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勇者は101人いる(リメイク版)  作者: 酔生夢死
一章 少年、召喚される

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03話 少年、ハブられる

(´・ω・`)書き直す際には旧版を、一話一話読み返しながら書き直していたワケなんですが……自分が思っていた以上に誤字脱字があって凹みました……

 自分はちゃんとしているつもりでも、結構見逃しているものなんですね。


 国王は部屋に集まった学生たちをチラリと目を向けると、真っ直ぐに玉座に向かった。

 学生たちが様々な感情で見送る中を悠然と歩き、玉座に着くとグルリと振り返って、ゆっくりと口を開いた。


「勇者諸君。ようこそ我が国、エルクレアへ」


 その声は100人近くを収容してもなお広い玉座の間の端まで届くような、低くかつ通る声で、思わず学生たちは口を閉じて国王に注目してしまう。


「諸君たちをこの世界へ呼んだのは他でもない。勇者としてこの国を、ひいてはこの世界を救って欲しいからだ」


 予想通りの言葉に、学生の中から唾を飲む音が聞こえる。


「勿論、本来であればこれは我々が解決すべき問題である。だが近頃、魔王復活の兆候として魔物の活性化が各地で報告されておる。その所為で人間の領土は荒らされ、兵は連日の戦闘で疲弊しきっている……そこで魔王を倒す為、唯一魔王への対抗手段を持つ勇者として、諸君らをこの世界に招いたのだ」


 その手の物語で使い古されたような国王の説明に、学生たちの中には小さくガッツポーズをする者までいた。


「だがこの召喚には最大で勇者は100人までしか呼べず、星の巡りなどから次に【勇者召喚】が使用できるのは100年後になる。つまり、諸君らが魔王討伐に失敗すれば我々になす術はない……この世界とは何の縁も無い諸君に世界の命運を託すのは心苦しいが、どうかこの世界を頼む」


 玉座に座ったままではあったが、国王が頭を下げたので勇者たちもその周りも困惑する。

 すると、学生の中から一人が手を挙げた。


「国王様! 質問を宜しいでしょうか?」


 そう言って前に出て来たのは、先ほど勇樹と話していた天使星也だった。

 国王が顔を上げて頷くのを確認し、星也は国王に問い掛けた。


「我々は全員が1度も剣も握った事のない学生です。そんな人間にすぐに戦えと言われても戦えるほど、勇者というのは簡単な物なのでしょうか?」


 星也の問いに、国王は分かっていたと言わんばかりに頷き問いに答える。


「諸君らには召喚の際、神の加護によって勇者としての能力に目覚めて居る。皆、【能力表示(ステータス)】で自分の能力を調べてみるがよい」


 そう言われ、そこら中で「ステータス」と唱える声が聞こえてくる。

 最初は目の前に現れた画面に驚き、次に自分の能力値に一喜一憂し、最後に称号欄を見て反応はバラバラだったが共通が一つ、皆がその称号を見て喜んでいた。


 だが、1人だけ反応が違う者がいた……勇樹である。

 彼は表示されたステータスのある項目を一点に見つめ、呆然としていた。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 ユーキ・キサラギ

  AGE:16 SEX:M

  Lv1 HP:120/120

  MP:100/100 SP:100/100

  筋力:6

  耐久:5

  敏捷:9

  知力:3

  精神:8

  運 :4

 属性:なし

 称号:『巻き込まれた一般人』

 スキル:《異世界言語》Lv3 《■■■■(未覚醒)》

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 知力と運が低いとかスキルに変な物があるとか、そういう事は一切目に入っていなかった。


 彼の目が注がれているのはただ一つ、称号の『巻き込まれた一般人』である。

 何度見直そうがそこに勇者の文字はなく、変わらぬ称号がただ現実を勇樹に叩きつけていた。

 そんな勇樹の事など誰も気にも留めずに話は進んでいく。


「全員、確認したと思うが【勇者召喚】の儀式によって呼ばれた者は、必ず『勇者』の称号を得る。そして、それを得た者は何かしらの特殊スキルを身に着けて居る筈である。さらに勇者の称号には様々な効果もあり、それだけで常人を遥かに上回る力を得る筈だ」


 国王の言葉に頷く者、ニヤつく者、不満げな者と反応は様々だったが誰一人として文句をいう者はいなかった。


「無論、幾ら勇者の称号が凄かろうとも、戦った事もない者を歴戦の戦士に変える様な奇跡は起こせん。しかし勇者であるというだけで、諸君らは常人より遥かに短い時間で学ぶ事が可能になる。そして、その為の指導役はこちらで用意してある。諸君らには指導役の元、約3ヶ月でこの世界の事を学んで貰う」


 思ったよりも親切な対応に、星也は満足そうに頷いて国王に礼を言った。

 何人かは僅かな路銀と檜の棒を持たされて放り出されると思っていたので、安堵のため息を吐いた。




 すると今度は星也の脇にいた花菱明日菜が手を挙げた。


「勇者になって魔王を倒すのは良いけど、その後は元の世界には帰れるんでしょうね?」


 明日菜の質問に周囲に動揺が走った。

 彼らも勇者や魔王と言った、憧れのシチュエーションに浮かれていたのは事実だが、だからと言って今までの生活を捨ててまで送りたいと思っていた者は一握りしかおらず、明日菜が聞くまで当然帰れるものだと、帰れない可能性を考えてもいなかった。


 そして、その質問で彼らが読んできた物語の中には元の世界に帰れない話もあるという事を思い出させた。

 さっきとは打って変わり、全員が不安そうな眼差しで国王の返答を待っていると、国王は申し訳なさそうに顔を俯かせた。


「送還については出来る事は出来る。だが魔王が存在する限り異世界と繋ぐラインが乱される為、返す事は出来ないのだ……」


「逆に言えば、魔王がいなくなれば帰れるって事?」


「そう思っていてくれて構わない」


 その言葉に周囲に安堵の溜息が漏れた。

 絶対に帰れないのと、帰る可能性があるのとでは雲泥の差である。

 増してや、自分たちにはそれに対する力があり、目標が同じならば心配する事はないと、不安になる者はいなかった。




「では、次に諸君らの指導役を決めるとしよう」


 国王が合図を送ると広間の扉が開き、騎士に連れられた老若男女が入ってきた。

 その後にバスケットボール大の巨大水晶を抱えた兵士が入って来て、勇者たちの前にその水晶を設置する。


「これから3ヶ月で諸君らには指導役の元、戦い方からこの世界の常識までを学んで貰う。そこに100人の指導役を用意した。諸君らの目の前にあるオブジェは、指導役の持つ水晶とリンクしていて、最も相性の良い相手を選んでくれる。順に1人ずつ水晶の前に立て」


 ワラワラと水晶の前に並び始める学生たちを、ただ茫然と眺める勇樹。

 振り分けはスムーズに進み、30分も経てば勇者と指導役とのペアが出来ていた。

 そこで初めて、国王が未だに一人でいる勇樹に気が付いた。


「む? そこの少年、お主も早く指導役の元に行かぬか」


 国王に促され勇樹も水晶に前に立つが、水晶は何の反応も示さなかった。

 それを見た周囲が故障かとざわめいていると、記録を付けていた大臣が名簿を捲りながら首を傾げる。


「おかしいですねぇ……さっきの少年で指導役の方には全員勇者が付いた筈なんですが……」


「そんな筈はあるまい。確かに指導役は100人用意していたのだろう?」


「はい、こちらでもキチンと記録しておりましたので、指導役100名に勇者が100名、漏れなく付いたはずですが……」


 国王と大臣が首を傾げていると、1人のローブを纏った男性が息を切らせて広間に転がるように入ってきた。


「国王様、至急お伝えしたい事がございます!」


「何事だ! 今は大事な話の最中だぞ!」


 突然入って来た男性を国王は叱り付けるが、入って来た男性はそれにも怯まず国王の元へ駆け寄って跪くと、何かが書かれた紙を指さし叫んだ。


「国王様! たった今、各召喚場の記録を全て集計し終わり、召喚した勇者の人数を合計したところ……召喚した人数が101人であった事が確認されました!」


「な、なんだと!?」


 その場にいた学生を除く全員に動揺が走った。

 何故なら勇者召喚は100人が呼び出せる上限であり、勇者を一人呼ぶだけでも多大な予算が使われている。

 一人増えるごとにコストが雪ダルマ式に増えてゆく事は、そこにいる全員が知っていた。


 そもそも今回の召喚ですら国を挙げて十何年も前から準備を整え、ようやく今日に至ったのである。

 コップに注がれた水は擦り切れまで注がれれば、これ以上は溢れるだけの筈だった。


「し、しかし、ここにいる全員は『勇者』の筈……なら一体、最後の一人は何者なのだ!」


 そこで初めて、全員の目が勇樹に向けられた。

 勇樹は注目を集めている事に少し照れながら、自分が見たままの物を告げた。


「それなんですが、僕の称号が『巻き込まれた一般人』になってるんですけど……」


 それを聞いた瞬間、その場の空気が固まる音がした。


 最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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