22話 少年、吐く
(´・ω・`)今気づきましたけど、ここまで女性キャラが一人も出ていませんね……
竜の里に認められるために狩りに参加した勇樹たちは、大物狙いでヌシを狩る事にしたのだったが……
走り出して数分後、勇樹たちは更なるピンチに陥っていた。
毒の煙に巻かれていた所為で、今頃になって毒が効き始めて体が痺れ出したのである。
「不味い……! このままじゃ、追い付かれるぞ!」
走り回っている事で毒の回りが早まり、ニゲルの脚が次第に鈍くなっていく。
咄嗟にニゲルは勇樹を担ぎながら大岩が多い場所を選んで逃げ回り、鉱石蜥蜴の視界から逃れながらかき乱してゆく。
しかし、毒が効いてきた事もあってジリジリと距離を詰められていた。
「……」
一方、勇樹は目が見えなくなってからある事に気を取られ始めていた。
それは目を毒でやられ、見えなくなった筈が何故か周囲の様子が空気の対流の様な物で朧げに見え始めていた。
特にすぐ隣と少し後方に大きな流れがあるのを感じ取り、それがニゲルと鉱石蜥蜴なのだと当たりを付けた。
「となると、この感じている物が……魔力?」
そう意識した途端、今まで曖昧に捉えていた物が勇樹の中で何かがカチリと嵌った。
すると、目に見えない魔力がはっきりと見え始め、瞑っていた目が、塞いでいた耳が、詰まっていた鼻が、鈍っていた舌が、麻痺していた皮膚が冴えたように勇樹の五感が情報を伝えてきた。
「うへぇ……情報に酔いそう……」
「あ? まさか毒にやられたか!?」
「いや……そっちは大丈夫……」
急に分かるようになってきた情報に若干辟易しながら、勇樹はまだ見えない目で背後の鉱石蜥蜴を見た。
魔力を感知できるようになった勇樹は、大きな湯気のような塊が動いているのを見てそれが鉱石蜥蜴だと当たりを付けて観察した。
鉱石蜥蜴を注視している内に、勇樹は魔力に色のような物がある事に気が付いた。
ニゲルの魔力は赤く熱い炎のように燃え滾っていて、鉱石蜥蜴は焦げ茶色で土臭い硬そうな魔力をしている。
そして勇樹自身の魔力はというと……真っ白で無味無臭だった。
「やだ、僕って無個性……じゃなくて、これがステータスに書いてあった無属性って奴か。だったら、もしかすると……」
勇樹はある推測の元、ちょっとした実験を行いそれが成功した事でニヤリと笑った。
「ニゲル、もう逃げ回らなくていいよ! 新しい作戦を思い付いた!」
「本当か!? で、俺はどうすりゃあいい?」
「とりあえず僕を下して、5を数えるくらいまでアレの気を引いて置ける? 僕の剣を使って良いから」
勇樹は背中に差していた剣を抜いてニゲルに渡した。
「さっきの逆だな。よし任せとけ!」
そう言ってニゲルは鉱石蜥蜴に向かって走り出した。
鉱石蜥蜴が噛み付きを放つタイミングで高く跳び上がり、鉱石蜥蜴を飛び越えて背に着地する。
その時、体の支えにするように鉱石蜥蜴の背中に槍を突き立てたが、高い金属音をたてながら弾かれてしまう。
「5!」
ニゲルは槍を捨てて勇樹の剣に切り替え、背中に剣を突き立てる。
ゴブリンリッターの剣は、僅かに欠けながらも鉱石蜥蜴の鱗を貫いた。
背中が刺されたことで鉱石蜥蜴がニゲルを振り落さんと暴れ出す。
一方、勇樹は空気を溜め込むように深呼吸をしていた。
外にある魔力を自分の中へ取り込んで行くイメージを浮かべながら、ゆっくりと深く集中する。
しかし、ただ集めるだけでは鉱石蜥蜴に届かないと直感した勇樹は、集めた魔力を選り分けて行く。
「4!」
ニゲルは振り落とされない様に、剣をより深く突き差して体を固定する。
勇樹の持っていた剣は高レベルモンスターであるゴブリンリッターの物だけあって、幾ら硬い鉱石蜥蜴の鱗といえども、ランクで言えば下位のモンスターの鱗など貫けない筈がない。
暴れる鉱石蜥蜴が勇樹に気付かぬように、嫌がらせも込めてニゲルは炎のブレスを当てる。
そしてニゲルの思惑通り、ブレスは効かない物の鉱石蜥蜴は背中のニゲルに苛立ったように吠えた。
「3ッ!」
ここで『魔法』について少し説明しよう。
基本的にこの世界での『魔法』とは“属性魔法”の事を指す。
“属性魔法”とは人が生み出した火・水・風・土・光・闇の六属性を基本とする体内で生成する魔力を使用して発動する秘術の事である。
亜人・獣人を含む大半の人間は習得が可能で、最下級の魔法でも魔力があれば子供でも使えるほど、この世界では一般化されている技術となっている。
そんなモンスターすら使ってくる属性魔法であるが、世の中には属性魔法を使えない種族が存在した。
それは竜を含む幻獣・神獣と呼ばれる最上位モンスターと、エルフやドワーフなどの妖精族と呼ばれる種族だ。
彼らには他の生物にはない特殊な器官が存在し、その器官がその種族固有の魔力を生成している為、属性魔法に一切使用できない。
ちなみに勇樹の胸に埋められた“竜の心臓”も、その器官の一つだったりする。
そして、それらの種族は属性魔法を使えないのと引き換えに固有能力を備えていた。
それは属性魔法が体内で生成した魔力を使用するのに対して、彼らは取り込んだ魔力をそのまま練り上げて魔法と成す技があり、有名な所ではドラゴンが吐くブレスやエルフが植物を操る術がそれに当たる。
現在では完全な竜ではない竜人族が、それを固有魔法として再現していた。
そして、奇しくも竜の心臓をその身に入れられた勇樹は、竜と同じように属性魔法が使えなくなった代わりに、彼らの能力が使える状態になっていた。
ただ、そもそも竜の心臓を移植すること自体が前代未聞だったため、移植したドラグニールも数日前まで気付いていなかった。
一呼吸するごとに体の奥に魔力が蓄積されて、勇樹の中の竜の心臓が活発になって行く。
勇樹はさらにそこから、取り込んだ魔力を選別して竜の心臓にて増幅させて行く。
「2!」
背中のニゲルを振り切れないと悟った鉱石蜥蜴は近くにあった大岩に体をぶつけて押し潰そう転がり始めた。
体が岩にぶつかる寸前にニゲルは剣を離して、背中から飛び降りて着地と同時に投げ捨てた槍を掴み取る。
ニゲルが飛び降りたのを視界の端で捉えていた鉱石蜥蜴が、ニゲルの方へ顔を向けようとした瞬間を狙って、ニゲルは持っていた槍で鉱石蜥蜴の目を貫いた。
全身を硬い鱗で覆われている鉱石蜥蜴でも眼球までは鱗で覆われていない為、鉄の槍でも容易に貫いた。
「1ッ!! 行け、ユーキ!」
「【竜咆】!!」
大きく開いた勇樹の口の中に魔法陣が現われ、竜の息吹が放たれる。
それもただのブレスではない。
放たれた青白いブレスは周囲を凍らせながら突き進み、鉱石蜥蜴を直撃した。
片目を槍で貫かれ、痛みと激情に狂う様に暴れ回っていた鉱石蜥蜴は、急激な冷気に体温が下がり動きが次第に鈍くなる。
全身の岩のような鱗が仇となり、急速に冷やされた鱗は本来守るべき鉱石蜥蜴の体温を奪ってゆく。
やがて体温を失って、動かなくなった頃には全身が凍りついていた。
「はぁ……はぁ……やった? げほっごほっ!」
慣れない事をしたせいで、盛大に咽る勇樹。
鉱石蜥蜴が完全に動かなくなった事で静かになり、岩陰に隠れていたニゲルが恐る恐る顔を出して周囲を確認しながら出てきた。
そして、ゆっくりと鉱石蜥蜴に近づき、体を叩きながら耳を当て死んでいるのを確かめる。
死んでいるのを確認したニゲルは、目に刺さったままの槍を引き抜こうとしたがガッチリと固まってしまっていたのか引き抜けずに諦めて、勇樹に駆け寄った。
「やったな、ユーキ! まさか本当にヌシを倒しちまうなんて思わなかったぜ!」
ニゲルが興奮しながら勇樹の背中を叩き、捲し立てるように話しかけた。
勇樹がそれに対してニコリと笑った次の瞬間……
「ぐぼっ!」
「ゆ、ユーキ!?」
ユーキは血を吐いて倒れたのだった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




