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銃と魔法と臆病な賞金首2  作者: 雪方麻耶
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少女二人

 夜が明けた。シオンはベッドの上で上半身だけ起こした。何度か微睡んだが、思い切り濃いコーヒーを飲んだみたいに熟睡できず、とても快適な眠りとは言えなかった。

 シオンは昨晩、ベッドの上で天井を眺めながら考えていた事があった。

 ダーダーには自分の魔法が効かなかった。ファントムは受けた者の心の奥底に入り込み、幻影を見せる精神系の魔法だ。つまり、あの時のダーダーには心が無かったという事になるが、そんな事があり得るのだろうか?


「…………」


 考えた末、導き出された答えは『あり得る』だ。

 自分と同じように、精神系の魔法を使う者なら、他人の自我を乗っ取り、意のままに操るといった芸当も可能なのではないだろうか。もちろん、今までに、そんな魔法の噂も使う者の噂も耳にした事がない。しかし、ファントムだって秘密にしているオリジナル・ソーサリーだ。自分が知らない魔法があってもおかしくはない。そして、そんな魔法を使いこなす者なら、強大な魔力を有しているに違いないのだ。そう、『暁に沈んだ街』を引き起こすくらいの強大な魔力を……

 勘。飽くまで勘に過ぎない。祖父がキーラと『暁に沈んだ街』を強引に結びつけたのに影響されたのか、推測とも言えない突飛な想像に囚われている。しかし、確かめずにはいられない。祖父と同様、あの日の事を忘れた時など、一日たりともないのだ。

 起き上がり、猫のように伸びをした。寝不足の眼に朝日が眩しい。無理やり伸ばされた四肢が縮んで戻るのを感じながら決心した。

 もう一度、ダーダーと対峙しよう。但し、今度は撃ち合いなしで。

 そうと決まれば、尋問が行われる前がいい。第一発見者という事になっているから、無下にはされないだろう。もし、門前払いを喰らったら、気付いた事実があるとか適当な事を言って入り込めばいい。

 冷たい水で顔を洗い、歯を磨いた。いつもと違う事をしようと決めても、染み付いた習慣は自然とこなせた。

 ワイズには黙って行く事にした。絶対に引き留められるか、一緒に付いてくるに決まっている。

 これ以上、祖父を厄介事に関わらせたくなかった。少し迷ってから、手紙を置いていく事にした。黙って居なくなったら、それはそれで心配を掛けてしまう。

 出掛けてきます。昼食までには帰ります。

 我ながら無愛想だと思う。言葉を飾るという芸当を知らない。必要最低限の言葉を綴った簡素な手紙を食卓に置き、音を立てないようにして家から出た。


 妙に鳥が騒ぐ。ワタシが行動を起こす事に警鐘を鳴らしていると考えるのは幼稚な発想か。数歩進んだところで背後に気配を感じた。振り向くと、リムがドアを背にして立っていた。

 リムはシオンの行動を予想していたらしい。寝起きとは思えないしっかりとした眼光、整った身だしなみ、携帯している銃とナイフ。

 少し呆れながらも、この展開を予想していたのかも知れない。あまりにもタイミングの良すぎる彼女の登場に、シオンはあまり驚かなかったし、気まずい思いもしなかった。

 リムは小走りでシオンに近づき、二人は向き合った。


「ダーダーに会いに行くんでしょう?」

「付いてくるつもり?」

「ワタシもあいつに訊きたい事があるのよ」

「キーラの事?」


 行動を読まれたお返しとばかりに、尋ねた。


「まぁ、ね」


 リムは曖昧に返事すると、歩き出した。シオンも倣い、自然と並んで歩く形となった。


「キーラに黙って行くの?」

「彼も一緒に行くって言ったけど、置いてきた。手配書の件があるから」

「あなたもそうでしよ」

「ワタシの似顔絵は男の格好をしている時のだから、普通にしていれば分からないわ」

「確かに、男前に描かれてたわね」

「…………」


 シオンの言い方だと、冗談なのか馬鹿にしているのか分からなかったので、無言でやり過ごした。

 そんなリムの胸中などお構いなしに、シオンは続けた。


「ダーダーは彼に会いたがっていたけど、理由は分かる?」

「それを確かめに行くのよ。ダーダーがキーラに会いたいってのが、そもそもおかしいもの」


 キーラによると、彼がこっちの世界に来たのは、リムと出会うほんの数分前との事だ。つまり、まだ10日も経っていない。トートゥの噂や賞金首になった事を差し引いても、情報の拡散が早過ぎる。なにか知らない裏での動きを感じるのだ。


「キーラは魔力を見たがってたと言ってたけど、彼の魔力ってそんなに凄いの?」

「やけに質問が多いわね」

「気になるのよ……」


 シオンは今まで、魔法というものは生活を便利にするために利用する道具のようなものだと捉えていた。しかし、キーラのトートゥや、ダーダーの得体の知れない魔法を目の当たりにし、考え方が変わりつつある。トートゥは禁忌の魔法と呼ばれているが、ひょっとしたら、魔法自体が触れてはならない禁忌の力なのではないだろうか? 暁に沈んだ街。あれがそんな力の暴走が引き起こしたものだとしたら、魔法に傾倒し過ぎるのは火中で火薬を扱うより危険な行為だ。 


「で? どうなの?」

「ワタシも詳しくは知らないわよ。彼と出会ったのはホダカーズでだし……」


 シオンはキーラが魔法を書き換えられる事も、ましてやアリアを介さずに精製出来る事も知らない。凄いどころか超弩級の魔力の持ち主だ。おいそれと人に話して良い事ではない。


「……多少はあるみたいだけど、肝心の使い方に関しては素人だから……」


 曖昧に濁すリムを横目に、シオンはふっと口角を上げた。


「気に掛けているのね」

「そ、そんなんじゃないわよ」


 そよ風の中、いつの間にか鳥の囀りは治まっていた。

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