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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

やさしい蒼銀の空が広がる

作者: パルコ

某アニメの劇中歌を聞いて、浮かんだ話です。

楽曲に合わせて切ない感じになってます。

    水の中を漂いながら、頭上に広がる輝きを見つめる。

    銀色がかった青い光が空のようで―――

    美しい水妖が零した涙は、そのまま海水へ溶けた。


 水妖のメルは、月光に導かれるように上がっていった。海底からみる海面は、月の光が照らされて明るく輝いている。海の中から顔を出して、辺りを見回すと、大きくて平らな岩に華奢な少年が座っているのを見つけた。メルは目を輝かせて少年に近づいていった。メルの姿を見た少年もまた、ぱぁっと笑った。

「メル! 会いたかった!」

「ああ、私も会いたかったぞ。ユーリ」


 メルと少年・ユーリが出会ったのは、十五日前。満月が欠け始めた夜、メルは海から上がって巨岩に座って歌っていた。優しい、それでいて切なさが混じる旋律を紡ぐ。雄ながら透明感のある声がさらに歌の切なさを引き立てた。メルが満足して歌を止めると、今度はメルより少し高い歌声が聞こえた。メルが声のする方に視線を移すと、そこには細身の少年がいた。真冬の夜だというのに、少年はシャツとジーンズという軽装だった。ここから離れて海へ戻らないといけない、と理解はしているはずなのに、メルは少年から目が離せなかった。しばらく岩陰で彼の歌を聞いていたその時、

「君も歌いに来たの?」

いつの間にか少年がメルの目の前に来ていた。まずい、逃げなきゃ、そう思っていると少年は微笑んだ。

「僕はユーリ。月の光に導かれてここに来たんだ!」

月の光に導かれた。ロマンチックなことを言って犬歯を見せて笑うユーリが、とても愛おしく思えた。


 メルとユーリは毎日、夜の海で一緒に過ごした。他愛ない話をすることが、一緒に歌うことがとても幸せだった。日が昇ると、まだ一緒にいたいと別れを惜しみながらユーリは街へ、メルは海底へ帰って行く。

しかし、時間が限られていても、別れの時が来て寂しさがこみ上げても、メルとユーリは会うことを止めなかった。月の光だけが照らす夜の海で寄り添って過ごすことが、この短い時の間で、お互いにとってかけがえのないものになっていたのだった。

 それからもメルとユーリの関係が続き、この日も二人は共に夜を過ごしていた。

「メルの鱗、いつ見てもすごい綺麗……。ふふっ! キラキラだ~」

「お前が気に入ってくれたなら、私はこの鱗で良かった……」

夜の闇に不釣り合いなユーリの明るい笑顔、笑ったときに見える鋭い犬歯にメルは心惹かれていた。一方、ユーリはメルの青く輝く鱗に白い肌、そして、慈しむような微笑みと声に惹かれていった。

「あ……もう朝になっちゃう……」

「また夜に会えるさ」

「でも………。うん、そうだね……。メルは、人間に見つかったら大変だからね……」

メルは水妖で、自分とは種族が違う。もし人間に見つかったら、殺されて晒し者にされる。それはユーリにも分かっていた。

「そんな顔をするな、ユーリ。……私が水妖でなかったら、いつまでもお前といられるのにな……」

「メルこそ! そんなこと言わないでよ……。むしろ僕が……」

「ユーリ?」

「……っ! ……もう明るくなっちゃったね……」

「ああ……」

空がもう白んできている。もう時間がそこまで来ていた。また空が闇色に染まった時、また会おうと二人はそれぞれの世界へ帰っていった。


    美しい水妖が消えて静かに波を打つ海を見つめ、

            ユーリは涙を流さずに泣いた―――――


 今夜は、雲一つない真っ暗な空に月が一段と明るかった。今夜もいつものようにメルとユーリは歌を歌い、空を眺めて話をしていた。しかし、今夜はいつもと少し違った。ユーリのあの笑顔がない。あの明るい笑顔が好きなのに、今日は今にも泣きそうな顔をしている。メルはそれが酷く寂しく感じた。

「ユーリ、なにか悲しいことでもあったのか?」

メルがそう聞くと、ユーリは無理やり口角を上げるようにして笑った。

「メル……。もう、お別れなんだよ」

ユーリの言葉がナイフのようにザクリと心に刺さって、痛みと血が流れる感覚を感じた。

「嫌だ……何故だ、どうしてだ! ユーリ!」

「僕は、月の光に導かれてきたから」

離れたくない、と必死に問い詰めるメルに対して、ユーリは答えた。無理をして上げた唇の端は震えている。

「今夜は……満月だから……」

そう言われて、メルは空を見た。真っ暗な空には丸い月が光を放っている。この丸い月が、今夜ユーリを連れて行く。そう思うと心に光を失くしてしまいそうだった。

「メル……聞いて……?」

「ユーリ……?」

「僕……メルが好き……。大好きなんだ……」

いつも無邪気な笑顔を見せるユーリが、眉を下げて泣きそうな顔で告白する姿は儚げで、憂いを帯びた艶を含んでいた。メルの心が音をあげて、端正な顔をくしゃりと歪ませた。

「ユーリ……! 私も……お前が好きだっ!」

きめ細かい白い肌には涙がはらはらと流れている。顔をくしゃくしゃにして自分の思いを伝えたメルに、ユーリは胸がいっぱいになるのを感じていた。

「ほんとに? うれしいっ……うれしいよメル……」

「あぁ……私も嬉しいぞっ……ユーリ……」

水妖と少年は、満月に照らされながら抱き合って泣き通した。頬を伝う涙が温かくて、思いの外自分たちの体が冷えていたのを知る。


 「もう、行かなきゃ……」

ユーリが泣き腫らした顔で、掠れた声で言った。

「今までのこと……ずっと忘れない………」

掠れた声のまま、ユーリはそう言って、メルの唇に自分のそれを重ねた。メルは戸惑いながらも、ユーリの唇を受け止める。夜中ずっと海にいたせいかユーリの唇は冷たかった。

「メル………さよなら……」

切なげに眉を寄せて、ユーリはそのままメルを振り返らずに行ってしまった。追いかけようとした時にはもう、ユーリは見えなくなっていた。

「ひっく……ふぅ………うぅっ…………」

メルは声を押し殺して泣くことしか出来なかった。


 いつ海底に戻ったのか、どれだけ泣いたのか、メルは覚えていなかった。ただ、ユーリはもう自分の前には現れないということは直感で分かった。もう自分は海を上がることはないだろう。愛する彼との思い出が多すぎて、きっと胸が締め付けられるから。そう胸の中で呟きながら、メルは光が差し込んで輝く水面を、海の中から見つめていた。


  泣いていることには、気づかない――――


   水の中を漂いながら、頭上に広がる輝きをみつめる。

   銀色がかった青い光が空のようで―――

   美しい水妖が零した涙は、そのまま海水へ溶けた。


   それは、水妖が一人の少年を愛した証――――――――


ユーリの正体は、みなさんで想像してみてください。

相変わらずバラバラですが、読んで下さってありがとうございます!

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