藁人形を持った少女
同居を始めて一週間、最初は緊張もしていたが一週間も経つと慣れてしまった自分がいる。
初日など違う部屋に居るというのに、同じ家に幽霊とはいえ女の子がいるそんな風に考えるだけで、眠いのに朝まで眠れず、そのままリビングに出て幽子に心配されてしまった。
眠れなかったのも最初の三日ほどで次第に緊張も解れ眠れるようになった。
しかし問題もこの一週間で二つほど出てきたのだ。
『あはは、そうなんですよ! 生きてる人と同居なんて不思議ですよね』
『うむ、普通は同じ家にいても気づかれぬからな。 おっ邪魔しておるぞ十七女殿』
一つ目の問題、それは幽子の幽霊友達が毎日のようにやってくること。
二つ目の問題、幽子と同居を始めてから幽子以外の幽霊が見えるようになったことだ。
今目の前にいる薄紫の着物を着た目つきの鋭い女性も最初は見えていなかった。
幽子が何もいない場所に向かい話していたのが切っ掛けに、徐々にその姿が見え始め完全に目つきの鋭い着物を着た女性が見えるようになったころには大学や外でもそこらに漂っている幽霊が見えるようになっていた。
『となめ君は毎日起きるの遅いですね』
『そうなのか? 私はいつも来る時間が違うから知らなかったがそうだったのか。 して十七女殿よ早起きは三文の得という言葉があってだな、早起きしたものにはごくわずかだが得があるのだよ。 早起きすれば健康にもいいし仕事や勉学もはかどる。』
『そうですよ。 たった三文かもしれませんが得には変わりませんからとなめ君も明日から私と同じ時間に起きましょう』
そんなことを言うが、毎日夜中までテレビを見るのに付き合わせているいる幽子がそんなことは言えないと思うのだ。
それに幽子はどんなに遅く寝ても朝方の四時には起きて何かしら動いているのだ、朝にやっているラジオ体操の番組を見ながら一緒にやったり、鏡の前で変な踊りをしていたりと、とにかくそんな生活に合わせているとこちらの体がもたない。
「俺は俺の生活リズムで生活するから断る! それに遅いって言っても今の時間まだ朝の八時だぞ、十分早起きの部類だよ」
『もう八時ですよ? さくらちゃんなんて五時から遊びに来てくれたのに』
『うむ、今日はいろいろ話したいことがあった起きるたすぐに来たのだ』
幽霊の朝は早いのが分かった俺はこちらに興味を失ったように話し始める二人を放置して大学に行く準備を始める。
***
「それじゃあ俺大学に行くから。 留守番よろしく」
『お勉強頑張ってくださいね!』
『寺子屋で問題を起こさないようにな!』
寺子屋ってさくらさんいつの時代の人なんだ、それに問題など起こすはずがない。
友達もいなければ彼女もいない、大学でもぼっちの俺がどう問題を起こすのか逆に聞きたい。
家の中から手を振る二人に手を振り返し大学へと向かう。
俺の通っている大学は家から五分の距離にある。だからなのか大学に向かう道には同じ方向に歩いている人が多い。
女の子同士で話しながら歩いている人、いわゆるパリピと呼ばれる人の集団、俺みたいに一人の人。
いろんな人がいる中で、異常に浮いた人もいる。右手に藁人形、左手に木のトンカチ、そして白装束。
今から藁人形で呪いに行くのか、ほかの人も異常な女性を避けて歩き女性のいる周辺だけ変な空気で包まれている。
だからこそ俺も避けながら追い抜こうとした、しかし追い抜く直前、白装束の女性が裾を自分で踏んでその場に転んでしまった。
そのまま追い抜いて知らないふりをすればよかったのかもしれない。しかしそんなことが出来るわけもなく、倒れている女性に持ってきていたハンカチを渡しながらしゃがんで話しかける。
「大丈夫ですか・・・?」
「えっ? あっ大丈夫です! 怪我もないです!」
勢いよく立ち上がった女性、いや少女と呼んだ方がいいのかもしれない。
先ほどまで後ろからしか見えていなっかたからわからなかったが、とても可愛らしい顔をしている。
大きな瞳に、少し茶色の髪を肩の辺りで整え、人懐っこい笑顔をこちらに向けている。
「ほっぺた汚れてるからこれ使ってください。 それにしてもその恰好は・・・」
「ありがとうございます! これはですね・・・」
急に真剣な表情になった少女は持っている藁人形をぎゅっと握り一息つくと口を開く。
「これは・・・趣味です! 私学校でオカルト研究会に入ってるんですけど、昨日呪いの藁人形のことを調べたら。。どうしてもやってみたくなっちゃって」
えへへ、と笑う少女を見て誰か少し呆れながら簡単に実践しようとしている少女に恐怖も感じてしまう。
「呪いの藁人形の儀式やって捕まった人いるから、やりたくなったからって簡単に実行したらだめだよ」
「捕まった!? うぅ・・・ごめんなさい・・・」
そんなに悪い子じゃないようだ、説明してあげると捕まった人がいる事実に驚き、自分がしようとしていたことを反省もしている。
「じゃあ今後気を付けて人に迷惑かけないように、自分の好きなことを楽しんでんね」
そう声をかけ、大学への道を歩き始める。
そうは言っても家から大学まで徒歩五分、もう目の前が大学の入口だ。
大学の敷地内に入るまで少女は先ほどの位置から動かずこちらを見ていたが、もうすぐ講義が始まる時間、少し少女の事が気になりながらも戻ることはしなかった。
忙しくて投稿できませんでした・・・