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銃と魔法と臆病な賞金首2  作者: 雪方麻耶
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落ち葉

 ジョルトを保安官に引き渡し換金を済ませた事で、少しだけ気分が晴れた。


「なにもこんな日に稼がなくてもいいだろうに」


 担当した保安官は、やや小太りで平和が何よりと考えていそうなタイプだった。きっと出世よりも平穏な毎日を大事にし、大きな手柄を立てる事もなく歳を取っていくのだろう。そんな温厚そうな保安官の一言に、リムはすかさず反論した。


「こんな日だからだよ。悪党がうろついてたんじゃ、みんな祭りを楽しめないだろ?」

「まあ、そうなんだが……あなた、何処かで見た気がするな」

「この街は初めてだけど?」

「そうか。なんかつい最近見掛けた気がしたんだが」


 保安官の曖昧な発言が気になったが、さっさと退散する事にした。金さえ受け取れば、こんな所に用はない。

 外に出ると、そこに光来が居たので、不意打ちを食らったみたいに立ち止まってしまった。


「リム」


 何故だが分からないが、少しだけ構えるような態度を取ってしまった。


「なんだ、こんな所で。シオンと踊っていたんじゃないのか?」


 嫌味になったかなと思いながらも、つい、そんな事を言ってしまった。


「リム、きみ、バウンティハンターなんかしてたのか」

「ギムだよ。僕の名前はギム・フォルクだ」

「ああ、そうだな。そうだった」

「それで、なんだっけ? バウンティハンターしてるのかって聞いたのか。そうだよ。それがどうかしたかい?」

「なんで、そんな危ない事を」

「旅を続けるには金がいるんだ」

「だからって……」

「じゃあ、どうすればいいんだ? 行く先々でバイトでもすればいいのか? それじゃいつになったらグニーエに近づけるか分かったもんじゃない」


 リムは適当に誤魔化そうと思うが、考えに反して態度が硬化していってしまうのを自覚していた。何に意地になっているんだ? ワタシは……

 轟音と共に花火が上がった。リムは背を向けていたので見る事は出来なかったが、白く照らされた光来はよく見えた。光来は実に悲しそうな顔をしていた。きっと、幼子が拾う事が出来ないのに捨て猫を見つけてしまった時なんか、こんな表情をするだろう。

 ちくりと胸が痛む。


「やめるつもりはないんだな」

「仕方ないさ。ここでだって、張り紙をチェックしていくよ」


 リムは賞金首の張り紙が並んでいる掲示板を親指で指差した。

 光来は汚らわしい物を見る目付きで張り紙に視線を移した。が、その目にみるみる険しさ増していった。


「なに? どうしたのさ?」


 光来はリムが指差した掲示板をのろのろと指差した。親指ではなく、人差し指でだ。


「それ……」

「ん?」


 リムは振り返り、張り紙を凝視した。


「なっ?」


 視線の先には、幾枚もの賞金首が並んでいた。いずれも一癖ありそうな連中ばかりだ。その中で、まだ真新しい雨風や陽光で傷んでいない張り紙が2枚掲示されていた。

 1枚にはお馴染みのWANTEDと極太のフォントで記された下に、光来の似顔絵が描かれており、その下にはキーラ・キッドと大きく書かれていた。

 そして、もう1枚には名前は不詳となっていたが、リムの似顔絵が実に男前に描かれていた。整った顔立ちが凶悪な男として描かれており、見る者には非常に残忍な人物と印象付けられるだろう。

 2人の頭には、瞬時に一人の男の顔が浮かんだ。ケビン・シュナイダー。ホダカーズを脱出する際、最後まで行く手を阻んだ男だ。ラルゴに向かう列車上でなんとか凌いだ。その後の彼の行動を知る術などなかったが、このラルゴの保安局に情報を提供し、二人を『お尋ね者』にしたのだ。


「あのクソオヤジィ……」


 リムは傷口から膿を出す様に悪態をついた。そして足速に歩き始め、保安官事務所から遠ざかろうとした。

 光来は慌ててリムの後を追った。状況が今一つ飲み込めないでいる。いや、理解はしているのだが、脳が情報を吸収するのを拒んでいると言う方が正しい。


「あれってどういう事だよ。なんで俺達が貼り出されてるんだ?」

「どうもこうも、そのまんまさ。ボクたちはお尋ね者になっちまったんだ」

「俺達に賞金が掛けられたって事か?」

「だからそう言ってるだろ。シャレにもならない。賞金稼ぎが賞金首になるなんて」


 リムの喋り方で、相当苛ついているのが分かる。今の状況は光来のせいではないが、その勢いに気後れしてしまう。


「早いとこ、この街を出よう。ボクはともかく、君の黒い髪と瞳は一目瞭然だ」

「それがいいかも。今夜はワイズさんちの世話になって、明日の朝早くに出よう」

「いや、このまま行こう。あの二人だって、ボク達に賞金が掛けられてると知ったら、通報するかも知れない」

「あの人達は、そんな事しないよ」

「どうしてそう言える? キーラは考え方が甘すぎる。もっと危機感を持てよ」


 光来は、リムの前に立ち塞がった。


「なんだよ?」

「リム。君はこれまで一人でやってきたんだろうが、そんなんじゃ、いつか動けなくなってしまう。もっと周りの人達に寄り掛かって良いんだよ」

「何を言ってるんだ?」

「黄昏に沈んだ街に巻き込まれて、人生を変えられたのは、君やワイズさん達だけじゃない。もっとたくさん居るはずだ。その人達と協力すれば、君の負担だって減るだろ」

「いいや、これはボクがケジメを付けなくちゃいけない事なんだ。他人の手は借りない」

「俺も他人か?」


 リムは言葉に詰まった。矛盾を突かれたからではなく、光来の剣幕に気圧されたからだ。


「俺たちは相棒だろ?」


 重ねて迫る光来の必死さに対応できない。ずっと流浪の生活を続けてきた彼女は、これほどまで真摯に訴えてくる者の存在などなかった。だから、どう切り返せばいいのか分からなかった。上手く反論出来ない者の常套手段で、話題を逸らすしかなかった。


「とにかく、行こう」

「俺は行かないよ。まだワイズさんとシオンにちゃんと礼を言ってないから」


 リムは光来を睨んだ。光来は目を逸らさず睨み返してきた。

 ふっと息を漏らす。この男の厄介なところだ。普段は気弱な態度に終始しているくせに、鋼の様に硬い決意を見せる時がある。そして、そんな時の彼の選択は正しかった。


「……分かったよ。今晩だけだ。明日には此処を発つぞ」


 リムが冷静さを取り戻してくれたので、光来は内心ほっとした。気の張りを緩め、周囲に気を配る余裕が出来たら、妙に静かな事に気付いた。

 ああ、花火が終わったのか

 つまり、今夜の祭りはこれで終わりなのだろうか。光来はダンスの途中で別れたシオンを思った。リムを追うと告げた時、彼女は静かに「いいよ」と言った。感情が表に出ない娘だが、踊っている最中に放り出されて不愉快に思わないはずがない。結構ひどい事しちゃったかなと、急に不安になった。帰ったら謝ろう。

 花火が終わったせいで、急に街角が暗くなった。東京は深夜でも真の闇に飲まれる場所などそうそうない。頼りない僅かな街灯だけで進む道は、光来を落ち着かなくさせた。

 名も知らぬ木々が並んでいる通りに出た。まるで2人が通るのを待ち構えていたように一陣の風が吹き抜け、辛うじて枝にしがみついていた葉が次々と舞い落ちる。


「おお……」


 光来は、幻想的な風景に思わず感嘆の声を上げた。花火のような人工的な美しさは目で楽しむものだが、こうした自然からの贈り物は、心に染みる美しさがある。


「ワタシはさ……」


 前触れもなく、リムが呟いた。男装を解いていないのに、ボクではなくワタシと称した。


「ワタシは、落ち葉を見るのが好きだ。落ち葉だけじゃない。花びらでも、紙吹雪でも、真っ直ぐに落ちるのではなく、ひらひらと予測出来ない動きで、なかなか落ちないところが良いんだ」


 光来は、リムの言葉を自分に言い聞かせるように喋っていると感じた。最後は地面に落ちるとしても最後まで抵抗を続ける落ち葉に、自分の運命を重ねているのだろうか。リムは慰めを求める性格ではないと思うが、どんな人間でも落ち込む事はある。

 そう思ったから、言ってみた。


「落ちるだけじゃないしな」

「ん?」

「風が吹けば舞い上がる」


 光来が遠回しに元気付けようとしているのが伝わったのか、リムは口元に微笑みを浮かべた。肩に入った力が抜けたような、ごく自然な笑顔で、こちらの方がリム本来の表情なんじゃないかと思わせた。

 リムの微笑みを見ていたら、急に心が浮き立った。目の前を舞い落ちる数え切れない落ち葉に手を伸ばしたら、一葉が掌に収まった。握れば砕けるほど脆く、切ないまでに軽い存在だが、それは確かに光来の掌にあった。

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