捕食者と被食者
狙っては照準を外す。進捗のない動作の繰り返しで、さすがに疲労が溜まっていった。
気晴らしに兎や栗鼠ではなく、一本の木の枝に撃ち込んでみた。ツェアシュテールングの魔法は従来の効果を発揮し、枝はバキンと砕け散り、その衝撃で一斉に葉が散った。
動物じゃなきゃ普通に撃てるんだよなあ。
意識してないつもりでも、奥底に死のイメージがこびり付いてるのか。リムに撃ち込んだ時に上手くいったのは偶然だったのか? だとしたら、奇跡的なタイミングで成功した事になる。今更ながら、冷や汗が出る思いが湧き出し、こめかみの辺りが引っ張られるような感覚が襲ってきた。
あまり詰め込み過ぎても空回りするだけだ。少し休憩して落ち着いてから続きをしようと思い、今撃ち込んだ木に背をもたれて地べたに座った。
「…………」
神経を使ったせいか、やけに疲労感があった。コーヒーでも飲んで一息つけば気分も変わるかなどと考えていたら、家の方から銃声が響いた。
突然の事だったので、思わず立ち上がってしまった。ワイズが試し撃ちでもしたのかと思ったが、直感がすぐにその考えを打ち消した。
あれは攻撃のために放たれた銃声だった。銃声を聞き分けられるわけではないが、これまでの経験から、間違いないという確信があった。撃ったのはワイズか? それとも……
家の方から何者かが姿を現した。光来は咄嗟に木の影に身を隠した。目を凝らして近づいてくる者の正体を確かめる。
「嘘だろっ?」
驚愕のあまり、声が出てしまった。
レンダー・ダートン! なんであいつがここに居るんだ? いや、それより、ワイズは無事なのか?
ダーダーは、まるで鼻の効く猟犬のように真っ直ぐ光来の方に歩を進め、近づいてきた。
光来は、信じられない思いで木の影から首を伸ばして覗き見たが、目と目が合ってしまった。視野が押し返される程の眼力に圧倒され、反射的に身を屈めてしまった。だが、その動作が良い方向に転がった。いきなり発砲したダーダーの弾丸は、光来のすぐ頭上の幹に直撃した。
着弾と同時にオレンジレッドの魔法陣が拡大、四散し、耳を劈く爆発音が襲った。爆ぜた幹の破片は物凄い勢いで頭上から降り注いだ。
「うわっ」
光来は両手で頭を庇って体を丸めた。爆発の魔法エクスプロジィオーンの威力は、着弾点から幹を真っ二つに割いてしまう程凄まじかった。
「居たな、キーラ」
残忍な笑みを浮かべながら、ダーダーは近づいてきた。完全に、自分が捕食者、獲物を狩る側だと信じて疑わない者の目だ。
光来はルシフェルを構えたが、引鉄に指を掛けると、漆黒の魔法陣が生じた。
「ちくしょうっ」
光来は脱兎の如く駆け出した。
ワイズが無事か確かめたいが、この状況ではそれもままならない。とにかく、今は逃げるのが先決だ。
背後で何発か銃声がしたが、振り返る余裕など、とてもなかった。
あいつがキーラか。そうだ。俺は昨日あいつに会っている。ぼんやりとだが覚えている。俺はキーラになにかをするよう命じたような気がするが、その実、俺が何者かにそうするよう命じられていたような……
俺はあいつになにをさせた? さっきチラリと見えた魔法陣。初めて見る型だった。なにやらぞわそわと不愉快な感覚が胸の辺りに広がるが……
ダーダーは鈍痛が抜けない左腕を抑えた。
くそっ、痛え。あのジジイ、馬鹿力出しやがって。怪我をするなんて想定していなかったから、治癒の魔法なんて持ち合わせていない。
もう、俺が脱獄したのが発覚して、追っ手が掛かっているに違いない。あまり時間は掛けられない。
キーラ。お前だけはここで潰す
腕を庇いながら斜面を歩くのはもどかしかったが、ダーダーは足を早めて光来を追った。




