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銃と魔法と臆病な賞金首2  作者: 雪方麻耶
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息抜きは必要だよ

 リムは両手を胸の前に掲げ、宙を囲うように翳していた。両手の間隔は肩幅よりやや狭いくらい。見えないバレーボールを持っているような感じだ。

 その中心部からぽっと柔らかい光が発生したかと思うと、徐々に光の輪が広がった。目を凝らしてよく見ると、光の粒一つ一つが複雑な模様を有しており、互いに戯れるように回転を始めた。回転は加速し、渦の様相を呈し、螺旋の先端が集約され薬莢に収まっていく。収まった薬莢の口から溢れた光は散らばる事なく固定され、全ての光が集まり終わった時には、弾丸を形成していた。


「すごいな。魔法の弾丸ってそうやって作るのか」


 突然、背後から声がしたので、リムは思わず身構えながら振り返った。


「な、なんだよ」


 光来は、リムの瞠目に戸惑った。


「いきなり背後に立たないでよ。驚くじゃない」

「なんか集中してるみたいだったから、声を掛けられなかったんだよ」


 リムは魔法を精製するのが好きではなかった。正確に言えば、魔法を精製する為に、意識を集中し、周囲の気配を察せない時間が嫌いだった。目を覚ましている間、いや、眠っているときだって、神経を鋭敏に張り巡らせ、微かな動きも察知する自信があるが、魔法精製の時だけは、隙だらけになる。


「その魔法と言うか魔力? どこから引き出してるんだ?」

「あなたには分かりづらいでしょうけど、私達の周りに常に彼の者が存在する。魔力を抽出する言霊『アリア』を介して接触すれば、少しだけ力を分け与えてくれるの」

「カノモノ? ああ、彼の者か。彼の者ってなんなんだ?」

「彼の者は彼の者よ。ルーザに記されているけど、この世に人が生まれた時から共に存在し、人々に恩恵を与えてきた」


 光来は宗教じみた話は苦手だった。信仰するのはその人の勝手だが、どうしても無理やり勧誘する者たちが居る不気味な集団という心象が付いて回る。

 不確かなのに絶対的な存在。神様みたいなもんか……?

 リムが大きく伸びをするのを見て、かなりの集中力が必要な作業という事が察せられた。


「邪魔しちゃったかな」

「これで終わりにしようと思ってたの。肩が凝った。ねえ、あの音が鳴るカラクリ貸してくれない?」


 音が鳴るカラクリ。スマホの事だ。何度もスマホと言っているのに、リムはカラクリと呼ぶ。


「それが、こいつは電気がないと動かなくなるんだ。まだ少し残ってるけど」

「電気? それ、電気で動いてるんだ?」

「ああ、この中に電気が溜めてあって、使い切ると動かなくなる」

「ふーん……ちょっと貸してみて」

「まだ使えるけど、あんまり使い過ぎると今日中にも残量ゼロになるよ」

「いいから」


 リムは、光来の手から半ば強引にもぎ取った。

 スマホに手を翳すと、先程と同じようにアリアを詠唱し始めた。再び光の奔流が発生し、スマホに吸い込まれていく。タッチスクリーン右上の電池残量表示が見る見る満たされていった。

 光来は思わず身を乗り出した。


「おお、すごいっ」

「これで、好きなだけ音楽が聴けるわね」


 音楽だけではない。通話とネットこそ出来ないものの、便利なアプリがいくつも入っているのだ。諦めかけていただけに、嬉しい誤算だった。


「耳栓も貸して」

「ああ」


 リムの言う耳栓とは、イヤホンの事だ。音楽で思い出した。収穫祭のこの時期、今夜は街の中心でイベントが行われると言っていた。

 リムにイヤホンを渡しながら、光来はワイズから聞いた話をした。しかし、リムの返事はにべもなかった。


「ワタシには関係ない」

「なんでさ? 楽しそうじゃん。行ってみようよ」

「行かない。そんな事に時間を割いてる余裕なんかないもの」


 リムの頑なな態度に、先程の思いが再び脳裏を過ぎった。

 自分の青春を犠牲にして……

 なにかを追い求め、他人が遊んでいる間に努力している者は確かに居る。しかし、リムが追っているものは、あまりにも歪んでいた。光来は自分の事でもないのに、思わず胸が締め付けられた。


「そんな事言わないで。行こうよ」

「しつこい。あなただって、遊んでる場合じゃないでしょ」

「息抜きは必要だよ。銃にだってメンテナンスは必要だろ?」

「ワタシは銃じゃない。それに、あなたには魔法の訓練をしてもらおうと思ってたの。この前の夜は運が良かったから逃げ切れただけ。今のままじゃ、今度は確実にやられるわ」


 誘えば誘うほど、リムは態度を硬化させ言葉もきつくなっていった。売り言葉に買い言葉ではないが、こうなったら光来も意地になってくる。


「訓練か。いいね。やろうじゃないか。その代わり、訓練が終わったら祭りに行くんだぜ」

「なんでそうなるのよ」

「じゃあ、やらない」


 光来の子供じみた挑発に毒気を抜かれたのか、リムの目から険が薄らいだ。


「いいわよ。そんなに言うなら、冷やかし程度に付き合ってあげる」

「じゃあ、早くやろう。先に外で待ってる」


 光来はにかっと笑うと、さっさと部屋を出ていってしまった。列車での逃走時にも感じた事だが、彼の性格には二面性がある。おどおどしているかと思うと、時折、大胆で強引な態度に出る。


「なんなの?」


 光来の後を追うべく、リムは椅子から立ち上がった。

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