まずは基礎から
『そういえば、天から落ちてきたって事はフミャって死んだのよね?』
チェフのあまりにも単刀直入過ぎる質問に、言葉を失った。というよりは、まだあまり話せないというのが正しい表現だと現段階では言えるだろう。
しかし、フミャは頑張って、口を開いた。
「わたし……死んだよ……。でも、人間……くようして……くれた……」
涙ぐましいほど、頑張って話しているが、しかし……
まるで外国人が日本語を話すのと同じくらいのカタコトな話し方だった。
そして、秋葉原なら間違いなく、オタク達を落とせる萌えボイスだった。
さらに未だに全裸だ。はたして、毛皮の服はどこに消えたのだろうか?しかし、そんな事は今はどうでもよい。
チェフは優しく声をかけてあげた。
『そっか。優しい人が供養してくれたんだね。良かったわね。それより、服着ない? 流石に寒いでしょ?』
「さむい……。なんで……?」
普段は毛で覆われている為、寒さには多少なり耐えれたが、今は凄く寒い。
しかし、人間の事をあまり理解出来ていないフミャには、その理由も把握できなかった。
すると、チェフは徐々に不敵な笑みを浮かべながら、語りかけた。
『仕方ないわねぇ。あなたに基礎を一から叩き込んであげるから、まずは服を着方を教えてあげる! その後でたっぷり可愛がってあげるわ……。うちの猫ちゃん……。ウフフ……』
そう言うと、チェフは黒笑いしながら、フミャに近づき、ロングTシャツを頭から被せて、服を着させたが、やはり強引過ぎたのだろうか、フミャが服を着るのを拒んだ。
『な、何よ。うちの親切を否定するつもり!?』
チェフ自身には強引という自覚が無いようだ。むしろ、強引という言葉が存在していないのかもしれない。
少しは自覚がして欲しいと思うフミャは幸運なのか不運なのかわからないが、命の恩人には代わりはないと猫でも理解はしていた。
だから、素直にならなきゃとフミャは拒みを止めて、チェフに言った。
「ごめん……。服……教えて……」
フミャは(I LOVE サバ)シャツを被ったまま、萌え声でチェフに頼んだ。その姿を見てチェフは悶えた。
しかも、ダイナミックかつ、気づかれぬ様に悶えた。
(な、何なのこの子!? 急に素直になっちゃって、可愛すぎるわ! ペットにしたいくらいだわ!!)
フミャが待っているにも関わらず、チェフは脳内で暴走していた。チェフは一度、深呼吸して落ち着きを取り戻す。
『さて、フミャ! 服の着方をもう一度、教えてあげるから、よ〜く聞いてなさいよ!』
「う、うん……」
チェフがさっきよりもテンションが高い事に気付き、少し引いてしまった。猫でも状況は(服で)見えなくても分かるのだと自分で納得した。
その後、チェフに手取り足取り、教えてもらいながら、何とか最後はフミャ一人で服を着る事が出来た。
「チェフ……? 着れた……かな……?」
『うんうん! バッチリだよ! 本当にTシャツ(のI LOVE サバ)がよく似合ってるわ! 猫だけにね……』
チェフが最後だけ小声で呟いた。しかし、フミャには聞こえてなかった様だった。
「そぉ……? 良かった……」
フミャは着れた事、それを褒められた事が純粋に嬉しかった。そして、その顔はチェフが見た中で一番良い笑顔だった。
「ぇっへへ……。ありがとう……。チェフ」
その満面の笑みにチェフは心を撃たれてしまった。