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勇者は101人いる(リメイク版)  作者: 酔生夢死
一章 少年、召喚される
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01話 少年、召喚される

(´・ω・`)初めましての方は初めまして、そうでない方はお久しぶりです。

 約半年の空白期間を経て戻って参りました。

 旧版から色々と書き足したり、設定を変えた部分も多々あるので、一応差別化はできている……筈です。


 相も変わらず、読み辛い文章かとは思いますが、最後まで読んで頂ければ幸いです。


「ごか~いちょ~」


 ダークブラウンの豪奢な扉のドアノブに手を掛け、意気揚々と扉を開く。

 ゆっくりと音を立てて開いた扉の向こうは――映画かゲームの中でしか見たことがなかったような謁見の間だった。


 様々な絵が模られたステンドグラスから鮮やかな色の光が差し込み、天井から数メートル間隔で吊り下げられたシャンデリアが照らされ煌びやかに輝いている。

 白い壁には幾つもの絢爛豪華な彫刻が施され、床に真っ直ぐ敷かれた真紅の絨毯の先には、金銀の派手な装飾で彩られた玉座が鎮座していた。


 入ってきた者を圧倒するほどの荘厳な大広間には――10代後半から20代前半であろう学生らしき沢山の男女が(ひしめ)く様に集まっていた。


「どういう事なのこれ……」


 想像とはまるで違う光景に、上がっていたテンションは冷や水を掛けられたように下がって、その場に頭を抱えて蹲った。

 それは遡る事、およそ約9時間前……




 ――ピピピッピピピッピピピッ


 朝日がカーテンの隙間から差し込む、静かな薄暗いマンションの一室に携帯からアラーム音が鳴り響く。


 その部屋の中は殆ど物がなく、床に直接マンガやライトノベルや専門書がビル群のように所狭しと積み上がっており、テーブル代わりのダンボールの上にはパソコンが置かれている。

 すると、本のビル群の隙間を縫うように腕が伸びて、本の上を数回探るように叩くとアラームが鳴る携帯を手に取った。


「うーん……朝ぁ……? ぐぅ……」


 しかし、腕の主は携帯を手に取ったところで睡魔に負け、再び夢の中へ旅立とうとしていた。

 すると、暫くして今度は玄関の方から呼び鈴が鳴り、誰かが扉を叩く。


 ――ピンポーン、ドンドンドンッ! ガチャ


 訪問者は睡魔に負けた部屋の主の了解を待たずに、手に持っていたマスターキーで鍵を開けて顔を覗かせて、部屋の奥へ声を掛ける。


「ちょっと、もう朝だけど起きてる? 朝食持って来たわよ!」


「むにゃむにゃ……」


「入るからねー?」


 訪問者は返答がない事を確認すると遠慮なく玄関へ侵入し、脱いだ靴を揃えると慣れた様に部屋の奥へと進んで行った。

 そして、何かをキッチンに置くと窓へと近づいて勢いよくカーテンを開け放った。


「あー! やっぱりまだ寝てた! ほら早く起きて、遅刻しちゃうでしょ!」


「うーん……もう朝?」


 訪問者である近所の高校の制服を着た少女は、差し込む朝日を背に積み上げられた本の群れの間で段ボールだけ敷いて寝ている部屋の主である少年を起こした。

 起こされた部屋の主である少年は寝ぼけ眼でノロノロと起き出し、制服を着た少女は少年の様子に呆れたように溜息を吐く。


「あっきれた。またダンボールの上で寝てたワケ? いい加減に本だけじゃなくて家具とかも買いなさいよ」


「布団はぁ……カビ臭くならないように定期的に干してるよ……」


「干してたって使わなかったら意味がないでしょ! それよりも、ほら起きて! これ、母さんがアンタにって朝食! 早くしないと私まで遅刻するでしょ!」


「ふぁーい……」


 少女に蹴りを入れられながら、少年は冬眠明けの熊のようにノソノソと洗面所へ向かった。




 顔を洗って目を覚まして制服に着替えてリビングに戻って来ると、テーブル代わりにしているダンボールの上には少女の持って来た料理の入ったタッパが並べられていた。


「ほら、温めておいたからさっさと食べる!」


「ハーイ、いただきます!」


 壁際に寄せてあった炊飯ジャーを手繰り寄せ、昨日自分で仕込んでおいた炊き立てのご飯を茶碗に盛ると、元気よく手を合わせた。


 彼の名前は如月勇樹、どこにでもいるゲーム・マンガ・小説が大好きな高校2年生である。

 現在、勇樹は少女の両親が経営するマンションに一人暮らしで、彼の両親は幼い頃に事故で死別、父方の祖父に引き取られるが、勇樹が中学を卒業するのを見届けるように祖父も亡くなった。


 祖父の遺言によって両親と祖父の遺産を受け継いだ勇樹は、並み居る親戚の勧誘を押し退け、祖父と住んでいた土地を貸し出し、遠い親戚が経営しているマンション最上階を購入して引っ越してきたのである。

 それ以降、何かと同い年である少女――遠野早紀が両親に頼まれて様子を見に来ていた。


 早紀は勇樹が朝食の食べているのを確認すると、鞄を持って立ち上がった。


「それじゃあ、私は先に行くから。くれぐれも遅刻するんじゃないわよ? アンタになんかあると、私まで親に怒られるんだから!」


「ふーい!」


 おかずとご飯を口に頬張りながら勇樹が返事をすると、早紀は鼻を鳴らして出て行った。




 朝食を食べ終わった後、タッパを洗って早紀の母親に返却した勇樹は学校へ向かった。

 校門の前に到着すると、初老の男性が険しい顔で勇樹を出迎えた。

 勇樹は姿勢を正して深々と頭を下げた。


「これは新井田先生、おはようございます。今日って服装チェックの日でしたっけ?」


「いいや、私はお前を待っていたんだよ。如月、お前が学校へ余計な物を持って来ていないかチェックする為にな!」


 新井田教師はにこやかに近づいて勇樹の肩に手を置いた瞬間、腕を逃がさぬようにガッチリ掴み、不敵な笑みを浮かべた。

 突然の出来事に反応できない勇樹に対して、新井田教師は勇樹を校門の端まで引っ張り込むと、何故か置かれている机の前に立たせた。


「さっさと鞄をこっちに渡して上着も脱ぐんだ!」


「ま、待ってください。何でそこまでされなくちゃいけないんですか!?」


「ほう? では、お前には心当たりがないと?」


「はい!」


 新井田教師の腕を振り払いながら自信満々に返事を返した瞬間、激しく動いたせいで勇樹の制服の袖から袋詰めのかんしゃく玉がポロリと落ちる。

 勇樹はそれを拾うと、胸ポケットにしまって何事も無かったかのように新井田教師の方を向いた。


「僕にはこんな事までされる覚えはありません!」


「シャツとズボンも脱げ。身体検査が終わるまではジャージすら許さん」


「なんで!?」


 心底心外そうな勇樹の悲鳴を無視すると、新井田教師は勇樹への身体検査を念入りに始める。

 登校してきた生徒は、一人だけ持ち物検査を受けている勇樹を見て、怪訝な顔で通り過ぎて行く。


 勇樹から巻き上げた鞄や制服を漁り始めると、ゲームやマンガに飽きたらず先ほどのかんしゃく玉やベイゴマ、カードゲームや銀玉鉄砲などの玩具が次から次へと飛び出した。

 大よそ勉強に関係ない物に加え、それらを入れる為に強引に押し込まれた教科書やノートがシワシワになっているのを見て、新井田教師は溜息を吐く。


「はぁ、ゲームにマンガに玩具……よくこれだけの物を持ち込んだな。それにノートや教科書が皺だらけじゃないか」


「あの、何で僕だけ持ち物検査を受けてるんでしょう? マンガの持ち込みくらいだったら、他の人だってやってるじゃないですか」


 無関係な顔で通り過ぎて行く同級生などを見ながら勇樹が問いかけると、新井田教師は手を止めて深く溜息を吐いた。


「それはな……お前が先日ロープを使って窓から飛び降りたり、校内をローラースケートで走り回ったりしたからだろっ!」


「それについては校長室に呼ばれて散々叱られましたし、反省文だって書いたじゃないですか」


「それでも反省が見られないから、こうして私が持ち物チェックをしているんだ! 毎回毎回問題ばかり起こしおって、しかも反省文の内容が『自分の教室から下駄箱までの最短ルートを目指したかった。これらの手段では道具の回収に時間が掛かるので反省している』だと? 誰が手段の反省をしろと言った!」


「あ、その点は大丈夫です。結局、奇を衒わずに玄関まで向かった方が早いという結論に至りましたので、あのような事は2度としませんよ……多分」


「そこが反省していないと言っているんだ!」


 全く反省の見られない勇樹を怒鳴ると、丁度朝のチャイムが鳴り始めた。

 それを聞いて時計を見た勇樹は慌てて制服を着ると、まだ調べられている最中の鞄を手に取って走り出した。


「あ、おい! まだ持ち物検査は終わっていないぞ!」


「すみません! その件についてはまた後日でお願いします!」


 後ろで拳を振り上げて怒鳴り上げる新井田教師から逃げるように、勇樹は校舎の中へ入って行った。




 勇樹はクラス内では悪い意味での有名人だった。

 何せ口を開けばファンタジーな事ばかり、授業中に当てられれば回答に絡めたファンタジー知識を披露し、少しでも話題を振られると饒舌に語り出すのである。


 そして今日も今日とて昼休みの雑談中、数少ない友人たちの何気ない会話で勇樹はヒートアップしていた。


「つまり! 東洋では龍は神聖な物として扱われているけど、西洋では邪悪で強大な物への暗喩であり、それは度々悪い権力者の例えとして使われて来たんだよ! 特に西洋ドラゴンの習性として財宝の収集や女性の生贄を要求するというのは、税で取られた資財や連れて行かれた娘たちを意味していて、それを退治した英雄譚とはどちらかと言えば日本の時代劇的な勧善懲悪要素含んでいるワケ! しかし、ゲームなどに登場するようになるとドラゴン=竜という扱いが多くなって云々……」


「お、おう、もうそのくらいで良いよ。良く分かったから」


 それ以上語らせると長くなると感じた友人Aが勇樹の話を中断させた。

 まだ話し足りない勇樹は、物足りなそう表情で首を傾げる。


「え、そう? ここからドラゴンや竜が時の権力者にどう扱われていたとか、各地域でどういうドラゴンが作られたかとか色々話せるけど」


「いや、うん、そこまで行くと授業みたいになっちゃうから遠慮しておくわ。というか、それだけ色々知ってるのに何で学校のテストじゃ中の下辺りなんだよ」


「はっはっはっ、知識の量と頭の良さは比例しないし、そもそも僕の知ってる知識は学校の勉強じゃ何の役にも立たないからね!」


 勇樹は自信満々に胸を張ってそう言い切った。

 すると友人Bが呆れたように勇樹を箸で指す。


「というかさ、何でゲームのモンスターの倒し方の話からドラゴンの伝説云々の話になるワケ?」


「それは勿論、そういうゲームキャラは得てして伝承などを元ネタにしているから、知っておいて損はないという話ですヨ?」


「なんで思いっきり棒読みなんだよ」


 勇樹は好きな物は魔法や空想動物が登場するファンタジーであると公言していて、友人たちも時々起る病気みたいな物だと諦めていた。




 ――キーンコーンカーンコーン


「きりーつ、礼っ!」


「「「さようならー!」」」


 ウェストミンスターの鐘が鳴ったのを合図に、別れの挨拶の号令が掛かると生徒たちが一斉に席を立ち上がり、椅子を引きずる音が学校中に響き渡る。

 学校という束縛から放たれた生徒たちは、タガが外れて弾け飛んだように動き出す。

 その中で一際勢いよく教室から飛び出した生徒がいた。


「あ、如月! 教室と廊下は走るな!」


「それについては後日、改めて聞きます!」


 教師の制止する声を無視して勇樹は廊下を駆け出す。

 勇樹が飛び出した直後に、他の教室からも生徒が廊下にゾロゾロと流れ出て、廊下はあっという間に生徒で溢れる。


 友達同士で集まりどこへ遊びに行こうかと予定を立てる者たちや、部室へ向かう者や図書室で居残ろうとする者たち……そして、道草を食みながら帰宅しようと下駄箱へ向かう帰宅部たち。


 次々と押し寄せる人波に出来た隙間を、勇樹は器用にすり抜けながら一階の下駄箱を目指して駆け抜ける。


「(今日は予約してた新刊の発売日だからね! 早く買って帰ってじっくり読まなきゃ!)」


 階段の手すりに腰かけ滑りながら降りると、そのまま玄関まで駆け抜ける。


 既に勇樹の頭の中には帰宅までのルートが出来上がっており、流れる様に下駄箱から靴を放り投げる様に置き、代わりに上履きを突っ込むと、履くのも億劫と言わんばかりに靴の踵を潰したまま学校を飛び出す。

 まだフライングで校舎を出た生徒しかいない校門を駆け抜けながら、一月も前から予約していた新刊を購入すべく、通学路の途中にある本屋を目指した。




 勇樹の通う通学路は学校と最寄り駅との間が大きく弓形(ゆみなり)に湾曲している。

 大概の生徒は大通りを通って通学してくるのだが、高校と駅の間には幾つかの小道が存在していて、駅周辺にある学生御用達の娯楽スポットへの近道となっていた。


 ただし、その道は道幅が狭く人気も少ないので危ないという事もあり、校則では通行を禁止されていて、週に一度の朝礼でも毎回注意されていた。

 だが、それでも大通りを通るよりも10分近く短縮できるので、勇樹に限らず放課後に遊びに行く生徒たちは密かに利用していた。


 目的地へ最短距離で向かう為に、勇樹は人気のない通学路から少し外れた脇道に入る。

 通り慣れた小道を通り抜け、小さな階段を飛び越え、小さな公園を横切ると車のエンジン音が聞こえてくると共に目的の本屋が通りの向こうに見えきた。


 勇樹は最後のスパートを掛けようと足に力を篭めた瞬間――突然、水の中へ飛び込んだように体が重くなった。


 空気が纏わりつくように重たくなり、一歩一歩と進める毎に足を泥に突っ込んでいるかのような抵抗感と、空気が薄くなったかのように肺が苦しくなる。

 加えて、何故かここから一刻も離れ立ち去らければならないような危機感にも似た強迫観念に襲われ、額から冷や汗が止め処なく流れた。


 不可思議な出来事の連続に慌てて周囲を見回すと、普段なら生活道路にしている住人などが何人か歩いている筈が、今は自分と前を歩いている他校の生徒以外は、一人もこの道に入って来ていない事に気付く。

 それと同時に、頭の中で何かがこれ以上先へ進む事は危険だと猛烈に訴え始める。


 足を止めて引き返して、一刻も早くここから離れたい――まるで虫の知らせのような予感が強く、まるで警報のように勇樹の頭の中で鳴り響いた……が。


「でも……今日は半年も前から待ちに待った本の発売日なんだ! ここで引き返して……遠回りなんかできるかっ!!」


 高熱に浮かされたかのような頭痛と、ガンガンと頭の中で鳴り響く警告を振り払うように、力の抜けるような宣言を叫びながら気合いを入れ直して、走るスピードを上げた。


 ……が、そんなフラフラな状態で真っ直ぐ走れる筈もなく、目の前の生徒を脇から追い抜こうとした瞬間、酸欠気味でボーっとしていた勇樹はふら付いた拍子に小石に(つまづ)き、目の前の生徒を巻き込んで盛大にズッコケた。


 「倒れる!」と思った瞬間、彼らの前に幾何学模様の円陣が立ち塞がる様に現れ、反応する前に2人はその陣に飲み込まれ、この世界から消え去った。


 最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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