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勇者は101人いる(リメイク版)  作者: 酔生夢死
一章 少年、召喚される
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05話 少年、冒険者になる

(´・ω・`)表現したい言葉が出ないと悔しいものです。

 自分の語彙の少なさが恨めしく思う反面、この表現で伝わるのかなと不安になる場面も多々あります。

 旧地区を抜けて門を潜った勇樹は、目の前に広がる光景に思わず息を飲んだ。


 先ほどのゴーストタウンが打って変わって、新地区の大通りは人で溢れ返っての大賑わいであった。

 通りの両側には屋台が並び、客寄せの呼び込みや調理の音、行き交う人の話し声や所々で起きる拍手など、様々な情報が飛び込んで来て勇樹の五感を刺激する。


 特に勇樹の目を引いたのは建物と人である。

 日本ではまず見られないデザインのまるでゲームの中のような木造建築の建物が立ち並び、道行く人は物語に出てくる麻生地のような服を着ていたが、それよりも目を引いたのは人種の多さ(・・・・・)だった。


 獣の耳や角を生やしている者、子ども並みの背丈しかないのに毛むくじゃらな男性や2mを超える大男、二足歩行している犬猫など、肌や髪の色も地球よりも多種多様で、その光景に勇樹は軽く感動すら覚えた。


「本当に異世界へ来たんだ……そして、人種が凄い! あの人は獣人みたいだけど何の動物かな? あっちの子供みたいのは小人(ハーフリング)? おお、ケットシーみたいなのもいる! 素晴らしい!!」


 道行く人を見ながら勇樹はテンションを更に上げて行く。

 その興奮冷めやらぬままに冒険者ギルドを目指して足を踏み出し……掛けて止まった。


「え、待って。ここを行かないといけないの? さっきのお爺さんは大通りの並びって……だ~!? 赤い屋根の建物ってここから見ただけでも5軒ぐらいあるんですけど!?」


 目算で横幅約8m程の通りとはいえ、そこに肩が触れるくらい人に溢れている。

 そんな人混みを横切って、一々屋根の色を確認して回るのは気が進む作業ではなかった。

 如何(どう)したものかと頭を抱えていると視界の隅のある物に気が付いた。

 勇樹は一瞬、恐怖で足が止まったが背に腹は代えられないと勇気を出してその方向に歩き出した。


「すいませ~ん、兵士のおじさん。道を教えてくださ~い」




「着いた……念願の冒険者ギルドに!」


 門の脇に立っていた兵士の(兜を取ったら細マッチョ系の好青年だった)お兄さんが親切丁寧に冒険者ギルドの場所を教えてくれた。

 途中で足を踏まれたり肩をぶつけられたり、子供が振り回した玩具が股間に当たって切ない痛みが襲ったり、お姉さんに正面からぶつかってしまい柔らかいクッションに包まれたりしながら、なんとか迷う事無く辿り着く事が出来た。


 暫く建物の前で目的地に到着した感動に浸っていたが、そもそも目的を思い出してギルドの扉を開けた。

 扉を開けた瞬間、勇樹を歓迎したのは……カウンターで欠伸をしている受付の中年男性一人であった。


「……あれ? ここって冒険者ギルド……ですよね?」


「ああ? そうだよ」


 勇樹の予想では、もっと鎧や武器を携えたムサイ男で溢れ返り、扉を開けた自分に視線が集中して皆が踏みする様にこちらを睨み付ける展開を想像していたので、少なからず緊張して構えていた。

 しかし、予想とは違う伽藍(がらん)としたホールがその広さも相まって寂しさすら覚える。

 立っていても仕方ないので、カウンターの男性に声を掛ける。


「あの……、なんで誰も居ないんですか?」


「んなの当たり前じゃねぇか。今日はお祭りだぞ? みんな遊びに出ちまって、それだと業務が止まっちまうから俺だけ留守居やってんのさ。全く、冗談で言ったのに全員本気にしやがって……一人ぐらい残れよな」


 男性は勇樹が聞いても無い事まで愚痴交じりに話す。

 目の前の男性の冗談の所為で、この建物内には男性以外誰もいなかった。

 若干ビビっていた勇樹は好都合とばかりにカウンターの椅子に座る。


「そういえば坊主、なんでこんな日にこんな心気臭ぇに来てるんだ? 祭りの日に来るような場所じゃねぇぞ?」


 男性は怠そうに頬杖を突きながら、薄汚れたカウンターを叩く。

 仮にも自分の勤め先に酷い言い草であった。


「いえ、僕は冒険者になりたくてここに来ました」


 それを聞いて男性が目を見開く。

 そして、嫌な表情を隠しもせず前面に押し出し、思いっきり顔を(しか)めた。


「は!? 何だって寄りにも因って今日、登録に来たんだよ!」


「そ~れ~は~……偶々、街に着いたのが今日だったので」


 「城を抜け出してきました」などと正直に言う訳にも行かず、愛想笑いで曖昧に答えると何やら納得したように頷いた。


「あ~、近くの村から来た口か。言っとくが冒険者はお前が思ってるほど気楽なもんじゃねぇからな?」


 中年男性はそう言いながら、カウンターの引き出しから用紙とペンを出した。


「俺は今日だけ臨時で受け付けやってるアーノルド・シュヴァッツマンだ。じゃあ、ここに必要事項を書いて……って、字が分かんないなら代わりに書いてやろうか?」


「いえ、自分で書けます」


 この世界の文字は地球と全く異なった文字だったが、スキルのお陰で読み書きは不自由なくできるので、スラスラと書類に必要事項を記入していく。

 と言っても、所詮はヤクザな冒険稼業。

 いつ死んでもおかしく無い上、基本根無し草なので名前と性別と年齢に出身地、それに主な連絡先ぐらいしか書く所はなかった。


 勇樹は一瞬、書ける所は全部埋めてしまおうと考えたが、変に目を付けられたら城から逃げた意味が無いので、最低限で名前と性別、年齢だけに留めておいた。


「おじさん、これでいいですか?」


「ん……ユーキ・キサラギ、男、17歳っと……よし、これがお前の冒険者カードだ。失くすと再発行だから気を付けろ? 登録が只な分、再発行は馬鹿高いからな」


「了解っす!」


 アーノルドはカウンターの裏で何かを操作して、ドッグタグのような白色のカードを勇樹に渡した。

 カードには魔法が掛かっていたらしく、カードを手に取った瞬間、勇樹の視界の隅にアイコンが現われる。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 Name:ユーキ・キサラギ

 Sex:M

 Age:17

 Rank:F(white)

 Save:0

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


「あの~、一番下のセーブってなんですか?」


「ん? それは冒険者協会に預けている金額だ。冒険者ってのは基本フラフラしてるから、大金を持って歩くなんてできねぇからな。協会で預ける事が出来んだよ。ただ引き出す時は手数料が掛かるけどな」


 勇樹は頷いて、カードに付いているチェーンを首に掛けた。

 首に掛けたのを確認するとアーノルドは説明を始めた。


「じゃあ、簡単な説明だ。冒険者は7つのランクに分けられる。一番上がSで一番下がFだ。カードもランクに応じて 金、銀、赤、黄、緑、青、白の七色に変わる。お前は初心者のFランクだから白だな。ちなみに犯罪をするカードが黒くなるから気を付けろよ? ここまでで何か質問はあるか?」


「カードの色はどのタイミングで変わるんですか? 場合によっては黒くなる前にカードを隠して近づかれたら分かりませんよね?」


「そりゃ無理だ。色が変わるのはそれをやった瞬間だ。それに依頼の成功を確認するのにはカードを使うし、身分証明にもカードを使うからな」


 勇樹が思っていたよりはしっかりとしたシステムのようだった。

 と言っても、「犯罪者上等!」なんて輩には意味はないかもしれないが。


「なるほど、分かりました気を付けます」


「次は一番気になる稼ぎ方だな。冒険者は基本3つの稼ぎ方がある。まずは協会の掲示板に張ってある“依頼”と熟す事だ。と言っても真面に稼げるようになるのは、大体Cランクぐらいからだな。それまでは兼業の奴が多い。次がモンスター討伐、ぶっちゃけこれは小遣い稼ぎ程度だな。この近くで狩れる奴だと1日頑張っても精々40(エン)程度だ。ついでに言えば、Dランク以上じゃねぇと街に入るのに入市税が掛かるから、儲けは更に少ねぇぞ」


「あ~、ちなみにここで一日過ごすとどの位かかりますかね?」


「まあ、一番安い宿だと一晩素泊まりで30Eぐらいだな。飯屋で真面に食うなら1食15Eはいるな。酒代の加えりゃあ天井知らずだ」


「それじゃあ、冒険者で食べて行くのはキツイですねぇ」


 この世界の通貨は下から鉄貨、大鉄貨、銅貨、大銅貨と上がって行き、その上に銀、金、白金、ミスリル硬貨となっている。

 一日の生活だけで既にオーバーしている上、依頼をやるならそれなりの道具を揃えなければならない。

 しかも道具は使えば手入れも必要になるので、とてもじゃないが冒険者だけでやっていくのは厳しい。

 そう勇樹が漏らすとアーノルドはニヤリと笑った。


「そこで三つ目の方法だ。と言っても、簡単に言えば兼業だ。冒険者として素材を狩って、自分で加工して売るって方法だ。コイツは手に職が無いとやれんし、初めは全く売れないから寧ろ金が掛かるくらいだ。だが売れるようになれば、結構儲かるぞ?」


 確かにその方法ならば稼げるだろう。

 材料を自分で取って来れるようになれば、材料費は要らなくなる上、余剰分を依頼の品として出せば小金も入る。

 だが、そこには大きな問題がある。


「それって、そんなに稼げるなら初めから冒険者なんてやってないんじゃないですか?」


「ああ、全く持ってその通りだ」


 勇樹の疑問に、アーノルドはあっけらかんとした顔で頷いた。

 そもそも冒険者になりたがるのは、実家を継げない農家の二男や三男、夢見がちな若者が多い。

 手に職を持っていれば、そっちの方面に進む方法は幾らでもあり、職人ギルドもあるので、そこへ行けばまず仕事には溢れない。


「ついでに言えば、狩ったモンスターの死骸なんかは、職人ギルドに持って行けば買い取ってくれる。まあ、死骸の状態にも因るが、これも大物でもない限り小遣い稼ぎだな」


 先程から紹介される全部が小遣い稼ぎばかりであった。

 そもそも冒険業自体が博打のような物で、やっている事も身も蓋もなく言ってしまえばリスクの高い“何でも屋”である。

 他にも薬草の採取や鉱石の採掘などもあるが、それも“ちょっと危険があるお使い”だった。

 そう考えると冒険業が儲からないのは当たり前の事だった。


「まあ、諸々注意事項はあるが主だったモンはこれだけだな。後は探り探りやんねぇ」


「はい、分かりました! という訳で早速、依頼を取ってきますね!」


「ばっきゃろう! そんな事したら俺が休めねぇだろうが!」


 余りに余りな理由だったので、勇樹はアーノルドのクレームを無視して、掲示板に張り出してある依頼書に適当に目を通す。

 そして、一つの依頼書に目が止まった。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 ※薬草採取依頼

  納入品:ニエプ草3房以上

  期限:即日

  報酬:1房20E

  備考:採取の出来次第で高く買い取ります

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


「(よしこれだ!)」


 絵に書いたような初心者依頼に、勇樹は嬉々として飛びついた。


「おっちゃん! これでオナシャッス!」


 初依頼という事でワクワクしながら依頼書をカウンターのアーノルドに渡した。


「え~、今日は俺しかいねぇから、全部俺がやんなきゃいけねぇから面倒なんだけどなぁ……」


 渋々と依頼書を受け取るアーノルド。

 するとギョをした目で依頼書と勇樹を何度も見返す。


「え? お前これ受けんの? マジで? 本気で? 正気か?」


「はい、本気と書いてマジと読みます。ぶっちゃけ僕は初心者も初心者なんで、初めはそんなもんで十分かな~と」


「……まあ、お前さんがそういうなら良いけどよ。じゃ、登録するからカード出せ」


 何やら奥歯に物が挟まったような言い方をするアーノルドに、首を傾げながらもギルドカードを渡す。


「ん、登録完了。んじゃ初依頼、精々頑張って来いや」


「はい! 頑張ります!」


 勇樹は期待を胸に胸を躍らせ、ギルドを飛び出した。


 最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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