とある昔の出来事
穴に落ちる少し前の事だった。
ここは鉄の塊が通ることのない公園。その片隅にあるベンチの上でのんびり過ごしていた時、どこからか飛んできた野球ボールが野良猫の目の前に転がってきた。
野良猫はそのボールをしばらく見つめていた。
そして、何も起こらないと確信したので、ボールへ近づき遊ぶ事にした。
左前脚でボールを弾き、反射的に右前脚でボールを弾き飛ばして、ボールを転がし、ボールと戯れていた。気付いた頃には野良猫はボールの様に丸まっていた。
その時だった。白い茶色く汚れた服を着て白い帽子を被った体格の良い青年が、戯れる野良猫の目の前に現れた。その青年の右手には金属バットが握られている。
そして、野良猫にいきなり怒鳴り始めたのだった。
「おい邪魔だ! 野良猫が! さっさとそのボールを返せ!」
しかし野良猫は青年を少し見つめた後、再びボールと戯れ始めた。
すると、青年は顔色を変えてこう告げた。
「おい、この薄汚い野良猫……。最後の警告だ、そのボールから早く離れろ……!」
そう言うと、持っていた金属バットで地面を叩きつけて威嚇した。
流石に野良猫もその気迫と音に驚いたが、ボールを気に入った為、離すつもりは全くなかった。
それを見た青年は堪忍袋の尾が切れてしまい、勢いにまかせて野良猫を蹴っ飛ばした。
するとそのまま野良猫は道路まで飛んでいき、倒れ込んで気を失ってしまった。