッ!? ハァ……ハァ……あれ、何で?」


 全身が冷や汗まみれになりながら勇樹は飛び起きた。

 慌てて周囲を見回し、自分の体を触って傷の有無を確認して夢や幻でないかを確かめる。


 一瞬、先ほどの遭遇が夢だったかと考えたが、まだ痛む身体、自分の服に大きな穴が開き、真っ赤に染まっている事が現実だった事を示していた。


 しかし、何故自分がここに帰って来ているのかが疑問であった。

 何せ胸を貫かれた時の感触はハッキリ覚えていて、確実に死んだはずである。

 仮に誰かが助けに入ったとして、あんな巨大モンスターに襲われている状況で助けてくれる者など……と考えたところで、1人だけ思い当たった。


『ふぉっふぉっふぉっ、早速発動した様じゃのう』


 思い当たったのと同時に、その張本人の愉快そうな笑い声が勇樹の頭の中に聞こえた。


「……なんか狙ったかのように思えるんですけど、これってどういう事なんですかねぇ?」


『お主の首に掛けた首輪の効果の発動を確認したからじゃよ。その首輪には死にかけた者を安全な場所まで転送してくれる効果があるんじゃ』


「へぇ~、そうなんですか~……って、それより何なんなのこの場所は!?」


『簡単に言えば修練場じゃよ。それも特別な者のな』


 それまでのふざけていた声色が、急に真面目な物に変わる。


『そこは“竜の砦”と呼ばれる場所。と言っても、『竜が住む砦』ではなく『竜が鍛える砦』という意味で付けたんじゃがの』


「竜が鍛える?」


 勇樹は首を傾げた。

 つまりこれはアレだろうかと、某タイガー・ホール的な意味なのかと考えた所でドラグニールが笑いながら答えた。


『前にいた勇者がのう、ここを作った時にそういう名前にしようと言っておったのじゃ』


 どうやらその勇者も同じ国の出身だったらしい。

 そこで勇樹はある事に気が付く。


「待って、前の(・・)勇者?」


『うむ、2千年くらい前に召喚された勇者がいてのう。その一人が儂に挑みかかってきたのじゃ。まあ、軽く捻ってやったがな!』


 ドラグニールの笑い声を聞き流しながら、勇樹はいきなり出た情報に頭が痛くなった。

 スマホの件から前の勇者というのが同年代であろう事と、出現する時代に差がある事も良くある設定なので、そこは気にはならない。


 しかし、この手の設定が出てくる話で先代が居るというのは、最悪なパターンがいくつか想像できた。

 まだ生きていたり、ラスボスになっていたりetc.……とはいえ、今は考える事ではないとドラグニールに質問を続けた。


「その勇者がここを作ったってどういう事ですか? ここって勇者の訓練場?」


『うむ、概ねその認識で合っておる。何せお主らニホン人は戦った事の無い者が多い、こんな場所でも作ってまずは戦いに慣れさせんと魔物とすら戦えん』


「10代ならみんな学生だもんね。特殊な事情でも抱えていない限り、モノホンの武器なんて触った事もないだろうし」


『故に、そんな者たちに戦いを慣れさせる為に前の勇者と儂らでココを作り上げたのじゃ……まあ、事情はもう少し複雑じゃがのう』


 言葉を濁すドラグニールの声を聴いて、そこでまた嫌な想像が頭を過る。


『まあ、隠していてもしょうがないので言ってしまうが、儂の予想では恐らく城にいた勇者は3か月後に魔王が目覚めれば半分くらいに減っておる筈じゃ』


 そうあっさりと告げるドラグニールの声を、勇樹は何所か遠くで聞いている感覚に陥った。

 嫌な予感とは往々にして当たってしまう物である。


 最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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