美少女の願いは断れない
講義も終わり家に帰る支度をしているが、なにやら大学内が騒がしい。
鞄を持ち大学内を入口に向かい歩いているが入口に近づくにつれ人が増え騒がしさは増していく。
『なにあの子、めっちゃ可愛いんだけど!』
周りからは誰かを可愛いと言う声が多く聞こえ、それは入口までまであと少しという場所まで続いた。
しかし入り口では、先ほどとは違い人だかりは多いものの静寂に包まれている。
周囲にいる人たちはある一点、入口の門に一人で立つ少女に向けられている。
少女は周りに注目されてるのも気にせずただただまっすぐ綺麗な姿勢で門の端に立っている。
「あっお兄さん!」
その言葉に周囲にいる人達はお兄さんと声をかけられた者を視線を忙しなく動かし探している。
あわよくばお兄さんと呼ばれた者に少女を紹介してもらいたいのだろう。
しかし、自分にあのような可愛い少女の知り合いはいない。少女がお兄さんと呼んだのが自分じゃないのはわかっているため人の隙間を縫うように門から敷地外へ出ようとするが、目の前に現れた少女の存在で門から出ることはできなくなってしまった。
「お兄さん、なんで呼んだのに無視して帰ろうとしてるんですか」
この少女は誰に話しかけているのだろうか、俺に話かけていないのはわかってるが少女がこちらを見ているような気がしてならない。
だがここで自分に話しかけられたと思って返事をして結局自分じゃなかった時の恥ずかしさを俺は知っている。
だからここは勘違いせず少女の横を通り抜けていつものように家に帰るのが正解だ。
そう思い少女の横を通り抜けようと動いた瞬間、、少女の手が俺の腕を掴み止められてしまう。
「お兄さん、なんで帰ろうとするんですか? もしかして迷惑でしたか?」
迷惑も何も俺はこんな可愛い女の子の知り合いはいないし、なぜ声をかけられ腕を掴まれて止められているのかも理解ができない。
「あっもしかして私が誰かわかってませんか? 私は朝に藁人形をもってお兄さんの目の前で転んだ名前は坂下朱音です!」
朝に藁人形をもって俺の目の前で転んだ子は確かに可愛い子だったが、今目の前にいる少女のように周囲の人が騒ぐほどのレベルの違う可愛い子ではなかった。
しかしよく聞いてみると目の前にいる少女と、朝話した少女の声はよく似ている。
本当に目の前にいる少女が朝に出会った少女なら朝であった少女と目の前にいる少女は可愛いのは一緒だが明らかにレベルが違いすぎる。同一人物と言われても信じないだろう。
「お兄さん? まだ信じられませんか?」
「ほっ本当に君が朝の子だったとして、こっここに来た理由は・・・?」
「朝、お兄さんに捕まった人がいると教えてもらわなければ私も捕まってたかもしれませんし、お兄さんが良ければいろいろ私の知らないことを教えてもらえないかなと思いまして」
そう言い上目使いでこちらを見てくる。そんなことを地味な俺にしてくるものだから周囲の特に男子からの鋭い視線が俺に向いている。
「お兄さん・・・お願いします、私に手取り足取り教えてください・・・」
自分の影響力をわかっててやっているのか、そんな風には感じないが、うるっとした瞳で俺を見つめ、
ほんのり赤く染まった頬、首をこてんっと傾げながらお願いするその姿に周囲の者は見惚れるように少女に視線を向けている。
かくいう俺も少女に見惚れてしまい頬を赤く染めてしまう。
「お兄さん・・・・」
「言いたいことはあるけど、とりあえずこの場から移動させてください。本当にお願いします・・・」
年下の少女に頭を下げて本気でお願いする姿は周りから見れば滑稽かもしれないが、今はそうしてでも場所を変えたかったのだ。
自分に集中した人を殺せるほどの殺気のこもった視線、その視線から逃れることが現時点での俺の中で優先することだったのだから。