男二人
レイアー家は、ラルゴの街外れにぽつんと建っている。人付き合いを避けたワイズが、敢えて選んだ場所だが、すぐ裏手が小高い山に通じる森となっており、周囲に木々の囁きが途切れる事はない。その為、閑散とした雰囲気というよりも、喧騒から解放された、それこそ疲れを癒やすのに訪れる慰安所のような立地と言える。
なんだか落ち着くな……
光来は、木漏れ日の光や時折可愛らしく鳴く鳥の会話を楽しみながら、掃除をしていた。
リムに置いてけぼりを喰らい、手持ち無沙汰になってしまった。なので、泊めてもらっている礼代わりに、家の前を掃除しようと思い付いたのだ。だが、それももうすぐ終わってしまいそうだ。
手にしているのは、竹箒。魔法という力が存在する世界で、こんな物を手にしていると、どうしても一つのシーンが脳裏を掠めてしまう。
「…………」
光来は、徐に箒にまたがり自由に空を飛び回る姿を想像した。
「お前さん、なにやっとんじゃ?」
「きゃーっ」
突然現れたワイズのツッコミに、女の子のような悲鳴を上げてしまった。
「箒の柄を股間なんぞに押し付けおって。変態か?」
「ちがっ、違います。これは俺の村に伝わるお約束で……」
「恥ずかしがらんでもいいわい。ワシもお前さんの頃にはおなごの事ばかり考えておった」
「いや、だから……」
「ところで」
ワイズは、光来に言い訳をする隙きも与えず、話題を変えた。
「シオンを見掛けなんだか?」
ワイズに黙って出掛けたのは、余計な心配を掛けたくないという配慮だろう。それくらいは光来にも分かった。だから、惚ける事にした。
「さあ、俺は見てませんけど……」
「出掛けてくると置き手紙があってな。心当たりないか?」
「さあ……」
「リムもおらんようだが?」
さすがにぎくりとしたが、ここまできたら、惚け切るしかない。
「女の子二人で出掛けたんなら、詮索するのは野暮ってもんです」
「…………」
「…………」
ワイズは、なにかに勘付いたように片方の眉を吊り上げた。しばらくの間、無言で目と目が合う。光来は、頬が引き攣るのを必死にこらえ、これ以上問い掛けてこないでくれと願った。
「……ふん。まあいい」
知らないにせよ、隠しているにせよ、これ以上は光来から引き出せないと踏んだのか、ワイズは意外とあっさり引き下がった。思わず、鼻から息が漏れる。
ワイズは玄関に引き返したが、途中で振り返りながら訊いてきた。
「コーヒーでも飲むか?」
「いえ、こいつの練習をしたいんで」
光来は、人差し指と親指を立てて、拳銃を撃つ真似をした。そして、まだルシフェルを返していない事を思い出した。
「あの、こいつ、もうちょっと貸しててもらっていいですか?」
腰を捻って、ホルスターに収まっているルシフェルを見せた。
「ああ、持っとればいい。朝食は二人が帰ってきてからにしよう」
ぶっきらぼうに言い捨てると、ワイズは家に入った。
二人きりになると、余計な事を言ってしまいそうだったので、咄嗟に銃の練習をすると言ってしまったが、一人残され、それも悪くないなと思った。
光来は箒を壁に立て掛け、先日リムと一緒に練習した空き地に足を向けた。




