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勇者は101人いる(リメイク版)  作者: 酔生夢死
一章 少年、召喚される
7/43

07話 少年、爺に拉致られる

(´・ω・`)リメイク版するにあたり、1章が10万字を超えました。

 ふっふっふっ、これで暫くはストックに喘がなくてあえ済みます。(慢心)


 暗闇から浮上する感覚、遠くから誰かの声が聞こえて、ゆっくりと意識を覚醒させる。

 そして、目を開けると最初に飛び込んだのは不毛の大地だった。


「知らないハゲ頭だ」


「一晩寝てて、開口一番がそれかよ」


 よく見ると、初めて冒険者協会に来た時に受付をしていた中年男性のアーノルド・シュヴァッツマンであった。

 勇樹は起きたばかりのボンヤリした頭で起き上がると、そこが冒険者協会のロビーだった事に気付いた。


「あれ? ここって……」


「ご覧の通り、冒険者協会だよ。一体何があったんだよ」


 アーノルドの問いに勇樹は深刻そうに顔を俯かせて、ポツポツと話し始めた。


「最初は1匹だったんです……でも奴ら、次第に数が増えてきて……剣で殴っても、中々減らなくて……気が付いたらボロボロで、あんな狂暴なモンスターが生息しているなんて知りませんでした……」


 まるで、大事な人を失ったかのような沈みように、アーノルドはポリポリと頭を掻いた。


「あ~、もしかして狂暴なモンスターってコレの事か?」


 アーノルドは1匹のモンスターの死骸を掴み上げた。

 それは間違おう事なき彼の宿敵である――ムクムクであった。

 重々しく頷く勇樹に、アーノルドは思いっきり呆れたように溜息を吐いた。


「あのなあ、コイツはムクムクっつって警戒心が滅茶苦茶強い動物でな。強い奴が近づくと一目散にいなくなるが、弱い奴を見ると縄張りから追い出そうと体当たりしてくんだよ。ガキでも罠を仕掛けりゃ捕まえられる奴だぞ? 初めて見たわムクムクにやられる冒険者なんて」


 一瞬、勇樹は彼の言葉を理解できなかった。

 あの凶悪なモンスターがザコ?子供でも捕まえられる?信じられないといった表情で、既に死んでだらりと伸びたムクムクを見つめた。


「ああそうだ、忘れてた」


 (おもむろ)にアーノルドは拳を振り上げると、勇樹の頭に思いっきり振り下した。

 鈍い音と勇樹は頭から床に叩きつけられる。


「初心者が森に行くなバカ野郎。そんなガキでも知ってる基本も知らねぇのか、そこの爺さんに感謝しろよ? 偶々通りかかってお前見つけてくれなきゃ、マジでムクムクに殺されてたかも知んないんだからな?」


 そう言ってアーノルドは勇樹の後ろを指さす。

 頭の痛みを堪えながら指された方に振り向くと、そこには道に迷った時に道を教えてくれた老人が勇樹に向かって手を振っていた。

 それを見た勇樹はポロポロと涙を流し始め、老人の元へ跳ぶように走り出して涙とか色々な体液を顔中から垂れ流しながら老人の腰に抱き着いた。


「ああ、貴方は何時ぞやのお爺さん! 2度も命を助けて頂いてありがとうございます!!」


「構わん構わん。相変わらず大袈裟な坊主じゃのう」


 前回はまだしも、今回に於いては本気で命の危機だったのであまり大袈裟ではないのだが、老人は軽く笑って縋りつく勇樹の頭を撫でた。

 それを呆れ顔で見ていたアーノルドは、面倒くさそうに書類を引っ張り出して勇樹の顔の前に突き付けた。


「ほれ、受けた依頼は達成できず、本来ならこのランクの依頼失敗は罰金100Eだが、特別0Eだ」


「え? なんで?」


 ムクムクに襲われながらも戻って来る間に10本は摘んで来た筈が、それでも依頼失敗とはどういう意味なのか勇樹は首を傾げた。

 勇樹は気付いていなかったが依頼書には3()ではなく3()と書かれており、1束が大体10本で計算されるので、1/3しか収集できていない事になる。


「良かったな。これは常に出ているタイプの依頼だから、失敗によるペナルティは発生しない規則になっている。言っとくが他の依頼で失敗したら相応の罰則が来るぞ?」


 丸めた書類で肩を叩きながら、アーノルドはビシッと勇樹を指さす。


「ついでに言えば、お前は弱い! ハッキリ言ってこの先不安しかない。冒険者を続けるつもりなら、まず体を鍛えろ!」


「う、うぐぅ」


 アーノルドの言葉に勇樹は反論する気すら起こらない、何せ今その所為で彼はここにいる訳なのだから。

 すると意外な所から声が掛かった。


「ふぉっふぉっふぉっ、心配召されるな。この若者は(わし)が責任を持って鍛えて進ぜよう」


「ふえ?」


 勇樹は思わず老人を見上げた。

 勇樹の目から見ても、老人の手足は細く、とても勇樹を鍛えられるのに付き合えるほど体力があるようには見えない。


「あ? じゃあ、やっぱ爺さんは……」


「まあ、儂に任せんさい」


 アーノルドの言葉を遮るように、老人はニヤリと笑って胸を叩いた。


「という訳で少年、早速だが儂の家にお主を招待しよう」


「へ? お爺さんの家?」


 思いの外、老人の強い力に驚きながら、勇樹は訳も分からぬままに老人に手を引かれ、ギルドを出て行く。


「じゃ~な~、また会う時まで生きてろよ~」


 後ろからはアーノルドが不吉なセリフを吐いていた。




 老人に手を引かれるまま歩いていると、どんどんと街の外側に向かってゆく。

 まだ薄暗く夜も明けきっていない為、全く誰も通っていない大通りを進んで行き、とうとう門を潜って町の外まで出てしまう。


「あの~、お爺さんって町の外に住んでるんですか?」


「そうじゃよ、家はここよりもう少し行った所じゃがな」


 薄暗い街道をどんどん進んで行き、街から見えなくなった所で老人が立ち止った。


「うむ、そろそろこの辺でいいじゃろう」


 そう言って立ち止まった場所は街道のど真ん中、家どころか人工物の一つも見当たらない原っぱが広がっているだけだった。


「えーっと、家なんてどこにもないけど……もしかして『俺の家はこの星さ』ってタイプの人?」


「そんな奴がおるか。そうじゃなく、ここなら儂も羽を伸ばしても問題なさそうだからじゃ」


「はね?」


 勇樹が首を傾げると、突然老人の口からお年寄りとは思えない唸り声が漏れる。

 そして、その声に呼応するように老人の皮膚が赤く染まり爬虫類も様な皮膚が現われる。

 体が盛り上がって巨大になって行き、爪が伸び、牙が鋭く変わり、翼が生えた。

 そしてそこに現れたのは、幻獣の王にして最強の存在が大きく雄叫びを上げる。


『グオオオン』


「…………ああ」


 それを見た勇樹は大きく目を見開いて、目の前の光景を焼き付ける。

 何せファンタジーの王道中の王道――ドラゴンを目にする事が出来たのだから。


「す、すっげーー!! ドラゴンだドラゴン! 本物? 形状からして西洋の伝承に出てくるようなトカゲ型だね。鱗が赤いって事はウェールズドラゴンと何か関連が……? いや、それよりもこの圧倒されるサイズ! 一説には語源が「鋭い眼光でにらむ者」であるとされるほどの鋭い眼差し! 人に化けていたのって魔法? それとも北欧神話に登場するファフニールのようなアイテムを使って? ああでもアレは元々人間だった者がドラゴンに変身したから微妙に意味合いが……」


『な、何じゃ。突然はしゃぎだしおって』


「だってドラゴンですよ! ファンタジーの王道! 高い知性と永い時を生きる幻獣たちの頂点にして最強の種族! 時には悪魔として恐れられ、時には神として崇め奉られる存在! それが今、僕の目の前に!! これに興奮しないでいつ興奮しろって言うんですか!!」


『分かったから、少し落ち着きなさい』


 喜ばれているので悪い気はしないドラゴンだったが、話が進まないので感動に打ち震えている勇樹の首元をヒョイッと摘み上げた。


『それでは儂の家。竜の砦に案内するとしようか』


「え、え? えー、ええ!?」


 最初は事態が飲み込めず、次に浮遊感に襲われ、事態を整理して、ドラゴンの言葉に驚きの声を上げる。

 だがその時には既にドラゴンは空に舞い上がり、勇樹の視界が物凄いスピードで流れて行く。


「速っ!? え、今、僕飛んでるの? アイキャンフライ!?」


 仔猫の様に首元で摘み上げられている勇樹は、首を後ろに回してその主の姿を目に入れようとしていた。


 それはファンタジーを語る上では欠かせない最強の生物。

 東洋では水神として、西洋では悪の化身として数々の神話や物語に登場するファンタジーの代名詞。

 赤銅の鱗に大きな翼を羽ばたかせて飛ぶ姿は、まさに勇樹が夢見たファンタジーの世界そのものだった。


「凄い……この世界に居れば、いつかは出会えるだろうなぁって漠然とは考えてたけど、まさかこんな早くにこんな至近距離でドラゴンが見られるなんて……!」


『ふぉっふぉっふぉっ、儂はその中でも世界に4つしかいない上位種じゃぞ?』


「スゲー! マジでスゲー!」


 欲しい玩具を目の前にしたか、憧れのスポーツ選手に出会った子どもが如く勇樹は目を輝かせる。

 そんな風に興奮する勇樹をぶら下げながら、暫く飛んでいると大きな山脈が見えてきた。


『見よ、あそこが目的地じゃ』


「あそこ?」


 老人だったドラゴンの視線に釣られて見た先にあったのは、周囲が8000mを超える山脈の窪地に出来た森林だった。

 空気の薄い過酷な環境、空気中の魔力含有量、閉鎖された空間がそこに住む魔物をより強靭に、より高みへ鍛え上げる――訪れた勇者はその地を“竜の砦”と呼んだ。

 最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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