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銃と魔法と臆病な賞金首2  作者: 雪方麻耶
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奴の行方

 保安事務所が視野に入った。リムはシオンに尋ねた。


「どうやって潜り込むつもり? 策はあるの?」

「潜り込む?」

「いい案がないなら、ワタシに任せて。保安事務所に潜り込むのは得意なの」

「? 普通に正面玄関から入るつもりよ。ワタシは第一発見者という事になってるんだから」


 リムはぼっと顔を赤らめ、慌てて取り繕った。


「そう、そうよね。わざわざ忍び込む必要はないわね。はは」


 そんなやり取りをしている間に、保安事務所の前まで来た。

 シオンがドアノブを掴もうと手を伸ばしたが、触れる前に物凄い勢いでドアが開いた。続いて、血相を変えたミクスが飛び出してきた。

 目の前にいきなり人が立っていたものだから、ミクスはつんのめり、あわや転倒するのではないかと思われるくらい体が傾いた。


「あ、シオン」

「なにかあった?」

「ああ、まあ……その……」


 歯切れの悪い返事をするミクスの背後で、男達の怒鳴りあう声が飛び交っているのが聞えた。


「なんで気付かなかった!」

「まだそれ程遠くには行っていない筈だ」

「襲われて気を失っている奴がいるぞっ」

「街の出入り口に何人か配置させろ」


 嫌な予感がした。リムとシオンは顔を見合わせた。


「もしかして、ダーダー?」

「いや……」


 二人の少女に睨まれ、ミクスは観念した。二人に聞こえないくらい小さく嘆息し、ぼそぼそと話し始めた。


「実はそうなんだ。奴が脱走した。何時かは分からないが、恐らく明け方近くに……」


 ミクスの話を最後まで聞かず、二人は同時に駆け出し、保安事務所に入り込んだ。


「あっ、おい」


 ミクスの制止を無視して、奥に突き進む。ダーダーが収容されていたであろう留置場を一目見て、リムは舌打ちをした。

 壁が崩れて大きな穴が開いている。これでは外にいるのとなんら変わりはない。壁の崩れ方から、ツェアシュテールングの魔法を仕掛けたのだと分かった。

 ミクスが追い付いた。本来なら勝手な行動を注意するところだろうが、あまりにも大胆な脱走の痕跡を前に、気まずそうに息を切らしている。


「見張りは? 付いていなかったの?」

「そんな筈ないだろう。ちゃんと付けていた。でも、眠って、いや、眠らされていた。我々が監視中に寝るなんてあり得ないから、シュラーフを使われたんだろう」


 この世界では、魔法という力のせいで抑留中でも監視の目が絶えることはない。アリアを詠唱し魔法を精製されれば脱出は容易で、抑留の意味などないからだ。考えられる事は、予め魔法を仕込んだ何かを持ち込んでいて、それを使用した可能性だった。


「身体検査はしなかったの?」


 顔がぶつかるくらい食って掛かるリムの迫力に、ミクスは一歩後退した。


「き、君は?」

「今はそんな事が重要? 身体検査はしなかったのかって訊いてるの」

「し、したさ。でも何も持ってなかった。

「口の中は調べた? お尻の穴は?」

「さすがに、そこまでは……」


 リムは保安官の迂闊さを罵りたくなった。悪名高いダーダー相手に、中途半端な身体検査で済ませるなんて。


「ダーダーとは話をした? 何か言ってなかった?」


 感情を必死に抑えているリムに対し、シオンは飽くまで冷静だった。


「よく覚えていないとか、記憶が途切れ途切れになっているとか、わけの分からない事を言っていたけど、不思議と嘘をついているようにも見えなかったな」

「記憶が? なにそれ?」


 再びリムが声を荒げそうになったので、ミクスは慌てて付け足した。


「いや、分からないよ。ここ数日は、まるで自分で考えて行動していたような気がしないって……まるで夢遊病だな」

「それだけ?」


 シオンの静かな問いが、ミクスの記憶に潜り込んだのか、「あ」と口を開いて続けた。


「あいつとはディビドで会ったとか言ってたな」

「あいつ?」

「それから、キーラと会わなければ、とか言ってたな」


 言ってから、ミクスは手を額に当てた。


「ん? そう言えばキーラって……」


 リムとシオンの視線が交差した。そこに、一人の中年男性が割り込んできた。


「あっ、ミクスッ」


 よほど慌ててきたのか、息を切らし、髪は振り乱れている。ここまで誰にも咎められずに来られたという事は、事務所内の殆どの者が出払っていると考えられた。

 シオンは男に見覚えがあった。魔法屋の主人、ラホテ・ガロドだ。この男の店で、何度か買い物をした事がある。


「悪いが、今は忙しいんだ。後にしてくれ」


 ミクスは無下に払ったが、ラホテは必死に食い下がった。


「今しがた、俺の家が強盗に襲われたんだ」

「なにぃ。なんだってあんたんちみたいな小さな店に強盗なんか……」

「奪っていったのは金じゃねえ。魔法の弾丸だよ。ブレンネンやらエクスプロジィオーンとかいった危険なもんばかり持っていきやがった」


 リムが割って入った。


「ひょっとして、銃まで奪われたの?」

「い、いや……」


 ミクスの気まずそうな態度は、明確な答えも同様だった。リムとシオンは一斉に駆け出した。


「あっ? おいっ」


 ミクスが追いついた時には、二人は既に事務所の前に繋がれていた馬に飛び乗っていた。


「この子、借りるわよっ」

「えっ? あっ」


 ミクスが叫んだ時には、リムは既に馬を疾駆させていた。

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