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銃と魔法と臆病な賞金首2  作者: 雪方麻耶
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来訪者

 ナジカの屋敷は、朽ちてはいるが在りし日の華やかさを想像させるだけの威厳は残っていた。

 その威厳に相応しい深閑な空気が周囲を支配していたが、その静寂さがもたらすのは、落ち着きではなかった。毛穴という毛穴に極細の針を刺されるような不快な緊張に覆われ、思わず歩みも遅くなっていた。

 シオンは一歩一歩用心しながら近づいたが、漸く見張りは居ないと判断した。


「…………」


 こういう場合、すんなりと事が運ばないのが常だ。邪魔が入ったのはデクト率いる集団だけだったが、あれは計画的な行動ではなかった。デクトが勝手に先走りしたと推測するが、となると、残っているダーダーの手下は全てこの屋敷内に居ると考えられる。以前、噂で聞いた程度の情報ではあるが、ダーダー一家は30~40人の大所帯との事だ。

 ワタシ一人で切り抜けられるだろうか……

 先程のワイズとの戦いを思い出し、身が固くなり、ふいにキーラとリムの顔が脳裏を過ぎった。しかし、その像は素早く頭から排除した。

 彼らの助けを期待するなんて、弱気になっている証拠だ。やるのだ。このワタシが。

 シオンはガンベルトから弾丸を抜き装填した。その弾頭は濃い紫色をしており、表現し難い不気味な呪文が蠢いていた。ワイズにも秘密にしている、シオンのオリジナル・ソーサリーだ。


「行こう」


 シオンは自らを鼓舞する為、敢えて声を出して歩き出した。

 柱の陰を渡り歩きながら、徐々に屋敷の奥に迫った。外と同じで、一滴の水が落ちた音さえ聞こえるくらい静まり返っている。もしかして、ナジカの屋敷と決め付けたのは思い違いだったかと不安になりかけた時、300人は収納出来そうな大広間に出た。

 階段や柱には精密な彫刻が施されており、未だに見る者に重厚な印象を与える。しかし、建物そのものが朽ち掛けているので、その魅力は従来の半分も出せていないだろう。カーテンやテーブルがそのまま残っており、華やかな装飾のまま埃を被ったそれらは、ナジカ・ディゼルの栄光と没落の日々を想像させる演出道具となり下がっていた。

 奥に、男が一人座っていた。崩れて穴が開いている天井から光が差し込み、丁度その男を照らしていた。右腕を肘掛けに乗せ、気怠そうに頬杖をついているが、千人の群衆の中に居ても、すぐに見つけられる程の存在感を放っている。誰に説明されるまでもなく、レンダー・ダートンだと分かった。

 シオンは敢えてダーダーの前に姿を晒さた。二人の視線がぶつかり合う。シオンはすぐに違和感を覚えた。確かに自分と睨み合っているのに、奴の視線は照準が合っていない。ワタシをすり抜け、まるで背後に誰か居るみたいな錯覚を覚える。


「これは、可愛いお客さんだ」


 先に口を開いたのはダーダーの方だった。


「私の部下が失礼をしたようだな」


 頬杖をついたまま、左手でシオンの頬を指差した。


「……ワタシの祖父が、鼠に仕掛けられた魔法に掛けられ苦しんでいる。治療できる魔法を渡してほしい」

「君はキーラの友達か?」

「あんたが仕掛けた魔法なら、治療の魔法も持っているはずだ。渡してもらう」

「君のお祖父さんには気の毒な事をした。あれはキーラ・キッドが素直に来るように準備したんだが……」

「魔法を渡しなさい……」

「キーラはこっちに向かっているのかね? 君が此処にいれば、彼は来てくれるのかな?」

「渡せっ!」


 会話が成立しない事に業を煮やしたシオンは、ダーダーに銃を向けた。

 ほぼ同時に、柱やカーテン、階段の陰から、男達がぞろぞろと姿を現した。全部で30人位だろうか。男達は、デクトが引き連れていた連中と同じで、品性の欠片もない顔でニヤニヤとシオンを見ている。絡みつくようないやらしい視線だ。


「すまないが、キーラが来るまで大人しくしててもらうよ。こんな所で暴れられたら、埃が立ってどうしょうもない」


 ダーダーのくだらないジョークに、シオンを取り囲んだ男達が一斉に笑い声を上げた。


「そうそう。大人しくしててね」

「なんなら違う事して、埃まみれになっちゃう?」

「お前、ロリコンだったのか」


 ますます高まる下卑た笑い。

 まったく……なんでこういった連中は、群れの中に居るとこうも調子に乗るのか。


「お嬢ちゃん、なにか反応してくれよ。こうも囲まれちゃ、身動き一つできないか」


 シオンは、ダーダーを照準から外し、挑発してきた男に銃口を向けた。銃を向けられた男の笑い声がピタリとやんだ。


「おいおい、リスキェ。お前、狙われちゃったぜ」

「撃たれてやれよ。そんな可愛い娘にやられるなんざ、男冥利に尽きるぜ」


 周りの冷やかしに舌打ちをしながらも、リスキェと呼ばれた男は、口元にこびり付いたニヤつきを残すくらいの余裕は保っていた。


「お嬢ちゃん、強がりはやめなよ。もし俺を撃ったら、途端に蜂の巣だぜ?」


 シオンが指に力を込める。リスキェの口元からはニヤつきも無くなった。


「おい、それ以上はシャレになんねえぞ。囲まれてるのは理解してるよな?」

「そう。囲まれている。けど、この状況が良い。何十人にも囲まれてしまっている、この状況が良い」


 リスキェは一瞬きょとんとしたが、口元にニヤつきが戻った。


「ひょっとしてお嬢ちゃん、複数の男を相手にするのが好みか? その若さでとんでもないスキモノだな」


 リスキェの卑猥な一言に再び広間は爆笑に包まれた。笑っていないのはシオンとダーダーの二人だけだ。


「この状況が良い……」


 シオンは、いきなり四方八方に連射した。大広間に銃声が反響し、時間の流れを縛る。誰一人として、シオンが発砲するなどと考えていなかったので、反応するのに一呼吸の間が生じたのだ。

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