17話 少年、竜の里へ行く
(´・ω・`)こういう物を書いているので、「異世界に行けたら~」なんて妄想はたまにします。
ただし、どんなチート能力を持っていたとしても、やっていける自信が微塵もありません……
ドラゴン姿のドラグニールに連れられ、勇樹は山脈地帯の入り口辺り付近にある高い山の山頂、そこに削り出すように作られた村――“竜の里”へとやってきた。
竜の里と言っても、殆どの住人は『竜人』と呼ばれる亜人であり、純血のドラゴンたちもそれに合わせて人型になっている者が多く、雲より高い場所にある事を除けば地上の村と大して変わりはなかった――見た目だけは。
「お~お~お~!」
竜の里に着いた勇樹は、まるで遊園地にでも来た子供のように目を輝かせて、目に映る全てが珍しいと言わんばかりに、キョロキョロと村の中を観察していた。
「王都の時は人が多かったから気が付かなかったけど、この世界の亜人って思ったよりケモノ度が高いんだなぁ」
勇樹が感心する様に呟いた視線の先には、竜人の子供たちが楽しそうに木剣で遊んでいた。
この世界の竜人は、勇樹が見ていたアニメや漫画に出てきた、人間に翼と尻尾が付いているだけのバージョンか、二足歩行トカゲではなかった。
ベースは人間だが尻尾と翼があり、手足は鱗に覆われており、顔は男女共通して爬虫類のような目だが、男性は爬虫類寄りに顔全体が鱗で覆われていて、女性は普通の人間の顔をしていた。
勇樹の何気ない呟きにドラグニールは首を傾げる。
「なんじゃ? そのケモノドとかいうのは」
「まぁ、簡単に言えば人間の視点から見て、亜人の身体がどの程度毛や鱗に覆われているかって意味ですね~。所で赤爺、僕たちは何所へ向かってるんですか~?」
親猫に運ばれる仔猫のようにドラゴン形態のドラグニールに咥えられた勇樹は、イメージしていた修行場所とは程遠い平穏な場所に、初めて来た家に警戒する犬猫のような落ち着きの無さを感じていた。
しかし、勇樹の問いにドラグニールは何も答えず、竜の里をどんどん歩いて行く。
勇樹もどうせ行けばわかる事だろうと、気を取り直して竜の里の見学に勤しんだ。
暫くすると里を抜けて、里の片隅までやってきた。
目的地に着いたのでドラグニールは銜えていた勇樹を下して、自分も人型へと変化する。
そこにあったのは運動場ほどの広さの、丸いすり鉢状の穴だった。
穴の底では複数の竜人が戦っているのを見て、ここが次の修行場かと勇樹は漠然とした感想を抱いた。
穴の淵に立って中を見下ろしていた大柄の竜人が、こちらに気付いて声を掛けて来た。
「む? そこに居られるのは、若しや赤賢竜様ではございませんか?」
「おお、ダク坊か。久しいのう」
ダク坊と呼ばれた大柄の竜人は体中の鱗が傷だらけで、身に纏った防具や武器も年季が入ってよく使い込まれていて、いかにも歴戦の戦士と言った風体である。
竜人はドラグニールの前で、かしずくように跪いた。
「お久しぶりでございます。今日はどのようなご用でしょうか?」
「うむ、実は此奴をここで鍛えて欲しいんじゃよ」
そう言って、初めて見る本物の戦闘訓練の風景に、目を輝かせて観戦していた勇樹の首根っこを引っ張って、竜人の前に突き出した。
「此奴は竜人のダクディルという竜人の中でも一二を争う戦士じゃ。お主の良い師になるじゃろう」
「初めまして! ユーキ・キサラギっていいます! ゴツゴツした黒いウロコとか太い尻尾とかカッコイイですね!」
「この……普人族の子供を……ですか?」
自分の姿に憧憬の篭った眼差しを向ける勇樹を見て、竜人ダクディルは明らかに戸惑った表情を浮かべる。
頑強な肉体を持つ竜人の修練はとても厳しく、ただの普人族の子供が付いて行けるとは到底思えなかったからである。
困惑しているダクディルを見て、ドラグニールは目を細めた。
「ユーキ、ダク坊を殺す気で斬りかかりなさい」
「了解!」
ドラグニールの突然の命令に、それまでのほほんとしていた勇樹がスイッチを切り替えたように、剣を持って飛びかかった。
剣を振り回すように鞘を抜き、ダクディルに向かって体重を乗せた一閃を放つ。
その不意打ちに反応できたのは、一重にダクディルの戦士としての鋭い勘だった。
「!?」
ダクディルが攻撃を受けたのを見て、勇樹はさらに攻めた。
しかし、元来の体格の違いで剣の押し合いでは分が悪いと感じ取り、距離を取って下がると同時に、体勢を低くして土を握り込んで、相手の顔を目掛けて投げつつ彼の懐へ飛び込んだ。
土は片手で払うだけで防げたが、防いだ腕が視界を遮ってしまい、飛び掛かってくる勇樹に対しての反応が遅れる。
勇樹は隠し持っていた骨のナイフや、煙幕などを駆使してダクディルに肉薄する。
一方、ダクディルは勇樹の攻撃を受けながら戸惑っていた。
勇樹の攻撃から殺意も敵意も感じられず、意識しなければ見逃してしまいそうになる。
普通であればどんな攻撃でさえ、大小にかかわらず殺気は攻撃に宿るものである。
だが勇樹は殺意を一切表に出さないまま、自然体のままで剣を振るわなければならなかった。
何せ竜の砦では僅かな殺気でも漏らすだけで、大型スピーカーで音楽を大音量で流しているのも同然で、弱いモンスターは森の僅かな変化を敏感に感じ取って逃げてしまう。
故に身に着けた攻撃の瞬間すらも気配を漏らさない攻撃が、戦士ダクディルの目には異様なものにしか映らなかった。
そして、ドラグニールがここへ連れて来た最大の理由は……
「ふんっ!」
「ぐぱどっ!?」
最初こそ戸惑ったが、対人戦に不慣れな勇樹の隙をあっさりと見抜いたダクディルの反撃を、諸に受けた勇樹が奇声をあげながら吹き飛ばされる。
攻撃を加えたダクディルも唖然とした顔をしていた。
「赤賢竜様……彼は一体なんなのですか? 攻撃の鋭さはウチの戦士にも迫りますが、防御と回避は致命傷を避けられればいいと言わんばかり……まるで死兵ですよ? あの普人族は一体どういう……」
「そうなんじゃよ。まさか儂もこんな事になるとは思わんかった……」
ドラグニールが勇樹をここへ連れて来た最大の理由は、勇樹は死に戻り前提の戦闘を行っている事に気が付いたからであった。
何せ竜の砦の中ならば、どんなに怪我をしても半日ほどで治り、死んでも復活できる。
理論上なら相打ち覚悟で特攻を繰り返していけば、早くレベルは上がっていくのだが、出来るからと言って現実とゲームは違う。
実際には身を斬り裂き、打ち付けられる痛みがあり、それを無視して実行できるのは自殺志願者か精神異常者ぐらいである。
そして、それを勇樹はやった。
それも壮絶な覚悟や決意などなく、ただ経験値を積み上げる手段の一つとして、死に続ける事を選んだのである。
その結果、敵の攻撃をギリギリで避けながら斬り込んで行く、肉を斬らせて骨を断つ戦闘スタイルが出来上がってしまっていた。
「ここに連れて来た理由はズバリ、アレを矯正して欲しい。あんな戦い方では命がいくらあっても足りんわ」
「はぁ……それは構わないのですが、我らの修行と言ったらアレですよ?」
そう言って指差したのは、目の前にあるすり鉢状の大穴だった。
その中では数人の若い竜人が己の武器を片手に乱戦を行っていて、誰かが倒れると穴の淵で見ていた竜人たちが、倒れている者を回収して次の竜人が乱戦に加わっていくのを繰り返している。
簡単に言えばぶっ倒れるまで、ぶつかり稽古を繰り返しているだけであった。
これを竜族の戦士は朝から晩まで、倒れるまで繰り返し行っている。
ダクディルは頑丈な竜人族ならまだしも、普人族である勇樹に付いて行けるとは到底思えなかった。
「ん? ああ、それについては安心してよい」
「そ、そうですよね。普人族に我らの修行法は……」
「ユーキの方には、ひょいひょい躱せん様に重りを加えるつもりじゃから」
ひょっとしてこの方は彼を遠回しに殺すつもりなんじゃないだろうか。
何故か倒れている竜人の介抱をしている勇樹を見ながら、ダクディルはそう思えずにはいられなかった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




