野良猫に出来た新しいもの
走馬灯のように過去の記憶を駆け巡り終え、ようやく意識を取り戻した。
「ちょっと、大丈夫!? ずっと白目向いてたけど、意識は戻った!?」
どうやら、過去の記憶を駆け巡っている間、ずっとうなされていたらしく、この世の者ではない程の酷い顔をしていたらしい。
それでも、彼女はわたしをずっと見守ってくれていたんだと心の中で感謝して、少女に微笑みかけた。
すると、急に微笑んでくるものだから、少女は照れと戸惑いを隠し切れず、
「な、何よ、急に……! うちは何も知らないわよ!」
と、声を上げて、彼女がツンデレな所を見せた。
しかし、そのツンデレな対応も今の野良猫には嬉しかった。
なぜなら、野良猫の目の前に話し相手がいるのだから。
あの走馬灯のお陰で辛い過去よりも、一時の幸せな想い出が蘇り、裏路地以上の安心感が野良猫を包んでいた。
すると彼女は野良猫に不意にあの問いを再び、少女は投げかけた。
「それで……さっきも聞いたけど、あなたは服はどうしたの? ずっと着てないと風邪ひくよ?」(第3部参照)
「ふにゃ……?」
相変わらず、言ってる事が理解出来ないでいた野良猫だった。
それもそうだ。元々、猫は毛で覆われていて、着衣の必要がないのだから、ある意味で裸に近い様で、既に服を着ている様なものだった。
しかし、人間視点からすれば、裸に見えても、実に致し方ない事なのかもしれない。
「困ったわね……。こんな格好じゃ、外を歩けないわ……。ていうか、ここは外だけどさ……」
一人でボケとツッコミを入れながら、辺りを見回す。
すると、木の下に何とも、都合よく白いが少し汚れた布を見つけた。
「あら、あれ良さそうね!」
そう言うと、少女は布のある木の方へ走り出した。
「フミャ! そこで待ってなさい! すぐに取ってきてあげるから!」
(フミャ……? どこからそんな言葉が出てきたのかな?)
と、野良猫は疑問を感じつつも、少女の帰りを待った。
数分後、少女は野良猫に『I LOVE サバ』と記されたロングロゴTシャツを持ってきた。
「これ、あなたにぴったりなシャツだと思わない? フミャ?」
何だか、凄く嬉しそうに言うものだから、断り切れずに受け取った。
猫でも空気は読める時は読める。
「あっ、あとね? あなたは今日から『フミャ』って呼ぶからね? 空から『ふみゃぁあ!』って叫んで落ちてきたから、『フミャ』よ! それとうちの名前はチェフって言うの。これから、うちらは友達だから、よろしくね! 『フミャ』!」
野良猫は(強制的に)フミャと名付けられた。
でも、また友達が出来たから、それはそれで良かったかなと思うフミャだった。
それにしても、強気な子だなぁっと少しばかり戸惑いを隠せない所をもあった。
でも、久し振りのお友達だもの。仲良くやらなきゃね! と感じたフミャは元気良く返事をして答えた。
「にゃぁ!」
しかし、チェフは想定外の解答を返してきた。
「あ、あのさ……。にゃぁにゃぁ言われてもわからないんだよね……。あ〜、少し待ってね?」
そう言うと、チェフはどこかに話し始めた。独り言なか? フミャには、そういう風にしか見えなかった。するとチェフが戻ってきて、フミャにカプセルを手渡した。
「ふみゃ?」
よくわからない出来事に首を傾げた。すると、チェフはこう言った。
「モエボイカプセルよ。早くそれを飲んで」
しかし、フミャはちょっと不安そうにカプセルを見つめていたが……
「んもぉ……! じれったいわね!」
と言うと、フミャの口を強引に開けて、カプセルを飲み込ませた。
「んぐっ!? ゲッホゲホゲホ……! ハァハァ……」
「うんうん! あなたは多少、強引にやるのが一番かも知れないわね」
チェフが不敵な笑みを浮かべる。
「にゃ……にゃに言ってん…………」
再び、フミャが黙り込んだ。無理もない事だ。
急に言葉が話せる様になったのだから。
そして、物凄く萌えな声になっていた。
さらに思った。やっぱり、この子は少し強引過ぎるかもと……。
「ウフフ……。どう? 人語が話せる様になった気分は? しかも、すんごく可愛かったわよ〜! ウフフフフッ……」
チェフは黒笑いしながら、得意げに言った。
その姿を見て、フミャは急に恐怖心が湧き、先行きが不安になってしまった。