19.1話 少年、成人になる(前編)
(´・ω・`)試練の内容をガラッと変えました。
正直、前のだと分かり辛い上に、話の内容で矛盾があったので……
勇樹が竜の里へやって来てから1週間が経過した。
慣れない竜人特有の生活習慣や生活様式に四苦八苦していたが、そんな事を気にする間もなかった。
朝日が顔を出せば修練場でボコボコにされ、日が高くなれば食事を無理矢理腹に詰め、また太陽が山の頂に掛かるまでボコボコにされる。
それが終わると井戸で水を浴びてから勇樹の泊まる家へ戻り、やはり夕食を押し込むように食べて、ベッドに倒れこむように眠る。
そんな生傷が絶えない日々を繰り返していたある日、家を訪ねてきたドラグニールが勇樹にある提案をしてきた。
「成人の儀……?」
「うむ、お主もそこに参加するんじゃ」
午前中の修行が終わって休憩をしていた時、ドラグニールから竜人の成人になる儀式に参加するように言い渡された。
勇樹は嫌な予感を覚えながらドラグニールの提案に首を傾げる。
「えーっと、それって僕が参加してもいいの?」
「大丈夫、儂がここの長に言って参加を取り付けて置いた」
「あ~、だから今朝から村の人たちからの視線が凄かったワケね……」
ドラグニールが無理矢理、勇樹の参加を捻じ込んだので竜人たちの反感を買ってしまったのだろうと想像して、勇樹は溜息を吐いた。
そこで勇樹は気になった事を聞いてみた。
「それで、成人の儀って何をするの?」
「何、ちょっと山頂にいる邪悪王樫から、木の実を一つ摘んで来ればよいだけじゃよ」
「名前からして、ちょっとってレベルじゃなさそうなんですけど……」
ドラグニールの胡散臭い物の言い様に不安になった勇樹は、少し離れた所で『憧れの人と遭遇して完全に舞い上がっちゃっている人』のようにガチガチに固まっているニゲルに水を向けた。
すると注目されている事に気が付いたニゲルは思わずしどろもどろになる
「なな、なんか言ったか!?」
「えーっと、竜人の成人の儀って何をするのかなぁって」
「ああ、成人の儀な。今回は俺も参加するんだが、この山の上には天竜様の寝床だった場所があってな? その影響で山頂には植物が茂ってる場所があんだよ。で、そこのヌシのキングイヴィルオークが、この時期にだけ付ける黄金の実を取って来て、里の中心にある天竜様の鱗に捧げるんだよ。そこで初めて成人として認められんだ」
「なるほど、ちなみにその邪悪王樫って強いの?」
「分かりやすく言えば、要塞に攻め入るようなものかのう。山頂には隠れられる場所が無い上に、テリトリーに生えている植物の殆どが魔物化しておる。幸いなのは邪悪王樫を含めて、余程の事がない限りは向こうから襲って来ない事じゃな」
「逆に言えば、何かすれば一斉に襲ってくるワケか……ちなみに、その黄金の実とやらを取る行為はどういう扱いになります?」
「……その黄金の実というのはのう。邪悪樫が過酷な大地で生き残る知恵でなぁ」
「あーうん、もうわかった。触ろうとした瞬間に、一斉に襲い掛かってくるワケですね」
それはまるで蜜の香りで虫を誘うウツボカズラのように、黄金の身は獲物を誘い込むための罠だった。
とはいえ、黄金の実は獲物を誘う為に邪悪樫が一年間に、少しずつ貯め込んだ栄養を凝縮した珍味である事には変わりはない。
寧ろ、滅多に取れず取るにも一苦労する一品という事もあって、里の間では天竜への供物として扱われている。
大まかな内容を聞いた勇樹は、取り敢えず次の質問へと移った。
「ちなみに、終わらなかったらどうなるの?」
「そん時は技量を磨いて来年に再チャレンジだ。成人の儀を終えていない限り、一人前とは認めて貰えず狩りにも参加できないから、参加する奴らはみんな必死なのさ」
「へー……」
ニゲルの説明に勇樹は半目になりながらドラグニールの方を見た。
勇樹から疑念の視線を向けられたドラグニールは涼風でも受けたかのように、涼しげな顔で好々爺然とした笑顔を浮かべてその視線を受け流す。
「ねぇ? もし、そこへ普人の子供が無理矢理参加しようものなら、どうなると思う?」
「はぁ? まずそんな事はあり得ねぇとは思うが、そんな事をして通過できなきゃ恐らくソイツは一生この里では未熟者の烙印を押されるな。それを理由に再挑戦すらやらせて貰えない可能性もある」
「通過出来ちゃったら?」
「竜人の戦士ですら難しい儀式を早々普人の子供が出来るとは思わねぇが……通過しちまったら若い奴からは歓迎して貰えるかもな。異種族とは言え伝統ある儀式を通過した奴を無下にするような奴はいねぇよ。だた上がなぁ……」
「あぁ、そこはどの世界のどの種族も同じなんですね……」
俯いて肩を竦ませるニゲルの言わんとしている事を理解した勇樹は、何と言っていいか分からなくなって肩を落とした。
何時の時代でも閉鎖的なコミュニティというのは、大きな改革や余所からの介入を嫌う物である。
ましてや文化どころか身体の作りから違う種族なんてものがいれば、その嫌悪感は計り知れない。
どっち道、村八分にされる未来しか見えない現状に勇樹は、どちらの方がマシなのかに頭を悩ませるしかなかった。
翌日、勇樹はドラグニールとニゲルに連れられて、天竜の鱗がある里の中央へとやってきた。
円形の広場の中心には五階建てビル相当の大きさもある一枚の鱗が地面の突き立つように立っている。
天竜の鱗を見上げながら勇樹は不安そうに呟いた。
「コレが天竜の鱗か……できれば、もっと別の形でじっくりと観察したかった」
「まあ、それについてはまた今度じゃな」
「今度って何時さ! そんな子供を誤魔化す親みたいな言い方しないで!」
勇樹たちがギャーギャーと騒ぎながら広場へと入って来ると、その場にいた竜人族の殺気立った視線が一斉に勇樹に向いた。
隠れようのない恨み辛みの篭った視線を一身に浴びる勇樹は、居辛そうに身をよじりながらドラグニールに話し掛ける。
「ねぇ、帰っていいですか?」
「ふぉっふぉっふぉっ、ダメじゃ」
勇樹の言葉を笑顔で却下して、首根っこを掴みながらしかめっ面を浮かべる竜人の里の長の元へと向かう。
長は勇樹の方を一切見ずにドラグニールに頭を下げた。
「これはこれは赤賢竜様。この度は成人の儀に立ち会って頂き、光栄の至りにございます」
「よいよい、儂もお前たちに無理を言ったのでな。一方的に言いつけて野放しには出来んかっただけの話よ」
「はぁ、そうでしたか」
ドラグニールの言葉ににこやかに頷いた長は、射殺さんばかりの視線を隣にいた勇樹へとぶつける。
しかし、その前の歓待で辟易していた勇樹は、並みの戦士でも竦み上がりそうな視線を受けても、全く気が付く事はなかった。
そんな殺伐とした空気と漂わせていると、竜人の戦士ダクディルが近づいて来て長とドラグニールの前で直立不動の体勢を取る。
「長、儀式の準備が出来ました」
「うむ、では早速始めるとしよう。それ、そこのお前も行くが良い」
「は、はい! ほら、お前も行くぞ!」
「ぽんぽんいたい……」
蒼い顔をする勇樹の腕を掴んで、ニゲルは立ち去るようにその場を離れる。
そんな勇樹の後姿を、長は鋭い目つきで見送っていた。
今回、成人の儀を受ける竜人はニゲルを含めた5人で、その内の2人は前回の儀式で通過できず今年が2度目の挑戦だった。
勇樹とニゲルが鱗の前に並ぶと、他の4人から舌打ちと嘲笑の歓迎を受ける。
儀式を見に来ている竜人たちからも、ビタンビタンと尻尾を地面に叩きつけながら不快な視線を隠そうともせず、勇樹に集中させる。
背筋が寒くなって身を震わせた勇樹は、二の腕を擦りながら苦笑いした。
「やだなぁ。僕って昔から、こういう人前で注目されるのって苦手なんだよね」
「それは諦めろ。普人がこの儀式に参加している時点で、否が応でもお前は注目の的だ」
「うう、変な汗が出てきた……」
元々が外駆け回る系引き篭もりでコミュ障の勇樹は、自分に視線が集まっている事を意識すると、目が泳ぎだして落ち着かない様子でソワソワし始めた。
儀式はまず、長が天竜の鱗の前で祝詞を読み上げて、次に挑戦者の名前を読み上げる。
それが終わると、挑戦者たちに訓練用ではない新品の刃が付いた槍が配られる……が、ニゲルが受取ったところで配っていた竜人が離れて行ってしまった。
「おい! まだコイツに槍が渡ってねぇぞ!」
「異な事を。槍は竜人族の戦士の証、異種族の者に与える物ではない」
「じゃあ、コイツは素手で試練に挑めってのか!?」
突き放すような言い方をする年配の竜人に、ニゲルが抗議の意を込めて叫ぶ。
すると、横から腕が伸びてニゲルの肩を掴んだ。
「ふぉっふぉっふぉっ、その辺にしておくがよい若人よ。ユーキの武器ならばちゃんとここにあるわい。ほれユーキ、お前さんが向こうで使っておった剣じゃよ」
「せ、センキュー……赤爺」
笑いながら割って入ってきたドラグニールはいきり立つニゲルを諌めると、ボロボロな革の包みを勇樹へと放り投げた。
中身は勇樹が竜の砦で串刺しにされながらも、ゴブリンリッターから分捕った剣である。
それを受け取った瞬間、それまでガチガチに緊張していた勇樹の肩の力が抜け、不敵な笑みを浮かべた。
「ありがとう赤爺! 正直、使え慣れない武器とか渡されたら、どうしようかと思ってた!」
「何だよ。ちゃんとあるなら先に持ってろよなぁ」
「いやぁ、こっちに来てからは必要ないからって、赤爺に没収されてたんだよねぇ」
暢気に話す勇樹たちに、他の参加者たちが声を上げた。
「待ってもらおう! まさか赤賢竜様に頼んで、この試練に簡単に通過できるような剣を用意して頂いたのではあるまいな!」
「そんな剣を使われては不公平だ!」
「そもそも、この成人の儀は生涯使うこの槍でやる事に意味があるのだ! 武器の性能のみで、この儀式を通過しようなど言語道断だ!」
「はぁ、そんなに言うなら見て確かめてみればいいじゃん。何なら使ってみても構わないよ?」
勇樹はそういうと近づいてきた年配の竜人に剣を渡した。
渡された剣を鑑定した竜人は困惑したような声を漏らして、何かを確認するようにドラグニールの方を見た。
その反応に長が声を掛ける。
「どうしたのだ。その剣はどういうものだ?」
「いえ、それが……どこにでもある普通の魔鉄製の剣です。寧ろあまり手入れがされていないので、この剣で儀式をやり通すのは厳しいかと……」
「そうか、ならばそれはその普人に返してやりなさい。それで試練が通過できる物ならばな」
「うっす! がんばります!」
異を唱えていた他の参加者も、その剣がドラグニールの用意した名剣でない事が判ると、あっさりと異見を引っ込めた。
剣が勇樹に返されると、参加者は里の出口に向かって横並びになる。
そして、それを確認すると長が自分の槍を掲げて声を張り上げた。
「それでは! これより竜の里の成人の儀を開始する!」
――ゴォォォン!!
長の宣言と共に開始の鐘が鳴り、若者たちは一斉に山頂に向かって駆け出した。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




