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勇者は101人いる(リメイク版)  作者: 酔生夢死
一章 少年、召喚される

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04話 少年、迷子になる

(´・ω・`)怠け癖がヤヴァい、朝眠いし昼眠いし夜も眠いし毎日眠い。

 『巻き込まれた一般人』、これが意味する事は一つしかなく。

 それが周囲を困惑の渦に巻き込んでいた。


「つまり、そこの少年は勇者の召喚に巻き込まれてしまったというワケだな?」


「は、はい……まずあり得ない事ですが、こうして起こっているワケでして」


 一番に困るのは勇樹の処遇である。

 勇者としての能力が無いなら指導役を付けても成長は見込めない、かと言って折角呼び出した異世界人を遊ばせて置くのも問題がある。

 はっきり言って、国王たちは勇樹の扱いに困っていた。


「うむ……では、こうしよう。お主は城で働いて貰う事としよう。衣食住はこちらで用意する上、勇者が魔王を倒した暁には、すぐに元の世界に帰す事を約束する」


 戦う能力が無い一般人な上、元の世界に帰るまでとは言え素性も知れない輩にまで衣食住を用意してくれるとは、普通に考えれば破格の待遇である……が。


「お断りします」


 間髪入れずと言わんばかり、国王の言葉が言い終わるのに被せる様に言い切った。

 再び周囲が固まった。

 今度は学生たちも一緒に言葉を失っている。

 そんな周囲を気にも留めずに勇樹は話を続ける。


「一般人の僕がいると皆さんの訓練の邪魔になるでしょうし、僕自身も皆が訓練している横で何もしていないのは気まずいので、これで失礼させて頂きます」


 それだけ言い終わると、深く頭を下げて広間を出て行ってしまった。

 国王たちは勇樹の言動に呆気に取られ反応できず、学生たちの一部は勇者になれなかった勇樹を馬鹿にしたように笑っていた。


「なんだよアイツ、折角保護して貰えんのにバカじゃねぇの?」

「まあ、俺たち勇者と比べられんのが辛いのは分かるけどな~」

「俺たちでアイツの分まで世界救っちゃおうぜ~」


 同情憐憫侮蔑嘲笑――自分たちが特別であるという証が、持てなかった勇樹に対して上からの目線になるのは仕方ない事だった。

 勇樹は大広間を出て行ってから数分後、我を取り戻した国王は(ようや)く事態を飲み込んだ。


「い、いかん! 異世界人を一人で行かせてしまった!」


「衛兵、何をやっている! 早く追え!」


 その後、学生たちを部屋に案内し、城全体に勇樹の事が伝わったのは、勇樹は偶々会ったメイドに城の外へ案内して貰った後であった。




 勇樹が慌ただしく出て行ったのには理由があった。


 この国は言うなれば現在は魔王との戦争の準備状態にある。

 そして、エルクレアがどういう政策を取っているか分からない以上、異世界から来たという理由で戦争の旗印やプロパガンダに利用されるかも知れない。


 いくら勉強が苦手な学生でも、自分の国や外国が過去にどのように戦争していたかは学校で習って知っているつもりなので、自分がそうならないという保証はどこにもなかった。

 そのような理由も相まって勇樹は城――というよりも王族関係者から一刻も早く離れたかった、という建前で9割は「なんか面倒臭そう」だから出て行ったのであった。


 勇樹にとって、焦がれていた異世界である。

 どうせ自分は勇者ではないので魔王と戦う必要もない。

 いずれ100人の勇者の内の誰かが魔王を倒してくれれば帰れる可能性もあるならば、この異世界を思うが侭に満喫しようと、まずはお約束な冒険者になるべく足を前に踏み出した。




 30分後……

 城内で勇樹の捜索が行われていた頃、勇樹は城門前の中央広場にたった独りで座り込んでいた。

 勇樹の居る広場からは大小取り混ぜて様々な道が伸びているのだが、どの道を通っても結局元の場所へ戻って来てしまう完全な迷子になっていた。


 元々、エルクレア王国は前魔王大戦時に作られた要塞都市であり、後に独立しエルクレアの首都として発展。

 様々な戦備品がエルクレアに集められ、それを求めて人も集まり、外壁周辺に簡易な村が作られ発展し、定住する者が現れて町となり、現在の姿となった。


 まずは街の中心である前魔王大戦時に作られた要塞を取り壊して建設されたエルクレア城が建つ『王城』。

 次に要塞都市であった頃の城下町である『内街』、昔の街壁もそのまま残されており、建物の配置も当時のまま残されている。


 そして、その街壁の外縁に新しく作られたのが、現在のエルクレアの主要区域の『外街』である。

 但し、一口に『外街』と言っても実際には何度も拡張が行われているので、各区域が壁で仕切られ、上空から見れば花びらのように広がっている。


 現在、エルクレアは要塞基地だった名残で『内街』に入る入口は四方に一か所ずつしかなく、その内、大きい入口は南側の正門のみで、残りの3か所は馬車1台が通るのがやっとという大きさしかない。

 その上、防犯上の理由から容易に主要の建物に着けないよう、路地自体が迷路のように寸断されて設計されていた。


 一応、道標や案内係もいるがそれでも毎年数名の迷子が出るほど分かりにくい構造になっている。

 それでも人がいれば道も聞く事が出来るが、残念ながら今は勇者召喚に際して国を挙げて祭りを行っている為、国民の殆どが『外街』に出払っていて、観光に不向きな『内街』には人っ子一人いなかったのであった。




「おかしい……さっきから彷徨い歩いているのに、出口どころか人ともすれ違わない……」


 最初は平日の昼間なのだろうと予想し、ならば住宅街で人と会わないのも間間ある事だろうと納得していた。

 しかし、城壁に近づくと外からは賑やかな声に祭囃子まで聞こえて来るのである。

 次に何かの記念日と予想したが、エルクレアの内情を知らない勇樹は『内街』に人が居ない理由には至らないと切り捨てた。


「まずい……このままでは都会というジャングルの中心で遭難して朽ち果ててしまう!」


 無理矢理に気分を上げて立ち上がっては見たものの解決の糸口すら思い付かず、すぐに項垂れてしまった。


「ふぉっふぉっふぉっ、お困りですかな? お若いの」


 突然声を掛けられ、勇樹は発条(ゼンマイ)仕掛けの様に声のする方へ振り向いた。

 そこには先ほどまで誰もいなかったはずの広場の中心にある噴水の淵に、ニコニコしながらこちらを見ている老人が座っていた。


「はい、困ってます! こまです、激こまです、激こまオロオロ丸です!」


 勇樹は砂漠でオアシスを見つけたが如く駆け寄り、プライドも何もかも捨て去って老人の前で流れるような無駄のない無駄な動きで土下座した。


「こ、これこれ、若い者がこんな年寄りにそんな事をするもんじゃあない」


「いえ! もしここで貴方様に見捨てられたら、僕はこのコンクリートジャングルで干乾びる自信があります! どうか、その前にお力をお貸しください!」


「いいから、助けてやるからそれはやめい!」


 突拍子もない勇樹の行動に若干引きながらも止めるように説得し、勇樹は渋々立ち上がった。

 そこで正気に戻った勇樹はポツリと呟いた。


「……なんで僕、土下座なんてしたんでしょうね?」


「こっちが聞きたいわ! 老婆心で声を掛けたら土下座されるなんて初めてじゃ!」


「小学校の通信簿では6年間、『落ち着きが無い子』と書かれてました!」


 勇樹が胸を張るようにビシッと敬礼をする。

 それを見た老人が目頭を押さえて溜息混じりに問う。


「ツウシンボとやらは知らんが、それだけ言われてたのならば少しは見直そうとは思わんのか?」


「いえ、全く」


 一切の迷いのない回答に、老人は深い溜息を吐いた。

 老人はさっさとこのアホ問答を終えてしまおうと、本題に戻した。


「それで、お主は道に迷っておったのじゃな?」


「はい、それは例えるならば人生のように曲がりくねった目的の見えない道を……」


 再び変なテンションに入り掛けている勇樹を無視して、老人は一本の道を指さす。


「ほれ、そこの道の石畳を良く見なさい。他の道と違い、道の中心に少し大きめの石の線があるじゃろう?」


 老人に言われて道の石畳を見ると、言われるまで気付かなかったが道の真ん中の石だけが一回り程大きく、それが車線の様にまっすぐ伸びている。


「アレが出口への目印じゃ、辿って行けば正門へ出られる」


 よく観察していれば気付いたのであろうが、異世界に来た事と迷子になった不安で全く周りが目に入っていなかった。

 勇樹は教えてくれた老人に礼を言うと、ついでに目的地の場所も聞く事にした。


「ありがとうございますお爺さん、助かりました。ついでにお尋ねしますが、冒険者ギルドってありますかね?」


「冒険者協会なら、正門を出た大通りの並びの赤い屋根の建物じゃよ。行けばすぐわかるじゃろ」


「重ね重ねありがとうございました! このお礼はまた会った時に必ず!」


 勇樹は深々と頭を下げて、離れた後も何度も振り返りながら手を振って老人と別れた。

 老人はその様子を、目を細め小さく手を振りながら見送り、小さく呟く。


また後(・・・)でのう。少年」


 勇樹が見えなくなった頃には、広場から老人の姿は消えていた。


 最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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