#57 おぞましき味の世界 2
「いーや、食べる! スパイスの調合は変わらないのだから、食べれば同じ効果が得られるのだ!」
自らを鼓舞するように力強く言い切ると、カレーをなるべく鍋の底のほうからすくい上げる。
そのとき。
バラバラバラバラ。
ナンの頭上に何かが降り注ぐ。
「庭で騒いでんじゃねえ!!」
どうやら大声でわめいたり闘ったりしてたせいで、お隣さんがぶちキレた模様。
それだけならよくあるご近所トラブルなんだけど、幸か不幸か隣は昆虫を使った呪術の研究所。
ばらまかれたのも当然昆虫。
しかもまだ生きてる。
「……」
「……」
「……」
容赦なく鍋に混入した虫たちを目の当たりにして、沈黙する一同。
ミミズだってオケラだってアメンボだって、みんなみんな生きているんだ鍋の中。
「お願いだからやめてくれ、もう黄魔術が最強ってことでいいから!」
隣の研究所に配慮して、若干声を抑えつつ凶が叫ぶ。
その声に一瞬ナンの目が泳ぐけど、すぐに何かを決意したような、悲痛な表情へと戻る。
「踊れマハラジャ……!」
搾り出すように叫びながら、ナンはおしること生きた虫の混入したカレーを鍋からすくい上げて、口に含む。
「……」
しかし次の瞬間に出てきたのは炎じゃなくて。
「うぇろろろろろろろろ」
「いやー!!」
最後まで鍋を手放すことなく、ナンはその場に昏倒する。
これは57部分目にして敵役がゲロを吐くような、とても残念な凶の日常。




