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短編 お題無し

かつてサンタを信じていた私が、聖夜、サンタに説教された話

作者: Win-CL

 中学校に上がるまで――――――、

私は、『サンタクロース』という存在を信じて生きてきた。




 特に七歳のころは、病的なほどだった。

というのが両親の談。


 代表的なエピソードとして、こんな話がある。



 父親がこっそり、願い事に書いていたプレゼントを

枕元へ置く瞬間を目撃してしまったという、

なんともよくある、テンプレ的な展開。



 本来なら、「『サンタ』の正体は、実は父親だったんだ」と、

現実を知り絶望するはずが――――、


 何を思ったのか、「父親は実は『サンタクロース』だった」と、

そう信じて疑わなかったのだ。当時の私は。



 いま思い出しても、顔から火が出るほどに恥ずかしい。



 流石に、上の学年に上がるごとに、

同じように『サンタ』を信じる人が少なくなってきたため、

最終的には、願い事なんてことはしなくなったけど。


 あのエピソードは、

今でも両親に格好のネタとしてイジられる人生の汚点だ。



 そんな夢見がちだった私も、時の流れには逆らえず。

今年で二十一歳、来年度で大学を卒業する年齢になってしまった。

もう早い人は就職活動を始めている時期だ。



「特になりたい職業もないんだけどなぁ……」



 何か目的をもって大学に入ったわけじゃないし。

適当に勉強して、適当に就職活動をして、

適当な会社に入れればそれでいいやと思っていた。



 幸い、大学に十分な数の求人は来ているみたいだし、

春の終わりあたりから、ぽつぽつと受けてみようかと考えてはいるけれど……。


――――――――――――――――

――――――――



 そんなダラダラした人生を送っているうちに、

街はクリスマス一色である。



「小さいころはサンタとか信じてたなぁ……」



 社会人になる一歩手前、大きな区切りのある年だからだろうか、

なぜだか、今年はサンタへ願い事をしてみようかと思った。



 ……今思えば、

どうせ叶うわけがないのだからと、

適当なものを書いておけばよかったのだ。


 ブランドものの財布が欲しいでも、アクセサリーが欲しいでも、

格好いい彼氏が欲しいでもなんでも良かったのだ。



 なのになんで私は――――――――、

よりにもよって、『サンタになりたい』などと書いてしまったのだろうか。



 就職活動が目前に控えていたから?

自分の中で抑圧されていた、なにかが飛び出してしまったのか?



この、『サンタになりたい』という願いを書いた結果――――。



――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――

――――――――


「おい! 起きろ」


 ――――叩き起こされた。

深夜に。『サンタ』に。


 この部屋が3階だということと、

絵に描いたような紅白の服に白髭だったから、

『サンタ』だと分かったけど――――――。


 どれか一つでも要素が欠けていたら、

叫び声をあげて警察を呼んでいただろう。



「この願いを書いたのはお前か? 間違いないな?

 お前しかいないし、そうだろう」


 突然の出来事に頭が働かない。

出来ることと言ったら、黙って頷く程度。



「気軽に『サンタになりたい』とか書いてたけどさぁ、

 みんな努力した結果、『サンタクロース』という職に就いてるんだぞ?」


 勉強机の椅子をガラガラと引き出して座りだした。



「おじさんだってなぁ、中途採用で、長い下積みを続けて、

 やっと去年、『サンタ』の職に就いたんだ」


「そもそも、資格は持ってるの?

 取れる時に取っておかないと、おじさんみたいに、

 年取ってからプレゼント配るようになるよ?」



「資格?」



「そう、資格。

 ソリの運転免許とか」


「ソリ!?

 あれって、乗るのに免許がいるの!?」



 トナカイにひかせてるし、空を飛ぶし、扱いは普通のソリではないらしい。

目の前のおじさんが、なんだかトラックの運ちゃんに見えてきた。



「そりゃあそうだよ。

 停める場所だって、細かい法律で決まってるんだから」



 ――――駐車禁止みたいな決まりがあるのだろうか。

そもそも、誰が取り締まるのだろう。



「え、あれって、ちゃんと場所が決められてるんだ……」



 てっきり、停められればどこでもいいものだと思っていた。



「最近は免許を持ってないからって、他の『サンタ』のソリに同乗して、

 プレゼントを配る若者も増えてるけど。

 『サンタ』としては、些か常識に欠けてると思うんだよねぇ」



「は、はぁ…………」



「やっぱり、この仕事って早さが売りだから。

 ソリに乗れない社員を増やしても、

 仕方がないとおじさん思うんだけどなぁ。

 上司は何を考えているんだか」



『サンタ』の上司ってなんだ。

 まとめあげる長みたいなポストがあるのだろうか。


――――――――――――――――

――――――――


「とりあえず、条件を整えてからだね、

『サンタになりたい』という願い事を書くのは。

 そしたら、担当の人が迎えにくるから」



「え、担当の人……?」



「そりゃあ、人事担当の『サンタ』もいるさ。

 もちろん、広報担当の『サンタ』もいる」



「よくテレビに出てるだろう。

 南国にバカンスに行ってたり……」



 あれは、広報活動だったのか……。

別に知りたくもない情報を聞かされてしまった。

 


半ば呆れている私を尻目に、

チラチラと時計を気にしはじめる『サンタ』のおじさん。



「そろそろ、次の所に向かわないといけないな、

 他の子供たちにプレゼントを届けにいかないと――――」



 そう言うなり、いそいそと窓から出ていく。

窓の少し下の、ちょうど二階と三階の間に停めてある。



 手綱を引くと、トナカイが走りだし、ソリが出発した。

そして、向かいの家の窓の下へ駐車(?)する。


 そうやって、子供たち一人一人にプレゼントを届けに行くのだろう。



――――――――――――――――

――――――――



『サンタ』が実在した、という喜びよりも、

『サンタ』に説教され、愚痴を聞かされたという驚き。


 それでも、『サンタ』のおじさんが最後に残した一言が強く印象に残った。



「資格取らないといけなかったり、

 会社(?)の中でいろいろ不満があったり、

 それなのになんで……『サンタクロース』を続けているんですか?」


「大変なこともたくさんあるけど、

 その分、仕事が楽しいと感じることもたくさんあるんだ。

 それに何より――――――――」


「世界中の子供たちにも、

 笑顔になってほしいからさ」



『サンタ』のおじさんは、

そう、笑顔で言ったのだ。


 子供のような笑顔で。

まるでそれが至上の喜びであるかのように。


――――――――――――――――

――――――――


 その夜は、もう完全に目が覚めてしまって。



 布団に入っても全く寝つける様子がなかった。



 手には『サンタ』に突き返された、

願い事の書かれた紙。




「ソリの免許って、どこに取りにいけばいいんだろう……」








 まず、両親になんて言えばいいのだろう。









『サンタになりたい』だなんて――――――――――――。




少し気が早いですが、クリスマスの話です。


当日は、誰もかれも

キャッキャウフフで忙しいと思いますので。

このぐらいに書いた方がちょうどいいのではないかなー、と。



ちょっと調べてみたのですが、

『トナカイの運転免許証』なら、

フィンランドでもらえるようですね。


厳密に言えばソリではないし、

免許というよりは、証明書みたいなものらしいですが。


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