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勇者は101人いる(リメイク版)  作者: 酔生夢死
一章 少年、召喚される

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11話 少年、異世界の過酷さを実感する

(´・ω・`)書き直している最中は、もっと主人公に死んで貰う予定でした。

 思いつくままに書いていると長すぎるので、泣く泣くカットしました。悲しい。

「……はっ!?」


 横からオレンジ色の夕陽が差し込むテントの中で、何かでべっとりと張り付いた服の気持ち悪さと、首に焼けた鉄の棒を差し込まれたような痛みで目が覚める。


『おお、目が覚めたか。今回は中々綺麗に死んだのう』


「はぁ……はぁ……赤爺?」


 ドラグニールの声を聞いた勇樹は咄嗟に首に手を当てて、首が繋がっている事を確認する。

 そこで気を失う前の事を思い出して、顔が一層青くなった。


 刎ねられた痛みが残る首を何度も触って、繋がっている事を確かめ安堵の息を吐いた。

 2度も死んだ事が半ば夢心地な気分だったが、回復魔法では治し切れなかった痛みが体に走り、アレが夢でなかった証拠していた。


「……気持ち悪い」


『それはそうじゃな。何せ、『死に戻り』は死ぬ直前の身体を細切れにして掻き回している様なものじゃからなぁ』


 勇樹が青い顔をして思わず呟いた言葉に、中々エグイ表現をしてくる。


『それにしても運が良かったのう。昨日のようなダメージを受けておったら、間違いなく死んでおったぞ。1日目で失った部分の補完がまだ完全ではないからのう』


「補完?」


『何せ、お主のレベルはまだたったの1じゃからな。その首輪でもアレだけの身体の破損を修復するには時間が掛かるんじゃよ。まあ、今のペースだと完全に再生するまでには10年くらい掛かるかのう』


「10っ!?」


 夕食の献立でも告げるような気軽さで暢気に言われた年月に言葉を失う。


 元々、勇樹に装着されている首輪は『レベルの低い勇者』が『同じレベル帯のモンスター』との戦闘で敗北した状態を想定して作られている為、欠損した部位を短期間で修復できるほどの機能はない。


 しかし前回、ブラックモスに胸を貫かれたダメージはその想定を遥かに上回り、応急処置として欠損した部分を魔力で補っている状態だった。


 当然そんな事が出来ているのは竜の砦に満ちる魔力のお陰であり、裏を返せば欠損部分が修復されるまで、勇樹はこの場所に閉じ込められる事を意味していた。


「ど、どうにかならないの!? 10年もこんな所に居られないよ!」


『うむ、その位ならどうにでもなるわい。人間の失った部位の補修なんぞ、(わし)にしてみれば箸で豆を摘まむより容易(たやす)いわ』


「へ?」


 思いがけないセリフに、勇樹は内心で「この世界にも箸とかあるんだ」とか如何でもいい事に感心した。


「って、そうじゃなくて! 治せるの!?」


『まあ、まるっきり自前では難しいが移植できる物があれば、魔法で拒絶反応もなく治す事が可能じゃ。そういう訳じゃから、移植する心臓はこちらで用意して置くから安心せい』


「魔法スゲー! お願いします!」


『ふぉっふぉっふぉっ。では、また何か用があれば儂の名を呼ぶが良い』


 ドラグニールはそれだけ告げると、通話が切れるようにブツッと繋がっていた感覚が途切れた。




 ここへ来てからの3日間を食料の調達に努め、問題が解消されて余裕が出来た頃、山芋モドキだけでは味気ないので更なる食料を求めて泉周辺を散策していた。

 すると、少し離れた場所の茂みに小粒の赤い実を付けた木を発見する。


 早速、マギフォンを向けると無毒で可食と出たので、丁度小腹が空いていた勇樹は躊躇なく口に入れた。


「うん、ちょっとピリッとするけど甘みもあって、なかなか……」


 噛み締めると果汁が広がり久方ぶりの甘味に目を細めた瞬間……口から火を吹いた。


「辛ーっ! いや、痛い!? くひがーくひがいはい!? み、みすー! みすー!?」


 甘みを感じた果汁は瞬時に激痛を伴う辛味へと変わり、あまりの痛さに唾液がダラダラと滝の様に流れ出し、感覚が無くなって行く。

 すぐに水筒の水を煽ったが、たった一本だけでは全く足りずにあっという間に無くなり、堪え切れなくなった勇樹は泉の方へと駆けだした。


「がぼばぼば!」


 泉に着くと走った勢いのまま、顔を水へと突っ込んだ。

 痛みを少しでも和らげようと、水の中で何度も口を濯ぐ。


 勇樹が食べた木の実の名前は「カプサン」という物凄く珍しい木の実で、一粒齧るだけで3日は他の味がしないと言われるほどに強烈な辛味があり、竜の砦でもこれを食べる生物はいなかったりする。


 口に感覚が無くなるほどの辛さに、勇樹は数時間ほど水から口を出す事が出来なかった。




 何度も念入りに口を湧水で濯ぎ、何とか水から口を離せるようになったのは日も暮れて薄暗くなり始めた頃だった。


 口の中は未だにひりつくが激しい痛みの波は通り過ぎたので、気配を隠す練習をしながら拠点に戻る最中、一匹の角が生えたウサギが足を引き摺って歩いているのを見つける。

 それを見た勇樹は目を輝かせた。


「あのイッカクの牙のような角を額から生やしたウサギは……もしや、アルミラージ!?」


 勇樹は慌ててマギフォンを向けて鑑定すると、見たままの“角ウサギ”という名前だった。


 角ウサギはウサギと名がついているものの、地球に居る兎とは似ても似つかぬ野犬のような細身の胴体と野性味溢れた鋭い眼光を持った獣である。

 普段であれば自分よりも大きな相手にすら突撃していく狂暴性を持っているが、怪我をしている所為かとても弱弱しく、か細い声を上げながら身体を震わせていた。


 そんな弱っている獲物を逃すほど、この竜の砦は甘くはない。

 勇樹が潜んでいる場所とは反対の茂みから、ナイトパンサーという肉食のモンスターが音もなく姿を現して、弱った角ウサギの前に立ちはだかる。


 引き摺った足で必死に後ずさりしながら威嚇する角ウサギを見た瞬間、勇樹の脳裏にモンスターに襲われたり、この過酷なサバイバル生活がフラッシュバックする。

 弱った角ウサギが自分と重なって見えた瞬間、思わず杖代わりにしていた木の棒を手にナイトパンサーの前に躍り出ていた。


 自分の単純さに苦笑いしながら後ろで小さく震える角ウサギをチラリと見て、ナイトパンサーを見据える。


「さあ、僕が相手……がふっ!?」


 モンスター相手に啖呵を切ろうとした瞬間、勇樹の胸から角が生えた。

 何事かと後ろを振り向くと、先ほどまで怯えていた筈の角ウサギが自分の背中を突き刺していた。


「な、なにが……」


 勇樹がそう呟くと、角ウサギは勇樹の背中を蹴って角を引き抜き、そのまま元気よく茂みの向こうへ走り去っていった。

 そして、呆然とその後ろ姿を見送っていたところで、ナイトパンサーに後ろから首を掻き切られて拠点へと転送された。


 後から知ったが、角ウサギは時折弱った素振りを見せて肉食獣を誘き寄せて、油断しているところを角で突き殺して逆に餌にするという手法を取る雑食性モンスターだった。

 これをドラグニールから聞かされた勇樹は頭の中で何かがブチ切れた。


 その後も大型モンスターを見かけたので息を殺してやり過ごそうとしていたら、背後から近づいていた角ウサギに気付かずに背中から刺されて死亡したり、大型モンスターに見つかって転送される経験を何度も味わう事となる。




 死に戻りを繰り返したサバイバル生活4日目の夜、勇樹は自分のステータスを眺めながら、自分の強さについて考えていた。


「当たり前だけど、レベルは上がってないなぁ。スキルの方はいくつか増えてるけど」


 変わらずレベル1と表示されているステータス画面をスクロールすると、そこにはここへ来た日に見た時にはなかった《気配遮断》、《採取》、《道具作成》スキルが生えていた。

 どういう経緯で付いたのかは容易に想像できたが、それよりも重要な事があった。


「つまり、レベルを上げなくともスキルを習得する事は可能で、スキルがあると行動に補正が付くのか……」


 スキルが付く前と後に作成した竹モドキ水筒を並べ見比べながら呟く。

 細かすぎて分かり辛いが、よく見ると断面の荒さや細かな亀裂の有無など微妙に差異があった。


 この事から勇樹はドラグニールにいくつかの質問をして、想像が事実なのかを確認する。

 すると以下の事が分かった。


・スキルとは使えば使う程に経験値が蓄積され、レベルが上がると掛かる補正も上がる。

・相手のレベルが高く差が大きい程、失敗しやすいが経験値も多く入る。

・スキルとはあくまでも行動に対するアシストなので、例えば目の前の肉がどの程度の焼き加減なのかを判断はできるが、料理の仕方を開示してくれたりはしない。

・そして、空気中の魔力が多いこの場所ならばスキルの習得も早い……筈。


 幾つか不安な内容もあったが、今のところ死に戻る一方である勇樹は先ずはスキルを鍛えて強くなる事を決めた。




 翌日――

 スキルを上げるにも1レベルでは生きて行くのですら厳しいと考えて、頼り無いながらも武器として木の枝に石の刃を括り付けただけの石槍を作った。


 狙いはこの砦で最弱のモンスター“角ウサギ”である。

 念の為にドラグニールにも確認してあるので、実はブラックモスも狩る強者なんてオチはない。


 準備を終えて《気配遮断》を発動しながら探しに出ると、ものの数分で目的の角ウサギを発見する。

 雑魚と言っても何度も奇襲で殺されているので、勇樹は慎重に飛び出しやすい場所へ回り込んだ。


 完全に油断しているのか、角ウサギは地面に生えている草を夢中になって食んでいる。

 勇樹は改めて石槍を握り直し、呼吸を整えると角ウサギに向かって……飛び掛かった。


「ッ!」


 声は漏らさず、渾身の力を込めて石槍を突き出して角ウサギを仕留めに掛かる。

 角ウサギも勇樹に気が付いたがすでに遅く、勇樹の感覚としてはこれ以上に無いくらいのタイミングで、真っ直ぐに角ウサギの胴体へ石槍が突き刺さった――かに思えた。


「……え?」


 柄から伝わってきたのはサンドバッグでも突いたかのような、少し沈み込むがそれ以上は進んで行かないずっしりとした重い感触に、勇樹は思わず立ち止まって呆けてしまった。


 当然ながらそんな隙を角ウサギは一切見逃さずに襲い掛かり、勇樹の胸を一突きにする。

 それに対して勇樹は意識を朦朧とさせながらも、一撃でも喰らわせようと角ウサギを抱え込んで、最後の力を振り絞って石のナイフを突き立てた。


 だが、そんな勇樹の悪足掻きも石のナイフは突き刺さる事無く、毛皮の上を滑るだけに留まり、あっさりと蹴り飛ばされて勇樹は転送された。


 そして、死に戻った後にドラグニールから『最弱である事は間違いないが、お主はそれよりも遥かに弱い』と断言されて、勇樹はモンスターを倒す事を諦めた。


 最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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