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勇者は101人いる(リメイク版)  作者: 酔生夢死
一章 少年、召喚される

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19話 少年、狩りに参加する

(´・ω・`)

 手足に重りを付けられながらボコボコにされた翌日。

 修練場で待っていたのは、目隠しを持ったドラグニールだった。

 勇樹も嫌な予感はしながらも、聞かずにはいられなかった。


「えーっと、念の為に聞くんだけど、その手に持っているのは……」


「勿論、お主に付ける為に用意したものじゃよ」


 そう聞いた瞬間、勇樹は反転して掛け出した。

 が、ドラグニールは勇樹がそうする事を予期していたかのように、勇樹の手首を掴んで引き倒す。


()ったあ!?」


「往生際が悪いのう。これもお主の為なんじゃよ」


「だから、なんで僕の方がハンデ付ける側なの!?」


 老人の姿とはいえ、正体はドラゴンであるドラグニールの凄い力に押さえつけられて、勇樹は悪足掻きに手足をジタバタさせる。

 勿論、そんな事で逃げられる筈もなく、勇樹の抵抗も虚しく目隠しが付けられてしまった。


「それじゃあ、それを取ったらもっと酷い罰を与えるんで、必死に気張るんじゃよ」


「はいぃ!?」


 心の準備も整わないまま修練場へと放り落とされた勇樹は、目隠しが取れないよう、視覚以外の感覚を必死に研ぎ澄ませて、迫りくる攻撃を躱すのであった。


 そして、その日から一日ごとに目隠し→耳栓→鼻栓→麻痺薬という順番でハンデを増やされて行く事になる。

 余りのスパルタっぷりに、次第に竜人たちからも相手にされなくなりながらも、勇樹はドラグニールからの無茶振りの修行を熟して行った。


 そうして、勇樹が竜の里に来て2週間が経とうとしていた。




「そういえば……どうして僕こんなに頑張ってるんだっけ?」


「オレが知るかよ……」


 不意に冷静になった勇樹の呟きに、ニゲルは溜息を吐きながら一蹴した。

 と言っても、問い掛けた当の勇樹は目隠しに耳栓までされているので、ニゲルの声は届いていない。


「最初は毛玉に負けたのが情けないって理由でやらされてたけど……もう毛玉には十分勝てるよね?」


「そもそも、ムクムクなんて雑魚に負ける方が驚きだよ。アレに勝てたって何の自慢にもならねぇよ」


「でも、高い目標とかないからなぁ……魔王を倒すワケでもないのに」


「せめて大型獣ぐらい狩れるようになれって事だろう?」


「僕はそこそこの強さで十分だよ」


「……お前たちは何をしているんだ?」


 ニゲルが振り向くと、ダクディルが呆れた表情を浮かべながら近づいてきていた。


「ユーキの耳は完全に塞がっているのか? 今、2人で会話していたように見えたが……」


「コイツの独り言に俺が適当に相槌打ってるだけっスよ。何せ、コイツが五感を封じられてるにも拘らず攻撃を避けるのに気味悪がって、誰も付き合ってくれなくなっちまったんで」


 そう言っている間も、ニゲルは不意打ちで急所を狙って攻撃するが、その度に勇樹は紙一重で躱している。

 普通なら見えていても避けられそうにない攻撃を、顔の殆どを覆われている状態で着ている服にすら掠らせずに避けている様は、見ている者の何かを不安にさせる光景だった。


「こんな風に普通に避けるから、みんな気持ち悪がるんっスよ。最初は石とか投げて茶々入れてたんすけどね……」


「こうやって避けてる分には良いけど、足を踏み外しちゃったりすると危ないから、石とか投げるのは止めて欲しいよ」


「もういい……事情は分かった。とりあえず訓練は終了しろ、この後は狩りに行く」


「狩りっスか……もしかしてユーキも?」


 ニゲルの問いにダクディルが頷いたのを見て、驚きこそしなかったがため息が漏れた。


 竜人族の狩りとは戦士の証であり、年に数回行われる“成人の儀”をクリアした者のみが同行を許される名誉ある行事である。

 その常識から言えば、部外者である勇樹が参加するなど以ての外、例え上位竜である赤賢竜のドラグニールの庇護下に居ようと、本来ならば参加できない物だった。


「しかし、コイツは成人の儀をやり遂げてしまったからな……」


 ダクディルはこれから同行する仲間に、この事を話す事を想像して頭を抱えた。


 だがドラグニールの要望もあり、勇樹を参加させない訳にも行かない理由も存在した。

 先日、行われた成人の儀に特別枠として参加した勇樹は、他の若い竜人たちをぶっちぎって優秀な成績を出してしまったのである。


 それほどの戦士を狩りに参加させないなどという冷遇もまた、竜人の常識としてはあり得ず、色々問題はあるが参加させる事となっていた。


「狩りに出せば戦士たちから文句が出る……しかし、出さなければ若い者たちから不満が出る……言いたくはないが、赤賢竜殿も難しい問題を持ち込んでくれたものだな……」


「まあ、参加させるしかないんじゃないっすか? 例外を認めた時点で、ユーキは竜人の戦士として認められちまってるんスから。その時になったら、俺がユーキとコンビ組んで面倒見るっス」


「ああ、頼んだぞ」


 ちなみに、ニゲルも前回の成人の儀で戦士になったばかりの新人である。

 その時に当時は人族が参加する事に否定派だったニゲルが、勇樹を妨害しようとしてピンチに陥って、逆に勇樹に助けられたというエピソードがあるが、それはまた別の機会。




「人族の子供を我らの狩りに参加させるだと? そんな物、認める訳がないだろう」


 年配者からの予想通りの返答に、ダクディルはまた頭を抱えた。


 ただでさえ、“竜の里”は高い山々が集まる竜殿山脈の山頂付近という過酷な環境下にあり、その周囲に出るモンスターは高レベルな物ばかりで、熟練の戦士すら時には命を落とす事もあり得る。


 そんな場所へ狩りに出られるというのは竜人にとって力を認められた大人の証であり、強く大きな獲物を狩ればそれだけ自分の戦士としての評価も上がる為、彼らにとっては重要な行事なのである。


 特に年配の者ほど狩りを神聖視する者が多く、勇樹の参加を反対しているのもそういう者たちであった。


「我らにとって狩りとは己の技量と試す神聖な物、どんな理由であれ普人族を参加などさせられる訳がない」


 里の(おさ)である竜人がダクディルと勇樹を睨み付け、槍を突きつける事で拒絶の意を示す。


「それは分かってはいる。しかし、ユーキを竜人の戦士として認めた以上、参加させない訳にも行かないではないか」


「そもそもだ。其奴(そやつ)を成人の儀に参加させたのが間違いだったのだ」


「ならば、その場で赤賢竜殿に異議を申し立てれば良かったではないですか。既に決まってしまった物は捻じ曲げられない」


 ダクディルは自分たちの様子を(うかが)っている若い竜人たちをチラリと見回した。

 皆、一様にこちらが気になるのかコソコソと覗き見ているのが見える。


 この結論次第で、若い竜人たちがどういう行動に出るかが決まってしまう。

 しかし、(おさ)たちはそんな周囲を気にした様子もなく、ダクディルを一笑した。


「論点をズラすなダクディル。我らが言っているのは、成人の儀に紛れ込んだネズミ風情(・・・・・・・・・・)を戦士として扱う事が間違っているのだと言っているのだ」


「……どの者よりも真っ先に成し遂げた者をネズミと?」


「当然だ、我らは誇り高き竜の系譜。普人族と比べるなどいう事が間違いなのだ」


 こちらの様子を窺っている若者たちが苛立っている様子が伝わってくる。


 取り分け一番関心が高いのが、多数を占めているのは成人の儀を誰よりも早く成し遂げた勇樹を戦士として認めるのか否か、そして成し遂げた勇樹を狩りに参加させるのかという者たち。


 彼らにとっては勇樹が戦士として認められなければ、例外とは言え儀式を遂げた者であっても一人前として認められない前例が出来てしまう。

 そして勇樹が狩りに参加できなければ、儀式を遂げた者であっても参加できないかのしれないという疑念が生まれる。


 そして少数派だが、勇樹の修行風景を見て勇樹を認めている者たち。

 何せ自分たちですら熟せそうにない課題をやり切ってしまう勇樹を、大なり小なり認めている者たちは確かに居る。

 彼らは当然、戦士として優秀な勇樹を狩りに連れて行くべきだと思っている。


 つまり、長の結論次第で若者たちにとっての憧れだった、『成人の儀』その物の存在理由が揺らいでしまうのである。

 そんなピリピリした空気の中で、一人の若者が手を挙げた。


「あの~いいっすか?」


「……なんだ」


 手を挙げたニゲルは一気に集まった視線に尻込みしながらも、この言い合いを終わらせる為に発言する。


「こういうのはどうっスか? 俺とユーキは皆さんから離れた所で狩りをやります。無論、皆さんに気にかけて貰う必要はありません。出合ったら容赦なく奴を狩っても構いません」


 ニゲルの言葉に、長たちは(いぶか)しげに眉を(しか)める。


「ようは狩りに一匹ネズミが混じっちまうだけの事っス。それなら問題ないっしょ?」


 先ほど自分たちが勇樹をネズミと言った事を逆に使われ、長がニヤリと笑った。

 他の年配者も嘲笑を堪え切れないと言った様子で肩を揺らしている。


「良かろう。ネズミがその辺をうろつくなどよくある事だ。そのネズミが狩られぬようにしっかり見て置くのだな」


 こうして勇樹の狩りへの参加が決まった。


 最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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