プロローグ2
僕がこんなことになったのを説明するにはこの世界について話さないといけないだろう。
人類は一つの大いなる敵と戦っていた。その名は魔族。人間よりも耐久力、魔力、体力、何もかもが上の種族だった。昔は人類、魔族、共に生き、笑い、死んでいくそんな仲のいい時代が存在していた。だが、そんな時代は魔族から魔王と呼ばれる存在が生まれたことにより崩壊してしまった。
魔王は自分たちよりも下等な生き物と肩を並べ生きることに不満を持っていた。そしてある日、魔王は宣言したのだ。「我々より下等の生物など駆逐してくれる」と…
そこからは人類と魔族との全面戦争となった。最初のうちは戦争反対派の魔族により、拮抗状態だったが魔王が反対派を抑え込んでからは人類側が劣勢となっていった。人類は徐々に大陸の端に追いやられていった。だが、人類も黙ってやられているわけではなかった。人類の武器である知恵を最大限に使い、様々な物を研究してきた。そしてついに魔族に対抗するための力を発見した。それは"精霊"という存在だった。
人類は精霊と契約して"精霊魂"と言われる武器を手に入れた。それは武器だけにとどまらず様々な形で現れある者は財布、またある者は剣の鞘といろいろとあった。その中で剣、刀、槍、杖、弓、斧、棍棒、鉄扇等の武器は特に強力であった。人類はこの精霊魂を使い魔族を押し返していった。やがて魔族を完全に追い詰め、この大陸とは違う別の島へと追い出してしまった。それからは魔族からの攻撃はなく平和な時が続いている。
これが世界最大と言われた魔界大戦という戦争の結末だ。だけど人類はこの戦争に勝利した後、愚かにも自らの領地を広げるべく争いを始めた。この戦争では精霊魂の武器ごとに陣営が分かれて争った。最終的には完全な決着がつくことはなく停戦協定が結ばれ平和が訪れた。協定が結ばれてからは色んな人が集まり仲良く国が作られることとなった。僕が生まれたこの国はそのうちの一つマリル王国と呼ばれている。僕が生まれた家は戦争で活躍した名のある家系だった。だから上位精霊と契約できるように幼いころから英才教育を施され僕も両親の期待に応えるために必死に頑張っていた。
だけど5歳になったあの日が僕の運命を変えることになった。本来なら10歳で精霊召喚を行うのが普通だけど僕の家には自前の召喚台があったため少し早く5歳で精霊を召喚することになった。もし、使えない精霊が来たとしても契約を破棄して再び召喚させようという魂胆が父にはあったのだろう。だけど、僕はそんな大人の考えなんてまだわからなかったから言われるままに召喚を行った。
「この世に存在する奇跡なる光よ。僕の呼びかけに答えその姿を現せ」
すると空間が歪み光が集まり始めた。大きさは小さかったからもしかしたら妖精かなと思いながら顕現するのを待った。そして現れたのは小さくて真っ白な妖精だった。僕の手の平より少しだけ大きいかなというサイズに髪の毛は腰まで長くて軽くウェーブが掛かっていた。服は布地が少ないドレスみたいな恰好だった。羽は2枚しかなく長く浮いてられないみたいでゆっくりと落ちてきたのを僕が両手で受け止めてあげた。そして妖精の子も目を開いて僕と目が合った。瞳はアメジストみたいでとても奇麗だった。
「え、えと、は、はじめまして」
「初めまして僕の名前はユウマです。えと、精霊召喚で呼んだんだけど君の名前と魂は何かな?」
「あの…なまえないです。そうるもありません。その…うまれたばかりなので」
「あ、そうなんだ。生まれたばかりじゃ仕方ないね」
「そ、その! わたしがんばります! だからけいやくして…ほしいです」
最後は消え入りそうな声で呟いたけど僕にはばっちりと聞こえていた。生まれたばかりなのに頑張り屋さんだな。頑張るアピールで両手を上げて万歳をしているその様子に微笑ましく思いながら考える。僕のお母さんは弟を生んだ後、体が弱かったため死んでしまったけど。死んでしまう前に色々と僕に精霊について教えてくれていた。その時に一番印象に残っている言葉を僕は思い出していた。
「ユウマ…精霊というのは階級ですべてが決まるわけじゃないのよ。精霊も私達と同じように生きているの。例え弱いと言われても自分だけは大切にして愛してあげれば必ず精霊も答えてくれるわ。だから、ユウマはこの子と契約したいと思ったなら周りの大人なんて気にせずにその子を大切にしてあげてね」
そういってベッドで笑っていたのを思い出した。確かにお母さんの精霊はとても幸せそうだった。そして精霊もお母さんをとても大切にしていたのを覚えている。お互いに信頼しあって笑っているのを僕はすごく羨ましいと思った。だから僕も一番最初に契約する子は誰が来たとしても大切にしようと決めていた。
僕が黙っているのが気になっているみたいで妖精がソワソワし始めていた。ちゃんと返事をしてあげないといけないな。
「僕でよければ契約していただけませんか?」
断られると思っていたのだろう。目を見開いてびっくりしていた。
「いいの?」
「いいよ」
「だ、だってわたしそうるもなまえもないよ。にんげんさんでいうやくたたずだよ」
「そんなの関係ない。僕は最初の子は絶対に大切にするって決めてたんだ」
「じゃ、じゃあ」
「うん、契約してくれると嬉しいな」
「ありがとう」
その笑顔はとても可愛くて魅力的だった。思わず見とれてしまって妖精が首をかしげて「どうしたの?」と聞いてくるまで僕は惚けてしまった。そして契約しようとしたら急に空間が歪み始めてさっきよりも大きな光が大量に集まっていた。ってまさか召喚に応じてくれたのは2人だったのか。
次の瞬間、強力な精霊結界が周りに張られた。これは上級精霊が現れるときに張られるものだ。ってことは来てくれるのは最低でも上級以上ってことなのかな。そして現れたのはとても美しい女性だった。一言では言い表せないくらいの完璧な美。ただ目の前にいるだけで感じる圧倒的な魔力。着ているドレスもかなり豪華で金髪も神々しい光を放っていた。格が違う…僕らは黙って精霊からの言葉を待っていた。そして精霊が目を開き僕を見て急に睨んできた。
「お前が私を召喚したのか」
「あ、はい」
僕の手元を見てさらに不機嫌そうな顔をして苛立ちを隠さず投げやりに言ってきた。
「また貴様たち人間は妖精を殺すのか。もう許せん! 我はお前とは契約しないぞ」
「いや、できればしないでくれると嬉しいのですが、流石に僕も二人同時に契約するのはきついです」
「は? お主まさか妖精と契約するのか?」
「悪いですか?」
「いや、悪くはないが…我は帝王級精霊で魂は"銃"じゃぞ? 本当に契約しないのか?」
ーーー帝王級。この世界で最強格の精霊だ。精霊の階級は次の通りになっている。
・帝王級
・王級
・最上級
・上級
・中級
・下級
・妖精
妖精は階級に入っていないため表記されていないことが多いけど精霊の階級はこんな感じだ。帝王級は魔界大戦で活躍した精霊たちだ。つまり僕の目の前に生ける伝説がいるということ契約できればエリートコースまっしぐらってことだね。
しかも魂は"銃"僕は見たことないけど魔界大戦ではいや、精霊魂では最強と言われている武器だ。あの魔王を倒したのも銃だと言われている。だけど戦争が終わった後、人間たちの醜い争いに呆れ果てて生き残った、たった一人しかいない帝王級の銃精霊と使い手はどこか人が来ないところに隠居しているとの噂だった。ということはつまり新しい帝王級の銃精霊が召喚に応じてくれたってことか。すごく魅力的だけど…
ふと気になって手元を見ると妖精の子が不安そうにこっちを見つめていた。だけど何だか諦めている雰囲気も感じられる。そうだよな。目の前に自分よりも最高の精霊がいるのだからどっちを取るかなんて明白だよね。よし、僕の答えはすでに決まっている。
「契約しません」
「「え?」」
意外過ぎる言葉だったのだろう。二人とも同時に驚いていた。
「僕には帝王級と契約できるだけの魔力量はありません。それに自分の身に合わない力はいりません」
あっけとにとられていたが再起動したみたいで魅力的な提案をしてきた。
「魔力量が足りないなら仮契約を結んで契約できるようになったら真契約を結べばいいだろう。それくらいなら待ってやらんでもないぞ」
そう言って口元に手をやり、いやらしい笑みを浮かべながらこちらを試すような目を向けてくる。
「いや、別にいいですってば。それに知ってますよ。生まれたばかりの妖精は契約の場に来て契約できなければ精霊界に帰ることができずに消えてしまうってこと。僕はこの子を消えさせたくない。だからあなたとは契約できない」
「っははははは! 初めてだお主みたいなやつは! 我も格を落としてこっそりとこの世界を見に来ていたがどいつもこいつも格が高い者にしか興味がないという態度だったぞ。気に入った。今回はその子に譲るとしよう。次に召喚するときはわらわが直々に契約に応じてやろうではないか」
「むー! ユウマはわたさないよ!」
そう言って手の中でプリプリと怒っている妖精さん。ああ、そうだ名前もあげないといけないな。
「とりあえず、先に契約を結ぼうか」
「うん!」
「我、汝と永遠の誓いを結ぶ」
「われ、けいやくにおうじすべてをささげる」
これで契約が完了した。仮契約じゃなくて真契約を結んだ。
「真契約とは本気のようじゃな。では、結界を解除しよう。器を貰ってくるといい。わらわも帰ろう」
「契約できず、すみませんでした」
「気にするでない。成長して契約できるのを楽しみしておるぞ。その子の成長もな」
「まけないー!」
和むような話をしていると急に結界を無理矢理破ってきた人たちがいた。というか僕の父だ。
「ええい! なぜそのような役立たずと契約した! 今すぐに破棄しろ!」
「嫌だよ! 僕のパートナーは自分で決める」
「我儘を言うんじゃない! 帝王級だぞ。契約できればガレイド家はさらなる発展を約束されるのだ! 家のためになることが貴様の義務なのだぞ」
銃精霊と僕と妖精は呆れた目で力に固執した大人を見ていた。
「帝王級の精霊たちが姿を消した理由が分かった気がする」
「概ね、お主が想像した内容であっておるよ」
「さいてー」
「なんだその目は! わしに逆らう気か!」
「何回言われても僕は考えを曲げる気はないよ」
「そうか…ならお前は必要ない」
そういうと手を振り下ろしたタイミングでお父さんの後ろから魔法が飛んできた。
「え?」
「なにっ!? シールド!」
とっさに銃精霊に魔法を防いでもらわなかったら僕は重傷を負っていた。それくらいの威力が込められた魔法だった。
「お主ら…本当に親か! 今のは殺す気であっただろう!」
「役立たずはわしの子供ではない。必要のないものは処分するのがわしの流儀だ」
「貴様…!」
次の瞬間、周りに強力な光が発生した。全員光のせいで視界が奪われているみたいだ。というかなんで僕だけ平気なんだ?
「いけ! 補助魔法をかけてやるからここから逃げろ! こ奴ら本気でお主を殺すつもりじゃ!」
「……ありがとうございます」
「ありがとう」
迷いそうになったがさっきの魔法が全てを物語っている…だから、迷っている暇はない。僕は窓から飛び出して森に逃げ込んだ。これが僕が森の中を逃げ回る原因になった出来事だった。
「邪魔をするな!」
「ふっ…弱いのぉ。そんな態度だからお主は精霊に見捨てられるんじゃよ」
「ばっバカにしおって!! あのような役立たずわしから捨ててやったのだ!」
「あっはっは、好きなだけわめくとよい。我もこれで失礼しようかの」
そういうと周りに結界を構築してから帝王級の銃精霊は消えていった。
「おのれぇ! どいつもこいつもわしをバカにしおって!」