25.1話 少年、箸と和食と錬金術
(´・ω・`)最初は似非かっぺ口調なんて簡単なんて思ってましたが、書いている内にどんどん自信がなくなりました……
読み辛かったらスルーしてください……
ノームの里で世話になる事になった勇樹は、勇者たちが残した様々な技術の中に食事に関する物もあると聞いて、錬金術部門へとやって来ていた。
「うわぁ、本当に味噌樽と酒樽と醤油樽がある……え、アッチでは鰹節? 調理台みたいなのも見えるんだけど」
「んだ、あっつの奥には納豆の蔵もあるっぺよ。ただ、納豆は菌が強いから出入りする際には念入りに滅菌して貰うけんどな」
「……なんか懐かしき塩焼の匂いとか、お味噌汁の匂いがするんですが」
「そっつは調合の実験中なんだべ。五つの味を数値化してグラフにして絶妙な調合時間を割り出してるとこでよ」
「うわぁい、本気に錬金術をやってるのか……あれ? アソコで作った品の数々はどうするでしょうか?」
「ココで作ったもんは食堂の方さ行けば、誰でも自由に食って構わん事になっとるよ。まあ、ウチらノームは飯さ食わんでも生きて行けるから、あんまり人気はねぇけんどな」
錬金術専門のノーム・ムストが笑いながら勇樹の方を見ると、勇樹は調理場の方をジッと目を見開いて眺めていた。
勇樹の反応にムストは頬を掻きながらボソッと尋ねる。
「食ってっか?」
「是非!!」
何気なく呟かれた問い掛けに、勇樹は間髪入れずに答えた。
ムストに案内されて食堂に入ると、そこにはタッチパネル式の自動販売機の様なものが置いてあった。
驚く勇樹を余所にムストは真っ直ぐと自動販売機へ向かうと、映し出された画面を指差す。
「これは勇者たちから聞いた自販機と持ってたゲームやスマートフォンを参考に作った食糧販売機だべさ。こうやって人が前に立つと画面が付いて、中に収納した廃棄品とその残量を表示するんだが、お前さんは何を食うべ?」
「カレーにラーメンにハンバーガーに焼き魚……なんか学食か定食屋みたいなメニューばっかりなんだけど?」
「歴代の勇者たちが食べてぇと漏らしとった品をリストアップすて、作り方を知っとる勇者からレシピを聞き出して錬金術部門が研究してるんだっぺよ。だもんで、割と年代の近い勇者が食べたい物ってなると片寄った物になり易いって、前に来た勇者が言っとったけな」
「なるほど、だから家の味よりも外で食べたファストフードが恋しいワケか。でも、その割には味噌とか醤油とか作ってるんだよね?」
「それはだな、勇者たちが『これはお約束だから』つって何人かが作り方を残して行きおったんだべ。稲だか米だかも異世界の醍醐味だっつってたけんど、勇者はみんな最初こそ米だぁ米だぁ言っとっても結局はパンとか食ってたなぁ」
その話を聞いた勇樹は異世界転移物でよく見かけるあるあるネタの弊害を感じた。
――そもそもパン食が増えた現代日本で、海外へ行ってご飯や味噌汁が恋しくなるような学生がどれほどいるか?
よく異世界物では日本から召喚されてきた若者たちが、喜々として米や大豆を探して日本の食べ物を再現しているシーンを見かける。
しかし、現実では食の多様化で毎日ご飯を食べない日本人も増える中で、異世界へ召喚された勇者たちの中で白米や味噌汁に拘る様な者はほんの一部に過ぎない。
結局、ここへ来た事のある勇者も殆どはこちらの世界の料理の方を珍しがって好んで食べるというのが実情であった。
祖父の家に居て毎日お米を研いでいた勇樹は、そんな異世界の勇者食事事情に切なくなりながらラーメンとカツ丼を選んで注文する。
自動販売機の中でガコンガコンと何かが転がる様な音がして、2分ほど待つと取出し口からトレイに乗った醤油ラーメンとカツ丼が出てきた。
「おお、本当に出てきた! しかも、出来たてみたいに湯気が立ってるよ!」
「中で空間凍結しとるでなぁ。いつでも出来たてホヤホヤなんだっぺ。ほれ、箸さ使うべ?」
「ありがとう!」
ムストが自販機の脇にあるコップに無造作に刺さっている箸の束から一膳だけ取りだして勇樹に渡す。
勇樹は受け取った箸をトレイに乗せると、近くのテーブル席に座って手を合わせた。
「それじゃあ、いっただきまーす!」
「おうおう、好きなだけたぁくさん食え。まだまだ在庫は山のように余ってるよって」
箸を右手に持っていざ食べようとした瞬間、勇樹の手が止まり箸をジッと見つめ始めた。
勇樹の突然の行動にムストは首を傾げる。
「どうした? なんかその箸がおかしいのけ?」
「いや、そうじゃなくて……なんか気軽に渡してくれたこのお箸、プラスチックとは違うみたいだけど何で出来てるの?」
「ああ、それは世界樹の端材を削って作った箸だっぺさ。特にここへよく来てたタケシは何か知らんけんども、ようそればつこうちょったで」
「待って、世界樹製のお箸!? 聞くからに貴重そうな資材で何作っちゃってんの!?」
「でぇじょぶ、でぇじょぶ。箸に使ってる世界樹はエルフが守ってる奴から枝分けしたこの地下で栽培されとる物じゃけぇ、そげに気にするほどの物でもないっぺ」
ムストは朗らかに笑うと、プラスチックのような材質のコップに水を注いで勇樹の前に置いた。
「こんのコップだって世界樹の樹脂を加工して作ったもんでぇ、割と固くて粘りもあるけぇその辺の壁とかの建材にもつこうとるっぺよ。ほれ、そんな事より飯が冷めんぞ、はよ食え?」
「あはは、ノームの里は面白そうな物で溢れてるね! 食事一つも油断できないや、改めていただきまーす!」
改めて勇樹は手を合わせると、どんぶりを持ってカツ丼を一口食べた。
瞬間、勇樹は目を見開いて掻きこむように食べ始める。
「ガツガツガツ、ズズーッ、ガツガツガツ、ズズーッ……」
「ほぅー、言い食いっぷりだべ」
「ガツガツガツ、料理らしい料理は、ズズーッ、久しぶりだからね! ガツガツガツ、ズズーッ、ウマー!」
「そうけそうけ、ならドンドン食え。水も飲むか?」
「頂きます! ガツガツガツ、ズズーッ、ズズーッ、ガツガツガツ、ゴクッゴクッ……ぷふー、美味しかったぁ。満足満足、ノームの技術は伊達じゃなかったぁ」
丼に米粒一つ残さず、ラーメンのスープ一滴まで飲み干して、お腹をさすりながら背もたれに寄りかかった。
それを見てムストも満足そうに頷く。
「そりゃあ、タケシやドラグニールが召喚された日本人を時々連れては味見ばさせてたで、基礎データはぎょうさん揃っとるから後はひたすら試行を繰り返しっとったでな。無駄に千年も積み重ねていないっぺ」
「千年……もう何だろうね。味が重厚過ぎちゃって僕の貧弱な語彙じゃあ言い表せないくらい凄まじかった。シンプルに美味しいとしか言いようがない程、複雑で濃厚で繊細で圧倒的で……見た目はどこにでもありそうなラーメンとカツ丼なのに物凄く感動しちゃったよ」
「それはえかった。まだまだ在庫はぎょうさん余っとるから、ここにいる間は好きなだけ食ってけばええだよ」
「わーい、ありがとう! それにしても、このトレイや容器もコップと同じような材質に感じるのは気のせいなんでせうか?」
「気のせいなんかでねぇぞ? 世界樹の樹脂は軽くて丈夫なもんで熱にも強ぇから、食器とかここの建材なんかによく使用されてるだよ。世界樹は一定の大きさになるまではビックリするほど成長が早ぇもんだから材料にも困らんし、万が一に実験で部屋をブッ飛ばしてもすぐに交換できる優れもんだべ。お陰で爆発に巻き込まれて壊れる物が減ったってみんなからは好評なんだっぺ」
「部屋をブッ飛ばさないという選択肢はないんです?」
「ねぇなぁ」
そんな選択肢は存在しないと言わんばかりの開き直った回答に、勇樹はノーム達の業の深さが垣間見えた気がした。
ノーム達の爆発事情からは目を背け、当初の目的を思い出してムストに尋ねる。
「ここで作っている味噌や醤油って分けて貰う事ってできますか? ここを出て行った時に持って行きたいんですけど」
「別に構わねぇっぺよ。仕込むだけ仕込んで放置してるのがぎょうさんあるから、味噌でも醤油でも米でも好きなだけ持ってけ」
「やったー! ありがとう!」
勇樹は飛び上がるように喜ぶと、ムストにお礼を言った。
その後、世界樹の樹脂を生成している所を見せて貰って、自分の箸を作ったり研究中の爆発で吹き飛んだ研究室の修復に駆り出されたりして過ごすのであった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




