02話 少年、主人公に遭遇する
(´・ω・`)久々の投稿でドキがムネムネします。
突然現れた光の円陣を突き破って2人が盛大に転げ倒れた先は人気のない小道……では無かった。
「うわったー!?」
「うわっ!?」
「おお、最後の勇者召喚に成功だ!」
倒れ込んだ勇樹たちを出迎えたのは、白いローブを纏った白髪混じりの恰幅の良い中年男性たちの集団だった。
白ローブ集団は転んで倒れている2人を指差しながら、何か大任を果たしたかのように喜びあっている。
当然、勇樹たちは何が起こっているのか理解できず、呆然とその様子を眺めていた。
「は、え? ……え? これって……」
突然の出来事に状況が理解できず意味のない言葉が口から洩れ、勇樹はゆっくりと状況を整理する。
下校途中に変な感覚に襲われ、それを振り切ってみれば目の前に青い光が現われて、潜った先には儀式場のような石造りの部屋。
目の前にいる男性の劇の衣装のような恰好、周囲にいる人たちは見た目が西洋系にも係わらず、聞こえてくる言葉は聞き慣れた日本語に加えてこのシチュエーション。
多感な思春期の想像力で勇樹は自分が知っている中で、この状況に最も近いパターンが思い浮かんだ。
一つの答えに辿り着いた勇樹がニヤリと笑みを浮かべていると、白いローブに煌びやかな装飾を付けた男性が勇樹たち2人に近づいた。
「ようこそ勇者様方、王都エルクレアへ。私は貴方方をお招きした大司教のロペスと申します」
大司教ロペスはまるで自分より位の高い者を出迎えるかのように恭しく頭を下げた。
勇樹の推測はロペスの言葉で確定に変わり、内心でテンションが駄々上がりになる。
すると横から、悲鳴にも近い声が上がった。
「ま、待ってください! ここは何所ですか? そんな恰好をして貴方たちは一体誰なんですか!」
勇樹の隣にいた少年はそう能天気には捉えていなかった。
そもそも常識的に考えれば、いきなり知らない場所に連れて来られてテンションが上がる勇樹の方がおかしいのだが、本人は全く気にも留めていない。
異世界召喚という状況に混乱している彼は、大司教ロペスたちから距離を取るように後ずさりながら彼らを睨み付ける。
その声で初めて隣に誰かがいる事に気が付いた勇樹は、僅かに顔を顰めた。
理由は勇樹が転んだ拍子に異世界への召喚に巻き込まれしまった被害者であり、ついでに言えばこういう場合はヒロインとなる人物が巻き込まれるパターンではないかという考えが過ぎったからである。
まあ、それはそれで相棒を得たのだと勝手に納得もしていた。
そんな脇道に反れた想像している勇樹を置き去りにして状況は勝手に進み、少年は少しでも自分をここに連れて来たであろうロペスたちから距離を取りながら、周囲を睨み付けていた。
「お、落ち着いてください勇者様。ここは王都エルクレア、そしてここは創世の女神を信仰するメヴァーユ教の教会ですよ」
「聞いたこともありません!」
近くにいた神官の説明を一刀両断する。
その説明に益々疑念を抱いた少年は勇樹の背後に回り込んで、彼を盾にして威嚇する様に周囲を見回す。
取り付く島もない少年の態度に、ロペスを含めた周囲の神官たちはオロオロと困惑し始める。
「そ、それはここが勇者様方の世界とは違う世界だからですよ。我々は召喚魔法によって貴方方を異世界よりこの世界にお招きした訳です」
より厳密に言えば、数多ある世界から“勇者の素質を持つ者”のみを呼び寄せるだけの魔法であり、招いたと言っても無理矢理に不意打ちで召喚陣に突っ込ませただけで、客観的に見ても好意的に取れる筈もなく、少年は益々眉を吊り上げた。
「要は誘拐じゃないですか! 僕はそんな物に応じた覚えはありません、元の世界に帰してください!」
当然、少年は送還するように求めた。
無論、ロペスたちも折角召喚した勇者をおいそれと帰すワケにも行かず、何とか宥めようとするが、寧ろそれは要求には応じない事を示していて彼の警戒心を高めるだけだった。
少年と神官たちに挟まれ、今のままではこの状況は変わらないと考えた勇樹は、話を進めるべく自分を盾にしている少年に話しかける。
「まあまあ、落ち着きなって。ここで押し問答を繰り返してても始まらないんじゃないかな? ええっと、ロペスさん?はキチンと僕らにこの状況の説明はしてくれるんですよね?」
一瞬、今まで黙っていた勇樹に話しかけられて一瞬反応に遅れたロペスであったが、すぐに立ち直ると大きく頷いた。
「え、ええ、そうです。我が国の王が直々に現状と待遇について、そして我々が御二人をお招きした理由を説明させて頂きます」
たかが学生2人に国王が直々にという事に勇樹たちも面を食らったが、良く考えてみれば態々異世界人を呼んでまで解決したい事案があるということであり、呼ばれた人間も相応の待遇になるのは、ある意味当然の事だった。
「では、こちらで説明しますので付いて来ていただけますかな?」
そういうとロペスは祭壇の脇にあった扉を開けて、部屋を出るように促した。
後ろに隠れていた少年は未だに疑念が晴れていないようであったが、勇樹が無警戒にスイスイと付いて行ってしまい、取り残されるのを嫌がったのか渋々といった感じで後に続いた。
部屋を出るとそこは石作りの廊下だった。
大人2人が並んでぶつからない程度の広さしかなく、灯りも3m間隔でランプが壁に掛かっているだけだった。
だが、よく見るとランプに灯っている光は炎ではない事に気づいた。
ガラスの中には電球のような丸い何かが入っており、それが炎のような光を放っているのが見えた瞬間、勇樹は目をランランに輝かせた。
「おお、このランプの灯りって火じゃないですよね?」
「ええ、これはマジックランプと言って、中に魔石を入れてその魔力で光らせております。普通のランプに比べ、燃えて火事になる心配はないですが、余り長時間付けて置けないのが欠点ですな。ですが、こうして必要な場所だけ灯せばよいので効率は良いのですよ」
そう言われ廊下の奥を覗くと向こうのランプは点灯しておらず暗いままで、勇樹たちが近づくと自動で前方のランプの灯りが点き、後ろを振り向けば離れるごとに遠くのランプが消えていた。
目に映るもの全てが珍しい勇樹は、目に付く物に度々質問を繰り返していると、ロペスが大きな扉の前で足を止めた。
「ここが謁見の間でございます。さぁどうぞ、この中でお待ちください」
ロペスに促され、勇樹は扉のドアノブに手を掛けた。
豪華な作りの扉に気圧されながらも、意を決してドアノブに手を掛けた。
「ごか~いちょ~」
沸き立つ好奇心を誤魔化す為に、ちょっとふざけて扉を開けると……そこには、私服や制服を着た10代の男女が集まっていた。
意気揚々と開けた扉の向こうには、沢山の学生たちが玉座の間に犇く様に集まっていた。
彼らもまた突然呼ばれたようで現状に戸惑っているのか、幾つかのグループに固まって不安そうな顔、嬉しそうな顔、期待に満ちた顔、自信に溢れた顔と様々な表情を浮かべてざわついている。
一緒に来た少年もこの光景には驚いたのか目を見開いていたが、同じ境遇の同世代がいて安心したのか安堵の表情を浮かべた。
「ええっと? ロペスさん、この人たちってまさか……」
予想外の出来事に慌てて背後の方にいるロペスの方へ振り向くと、勇樹の言わんとする事がわかっているのか、ロペスはにこやかに笑いながら頷いた。
「ええ、こちらに居る方々は全員、我々が勇者としてお招きした方々です」
勇樹の予想が的中、まさかの学生勇者軍団に思わず頭を抱える。
そんな勇樹のリアクションに何の反応もせず、「では、暫くお待ちください」とだけ言い残してロペスたちはどこかへ行ってしまった。
残された形となった勇樹は、とりあえず中にいる勇者候補たちを観察する事にした。
年齢は恐らく十代の中学生から大学生までと幅広く、学ランやブレザーの制服を着ている者から私服、中には少数だがコスプレのような奇抜な服を着ている者までいる。
持っている小物も、見た事のある携帯電話やノートパソコンは勿論、腕に装着する小型端末のような物や御札の束まで、バラエティに富んでいた。
そして、次に気になったのは彼らの容姿である。
アイドル並みの美男美女は元より、一見地味そうでも良く見れば容姿が整っているような者などばかりが示し合わせたかのように集まっている。
これも勇者の条件なのだろうかと、十人並みの勇樹は心の中で舌打ちした。
一見、服装も背格好も何もバラバラで共通点が無いように見えたが、勇樹は一つだけある事に気が付いた。
それは、みんなも突然ここへ連れて来られた筈なのに、多少の戸惑いは見えるものの全員が何となくこの状況を前向きに受け入れているように見える事である。
「というか、アレって間違いないよね……」
そこに気が付くと、全員が持ち物に共通点が見えてきた。
それは例えば弄っている携帯の待ち受けや、読んでいる文庫本、鞄や財布に付いているプリントやキーホルダーなどの小物類の数々……どれもがそういう趣味の物で構成されている。
恐らく、それが自分を含めた全員が持つ共通点なのだろうと勇樹は結論付けた。
「まあ、こんな変な状況を受け入れるって言ったら、そういうタイプの人種が一番だもんねぇ」
元々は『勇敢な』や『物怖じしない』などであったのだろうが、時代が進んで条件に合う人間が変異したのかもしれないと勇樹は予想した。
確かにある意味に於いて勇敢で、特殊な状況下なら物怖じはしない人種ではある。
“勇者の資質”の正体を垣間見て思わず苦笑いが漏れながら、何気なく横を向くと一緒にこちらへ来たはずの少年がいなくなっていた。
どこかへ逃げ出したかと慌てて探してみると、何時の間にか勇者集団に混じっているのを見つけ、自分もいつまでも入り口に立っているのも目立つので中に入って扉を閉めた。
勇者集団は大きな集団になるほど血気盛んに騒いでいるのを見て、絡まれて余計な騒ぎに巻き揉まれたくない勇樹は、さっさと壁際に移動して壁と同化していようと考えていた矢先、男子4人組が近づいて来て声を掛けられた。
「やあ、君も突然この世界へ連れて来られた学生かい?」
勇樹に話しかけたのは爽やかな笑顔を浮かべた好青年だった。
室内で風もないのにふわりとそよぐ茶髪、優しさの中に強い意志を感じる真っ直ぐな眼差し、日に焼けているのにシミやニキビなどが全くない綺麗な肌、まるでマンガから飛び出したような完全無欠のイケメンだった。
自他共に認めるフツメンの勇樹は、彼の周囲に謎の輝く星が見えた気がした。
「(くっ、ま、眩しい! これが本当のイケメンオーラという奴か!)」
そんな馬鹿な事を考えてながら勇樹は眩しそうに咄嗟に顔を背けた。
好青年はそんな勇樹の態度を気にした様子もなく、爽やかな態度を崩さずに話しかけた。
「僕は天使星也、高校2年生だ。こっちにいるのは俺と同時期にここへ来たメンバーさ」
星也は自然に笑い掛けながら握手を求めて手を差し出た。
いきなり握手を求められた勇樹は、星也の顔と手を交互に見比べて戸惑った表情をするが、星也の笑顔に何となく押し切られて断り辛くなっていた。
「あ~うん、僕は如月勇樹。よろしく」
勇樹が曖昧な笑顔を浮かべながら、仕方なく差し出された手を取る。
ガッチリと手を握った星也は大袈裟に手を上下に振り、力強い眼差しで戸惑っている勇樹の目を見据える。
「恐らく如月君も突然こんな所へ混乱していると思うけど良く聞いてほしい。まだ予想の段階なんだが、僕たちが今いるここは異世界、つまり如月君が住んでいた地球とは全く違う世界である可能性が高いんだ。もしよければ、君がここへ来た経緯を教えてくれるかい?」
「あー、いきなり話って言っても……下校途中に突然目の前に魔法陣が現れて潜ったらここに居たんだよ」
青年の放つオーラに何かが浄化されかけていた勇樹は、顔を背けながらその時の事を思い返して、あの時の変な感覚は人払い系の魔法だったのではないかと予想していた。
勇樹の話を聞いた星也は何かを考える仕草をすると小さく頷いた。
「なるほど、そこは他の皆と同じか……でも大丈夫さ。何が起きても、ここにいる全員が力を合わせればどんな事だって乗り切れるさ!」
と爽やかな笑顔を浮かべながら、まるで物語の主人公のようなセリフを吐きつつ、その戸惑いを突然こんな所へ連れて来られた不安と勘違いして、握手したままだった手をグッと握り込んだ
すると、脇から締まりのない笑みを浮かべた大学生くらいの男が、勇樹と星也の間に割って入った。
「まあまあ、あんまり強引だとそっちの彼が引いてるじゃないか」
「僕は別にそんなつもりは……」
「やあ、俺の名前は御影元春。こっちの両腕に包帯巻いて全身黒尽くめなのは神崎刹那で、こっちのガイアが囁いてそうなオレ様系が百目鬼帝。俺たち4人もさっきここへ連れて来られたばっかなんだよね。全く、俺なんか帰りにラーメン屋寄ろうと思ってた所に呼び出されたから、腹が減っちまってさぁ」
「……フン、選ばれし者としての決意が足りんな。吾の様にいつ何時、召喚されても良いように備えて置けばそんな事にはならなかった」
「アンタのは、ただの中二だろうがっ」
刹那がニヒルな笑みを浮かべて肩を竦める。
その様子を勇樹が興味深そうにジッと見つめている事に気が付いて、刹那は眉を顰めた。
「なんだ?」
「いえ、どうして君はそんな恰好をしてるのかなぁって思って」
「フン、漆黒の闇の黒こそが吾のパーソナルカラーだからな」
「あーうん、そうなんですか」
自信満々に言い切った刹那に、勇樹はツッコむ事を放棄した。
そんな風に男子5人で話していると、もう一組のグループが近づいてきた。
「バカじゃないの? 漆黒の闇の黒って意味が被ってるわよ」
「だ、誰だ!」
勇樹たちの間に割って入ってきたのは長い髪を邪魔にならないように後ろで纏め、部活の途中だったのか制服ではなくジャージ姿の薄ら日焼けしたスポーツ少女を先頭にした少女4人組だった。
スポーツ少女は勇樹の鼻を指差すと、何かを疑っているような眼差しで睨み付けた。
「ここに入ってきた時からアンタの事を観察させて貰ってたけど、他の奴らと違ってアンタはこの状況に全然動揺とか疑問とか微塵も感じてないみたいだけど、ホントは何か知ってんじゃないの?」
「は、花菱さん、言いがかりは止めなよ。彼だって困ってるじゃないか」
「うっさい、優男!」
疑念を隠しもせずに勇樹を睨み付ける少女を見兼ねて星也が止めに入るが、優男の穏やかさなのかスポーツ少女の気の強さの所為か、星也は少女を抑えきれない。
「まあまあ明日菜さん、落ち着きましょう」
「そうだぞ、決めつけはいけない」
今にも暴れ出しそうなスポーツ少女の様子に、一緒にいた少女たちが見兼ねて星也との間に割って入った。
仲間に諌められて、スポーツ少女は仕方なく溜息を吐いて不機嫌そうに星也から離れた。
美男美女の言い争いを勇樹が微妙な顔をして眺めていると、それに気が付いた星也がそれまでの空気を払拭する様にパンと手を合わせる。
「そうだ、みんなも紹介しよう。こちらは僕と同じ時期に呼ばれた花菱明日菜さん。彼女には同じ年代の女子のリーダーをして貰ってるんだ」
勇者の召喚は毎回5ヶ所の召喚場から1~3人の男女が呼ばれる為、初めの内は男女で幾つかのグループに分かれていたが、孤立した子が出てきて情報が共有されていなかった。
そこで異世界へ来たばかりで戸惑っていた学生達を、星也が説得して面倒見の良い人物を中心に世代別で分けていた。
星也の行動力に感心していると、あからさまに腹立った様子で勇樹を睨み付けている者がいた。
先程、勇樹に食って掛かった少女――花菱明日菜である。
「……怪しい、怪しすぎる。最初の方に来たアタシだって、未だにこの状況に戸惑ってるのに、アンタはこの状況に馴染んでる。けど、かと言ってそこの馬鹿みたいに燥いでいるワケでもない……アンタ、本当は何が起きているのか事情を全部知ってるんじゃないの?」
「いやいや、今がどんな状況なのかくらい、ちょっと考えれば誰だって分かるでしょ?」
「なんですって!?」
「まーまー、明日菜ちゃん。彼はここへ来たばっかりで混乱しているんだって。それにどんな事情にしろ、呼び出した側が俺達に紛れ込むメリットなんてないじゃん? だから、彼はシロだよ」
元春に説得されて明日菜は疑念の目を向けているものの、それ以上勇樹を追及する事はなかった。
そもそも、何故勇樹がこんな状況でも平然として居られたかと言えば、それは彼の幼少期にあった。
両親の仕事の都合で旅行するように世界中を北は南にと転校を繰り返し、環境がガラリと変わるのを何度も経験している。
加えて、元々環境の変化に鈍感だった勇樹がここまで落ち着いているのには、両親が死んだ事故には勇樹自身も巻き込まれているのが関係しているのだが、それはまた別のお話……
そうとは知らない明日菜の視線に耐えきれずに勇樹が目を背けていると、奥にある扉が開いて鎧を着た騎士たちが玉座と勇者たちを隔てるように立ち並んだ。
そして、次に部屋に入ってきたのは豪奢な衣装を纏い、頭に金銀宝石をあしらった王冠を被った男性、勇樹たちがいる国――エルクレア王国の国王ウルサル・エルクレアだった
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。